2020年12月20日日曜日

環境計量士のためのPoint 解説 ハロゲン化アルキルとSN2 反応

はじめに、ハロゲン化アルキルについて考えてみましょう。

真ん中にSP3炭素があり、全体で正四面体構造となっています。

X は Cl, Br, I といったハロゲン元素を表します。

ハロゲンは電気陰性度が大きいことが特徴でしたから、ハロゲンはマイナスに、炭素はプラスに帯電し、炭素ーハロゲン結合は分極します。


次に、このプラスに帯電したSP3炭素を狙って、求核試薬(Nu-)が現れます。

求核試薬はSP3炭素にアプローチを試みますが、マイナスに帯電したハロゲンが求核試薬に対してシールドの役割をするため、近づくことができません。

そこで、求核試薬はハロゲンが居ない、反対側から炭素原子にアプローチします。

そして、力任せにハロゲンから炭素を引き離すイメージで炭素を奪い取ります。(あくまでもイメージです!)

このとき、立体構造が反転します。

動画でも確認してみましょう。

このようにSN2反応では、ある立体の化合物を原料に用いると、得られる生成物はそれを反転した化合物が得られることが大きな特徴です。

そして、つの分子による求核的な(Nucleophilic)置換反応(Substitution reaction)という意味から、『SN2 反応』とよばれています。


参考文献と参考動画

亀田和久『亀田講義ナマ中継有機化学』講談社サイエンティフィック(65~75ページ)




2020年12月7日月曜日

環境計量士のためのPoint 解説 エナンチオマーとRS表示

1.エナンチオマーとは?

エナンチオマー(Enantiomer)は、高校で学習する鏡像異性体のことです。

「鏡像異性体って何だっけ?」

という人は下の動画で復習してください。


動画で解説されていたように、乳酸にはエナンチオマー(鏡像異性体)が存在します。

立体的な形が少しだけ異なる2つの乳酸(鏡像異性体どうし)には、何か異なる性質があるのでしょうか?

鏡像異性体は形がよく似ているだけでなく、沸点、融点、密度などの物理的性質や、酸塩基反応や酸化還元反応に関する化学的性質も同じです。

しかし、生物に対する作用(生理作用)と、光を回転させる性質(光学活性)に違いがあります。

生理作用の場合、片方が良薬だとしても、もう一方が毒薬になることがあり、実際にこれが原因でサリドマイド事件は起きました。



2.光を回転させる性質(光学活性)とは?

光を「回転させる」というより、光を「ひねる」という表現のほうがイメージしやすいでしょう。


動画では果糖の水溶液に光(偏光)を通すと,光を「ひねる」現象が紹介されていました。

ところで、「ひねる」という現象には時計回りに回転する「右ひねり」と、反時計回りに回転する「左ひねり」があります。

エナンチオマーの場合「対」になっていますから、一方が右向き(時計回り)にひねるのであれば、もう一方は左向き(反時計回り)にひねることになります。

そして、右向き(時計回り)にひねる性質を右旋性といい、正号(+)をつけます。左向き(反時計回り)にひねる性質は左旋性といい、負号(-)をつけます。

右旋性と左旋性は旋光計という装置で簡単に調べることができます。


3.RS表示とは?

エナンチオマーの区別には、ラテン語のrectus(左)、 sinister(右)にちなむRS表示を使います。

R体かS体かの判別は、次の手続きで進めます。

  1. 不斉炭素に結合した4つの原子(原子団)に、原子番号が大きいほうから①番、②番、③番、④番と番号をふる。
  2. ④番の原子(原子団)を紙面奥側になるように、構造式を回転させる。
  3. 残った優先順位1~3の原子(原子団)を1→2→3の順序で見たとき、それが時計回りなら R体、反時計回りなら S体。




3.“+/-” 表示と RS 表示には何か関連性はありますか?

両者の間に、関連性はありません。

RS 表示は分子のミクロな性質(構造)を表し、“+/-” 表示は分子集団のマクロな性質(旋光性)を表します。

両者の性質を伝えたいのであれば、(R)-(+)-「化合物名」のように表示を組み合わせて表記します。

たとえば、分子構造がS型で左旋性の2-ブロモブタンは、"(S)-(-)-2-ブロモブタン" と表記します。


4.参考文献と参考動画

『スペンサー基礎化学 物質の成り立ちと変りかた(下)』東京化学同人


2020年8月30日日曜日

限られた時間で環境計量士(濃度関係)に合格する勉強法

環境計量士(濃度関係)試験に合格するためには、試験で6割ぐらい正解する必要があります。出題される問題数が1科目当たり25問ですから、その6割である15問正解すれば良いということです。


具体的にどのようにして勉強を進めれば良いのか?

多くの人は参考書や問題集を購入して、最初のページから丁寧に勉強してしまいがちですが、それでは限られた勉強時間を有効に活用できないでしょう。

限られた勉強時間を有効に活用したければ、毎年出題される内容を把握し、それらを優先的に繰り返し学習する必要があります。


毎年出題される内容とは?

『化学分析概論及び濃度の計算』の平成27年から令和元年までの過去6回分の出題傾向を分析したところ、毎年出題される内容が4つありました。

次の試験で必ず出題される確証はありませんが、その可能性は高く、勉強する価値はあります。

①ガスクロマトグラフ (問3)
②原子吸光光度計 (問9)
③排ガス試料採取方法 (問13)
④浮遊粒子状物質自動計測器 (問24 or 問25)

※カッコ内の数字は、出題される問題の番号を示す。たとえば問3は毎年、ガスクロマトグラフについて出題される。

経済産業省のホームページに、第59回から現在までの過去問が掲載されています。これをダウンロードし、上記4つの内容に関連する問題を繰り返し学習すれば、本番でもほぼ確実に正解できる力がつくはずです。

これで4問が正解! 合格まであと11問!

関連ページ

次に学習する内容は、平成27年から令和元年までの過去6回のうち4回以上出題された、⑤~⑪の7つです。

⑤吸光光度計 (問5)
⑥ICP発光とICP-MS (問7)
⑦排ガス窒素酸化物 (問8 or 問10)
⑧排ガス中の酸素自動計測器 (問11 or 問19)
⑨ガス分析装置の校正 (問15)
⑩流れ分析 (問19)
⑪GC-MS

これらも過去問で繰り返し学習します。

私の勝手で無責任な予想ですが、次の試験で4問ぐらいは⑤~⑪に関連した問題が出題されるのではないでしょうか?

これで合計8問正解です。 合格点まであと6問‼

関連ページ

続いて学習するのは、計算問題と平成27年から令和元年までの過去6回のうち3回出題された⑫~⑱の7つです。

計算問題を苦手とする人もいるでしょう。しかし、計算問題は毎年必ず3問出題されますし、その難易度も高校生レベルの問題ばかりですから、これを捨てるのはもったいない。

また、⑫と⑬は毎年交互に出題されます。たとえば、令和元年では⑫が出題されたから、翌年は⑬が出題されると予想できます。

⑫pH測定法 (問1)
⑬イオン電極法 (問1)
⑭IC
⑮赤外線ガス分析計
⑯水素化ヒ素
⑰HPLC
⑱不確かさ

ここまで繰り返し学習ができているのであれば、ほぼ合格圏内でしょう。

あとは前年の過去問を中心に2~3年分の過去問を勉強すれば、合格できる力は確実についているはずです。

あとは運のみ。健闘を祈る。

関連ページ


参考動画





2020年8月17日月曜日

溶融メタルの成分分析(2) キレる正社員

4.キレる中年正社員

今日は朝から社内が騒がしい。

課長が「外注ゥゥウー‼ 外注ゥゥウー‼」とサイレンのように叫び、スタッフたちが電話をかけて外注先を探している。

昨晩、Au, Ag, Pt, Pd の分析結果が「10 mg/kg 未満」という報告書を受取ったお客さんが、中年正社員に試料の調製方法についての説明を求めた。

彼は「ハンマーで叩いて、砕けた部分のみを分析した」と正直に回答したもんだから、お客さんが怒ってしまったそうだ。

とにかく、来週中に再分析の結果を報告すると約束したので、今朝から必死になって試料調製を請負ってくれる会社を探している状態だ。

「ボーっとするな‼ おまえも外注先を探せ!」

事務室で仁王立ちしている中年正社員が、わたしを見つけて怒鳴る。

事務のスタッフたちが朝から必死になって外注先をしているが、試料調製を請負ってくれる会社がなかなか見つからない...

「おまえらどっかねえのかよ‼ 探してんのかよ‼」

中年正社員がキレる。

『おまえが探せよ‼』

...スタッフ全員が思ったはずだ。

とりあえず、わたしは個人的な知り合いの同業者に電話して世間話をする。
ついでに試料調製の件も聞いてみた。

すると、短納期であっさり引き受けてくれた。


5.溶融メタルの分解と定量

3日後、調製された試料が届いた。

粒径が150μmに満たない試料と、粒径が150μm以上の試料に分けてあり、重量の割合は82%と18%だった。8割以上が細かく砕けたようだ。

気づくと、溶融メタルの分析担当がわたしに変わっており、責任の重圧から逃れた中年正社員は、事務室で踏ん反りかえっている。


とりあえず、蛍光エックス線装置で試料をスクリーニングしてみる。

粒径が150μmに満たない試料には、鉄と銅以外にカルシウム・アルミニウム・マグネシウム・ケイ素がそれなりに含まれているので、フッ化水素酸処理を行うことにしよう。

粒径が150μm以上の試料のほうは、鉄と銅以外にニッケルがそこそこ入ってるなぁといった感じだ。これなら王水だけで溶けそうだ。


とにかく納期に余裕がないので、直ぐに分解をはじめる。

粒径が150μmに満たない試料は、0.5gを王水とフッ化水素酸で加熱分解したのち、フッ化水素酸をしっかり追い出す。これを0.5mol/lぐらいの硝酸酸性の溶液にしてろ過。

残渣(肉眼では確認できなかったが...)は灰化後に炭酸ナトリウムで溶融を行い、これを硝酸酸性の溶液で溶かし出す。

粒径が150μm以上の試料は、1.0g以上を王水で加熱分解する。こちらも残渣は灰化後に炭酸ナトリウムで溶融を行い、これを硝酸酸性の溶液で溶かし出す。

どちらの試料も銀の分析をしなくてはならないので、王水ではなく硝酸で加熱分解した分解液も作成した。また、分析結果の品質担保のために、添加回収試験も同時進行で行う。


「どうなってんだ‼ いつでるんだ‼」

分析中、30分おきに中年正社員が邪魔をする。


定量にはICP-MSとICP-AESを用いる。主成分の鉄と銅による干渉が予想されるので、ICP-AESでは標準添加法で定量を行い、ICP-MSでは標準添加法やマトリックスマッチングは行わず、希釈倍率を大きくして絶対検量線法で定量を行った。

結果は、いずれの方法を用いても分析値に目立った違いはなく、添加回収試験の結果もAu, Ag, Pt, Pd, のどれもが95%以上の回収率だった。

また、残渣処理をした溶液については、溶融剤による干渉が予想されたので、検量線用標準液に溶融剤を添加してマトリックスマッチングを行ったが、この溶液から測定対象元素は検出しなかった。


最終的に加重平均した分析結果がこれ。(単位は mg/kg)

Au:130, Ag:510, Pt:30, Pd:20

これを中年正社員は、全て定量下限値未満(10mg/kg未満)で報告したんだから、そりゃあお客さんは怒るよ。


試料調製を甘く見ると、本っっっ当に痛い目にあいます。

溶融メタルの成分分析(1) 正社員の過ち

1.溶融メタルとは?

ごみ焼却場などから排出される焼却灰を溶融炉でドロドロの液状に溶かすと、比重の小さい金属は上層に、比重の大きい金属は下層に分離します。

これらを溶融炉から取出し、冷やして固めたもののうち、上層部から取り出したものを溶融スラグ、下層部から取り出したものを溶融メタルとよびます。

さて、この溶融メタルの主成分は鉄と銅の合金ですが、金・銀・プラチナ・パラジウムなどの貴金属も含まれているので、貴重な資源として業者へ売却されます。

当然、金・銀・プラチナ・パラジウムの含有量を把握する必要がありますから、溶融メタルの成分分析の需要が生まれるというわけです。

しかし、この分析が一筋縄ではいかない代物です。




2.中年正社員の過ち

「溶融メタル?金属でしょ?酸で溶かして、ICPで測るだけだから余裕だよ。」

営業からの問合せに、中年正社員が応対していた。
コイツの自信はいったいどこから湧いてくるのか?
こうして中年正社員は、二つ返事で溶融メタルの成分分析の依頼を承諾したのだった。


数日後、ラボに到着した溶融メタルを見た中年正社員は驚愕する。

そこには拳より大きな黒色の塊があったのだ。

彼はハンマーを持出し、それを叩いた。何度も何度も叩いた。その音はラボ中に響き渡り、夜まで止むことはなかった...

彼はわずかに砕けた試料をかき集めて、それをボールミルで粉砕し、これを分析試料とした。

しかし、これが後に大きなトラブルを引き起こすことになるのだった...


3.溶融メタルの物性と調製方法

溶融メタルの主成分である鉄や銅などの金属は、叩くと伸びる(展性)という特徴がありますから、ハンマー等でどんなに叩いても溶融メタル本体は基本的に砕けません。砕けるのは表面の酸化した部分と比重の小さなスラグ部分だけです。


溶融メタルはどのようにして調製するべきか?


おそらく溶融メタルの公定法や規格はありません。そこで、主成分が鉄と銅ですから、次に挙げる規格が参考になるはずです。

・JIS G0417 鉄及び鋼 化学成分定量用試料の採取及び調製

・JIS H1012 銅及び銅合金の分析方法通則

考え方としては、試料を粉砕することが難しいので削り出します。

具体的には、試料をドリルやフライス等で切削します。試料が硬くて切削が無理な場合は、熱処理(焼きなまし)を行って軟化させてから切削します。

ただし、試料調製に着手する前に必ずお客さんと密に連絡を取り合い、双方が合意したうえで作業を進めましょう。中年正社員のように、個人の勝手な判断で調製を行うとトラブルのもとになりますから。

公定法や規格がない試料だからこそ慎重になる必要があります。


さて、ここで調製方法の一例を挙げておきます。

溶融メタルの場合、試料が均一ではないことが予想されるので、数か所をドリルでせん孔し、完全に貫通させます。

次に、その切り粉や切り屑を振動ミルで粉砕し、一定の粒径(たとえば150μm)でふるい分けます。

おそらく、粒径が150μmに満たない試料と、粒径が150μm以上の試料とでは主成分が異なるはずですから、別々の前処理をすることになるでしょう。

2020年7月20日月曜日

令和元年 環境計量士国家試験(環化)問5の解説

問5(第70回

条文の空欄補充問題とは異なる新しい出題形式ですが、条文を丸暗記していなければ攻略できない点は従来と何も変わりません。

第1条の条文は丸暗記するだけの価値があるのか?

受験生は気になるところでしょうが、出題頻度が低いので、私は限りなくゼロに近いと思っています。


環境計量士と水質汚濁防止法

「環境計量に関する基礎知識(化学)」では、出題される25問のうち2問が水質汚濁防止法についての設問です。しかもそのうちの1問は、過去に出題された内容とほぼ同じものが出題れることが多い。

というわけで、よく出題される内容をピックアップしました。


第2条1項 公共用水域の定義
「公共用水域」とは、河川、湖沼、港湾、沿岸海域その他公共の用に供される水域及びこれに接続する公共溝渠(こうきよ)、かんがい用水路その他公共の用に供される水路をいう。
(下水道法に規定する公共下水道及び流域下水道であつて、終末処理場を設置しているものを除く。)

(解説)
正誤問題で稀に問われることがあります。また実務において多くの水質試料を扱うと思いますが、それが法律上どんな分類なのか?といった知識も後々役に立ちます。


第2条2項1号 有害物質(水質汚濁防止法施行令第2条で定める物質)


(解説)
最も出題される内容です。全部で28項目ありますが、実務者必須の知識でもあるので覚えてください。実際に業務に携わっている者は、覚えています。


第2条2項2号 有害物質を除く水の汚染状態をを示す項目(水質汚濁防止法施行令第3条で定める物質)

  • pH
  • BOD及びCOD
  • SS
  • n-ヘキサン抽出物質
  • フェノール
  • 大腸菌群数
  • 窒素またはりん
  • 亜鉛
  • クロム
  • 溶解性鉄
  • 溶解性マンガン

(解説)
いわゆる生活環境項目です。出題頻度は低いですが、有害物質と同じく実務者必須の知識です。


第2条6項 排出水の定義
「排出水」とは、特定施設を設置する工場又は事業場から公共用水域に排出される水をいう。

(解説)
正誤問題で稀に問われることがあります。また実務において多くの水質試料を扱うと思いますが、それが法律上どんな分類なのか?といった知識も後々役に立ちます。


第3条3項
都道府県は、当該都道府県の区域に属する公共用水域のうちに、その自然的、社会的条件から判断して、第一項の排水基準によつては人の健康を保護し、又は生活環境を保全することが十分でないと認められる区域があるときは、その区域に排出される排出水の汚染状態について、政令で定める基準に従い、条例で、同項の排水基準にかえて適用すべき同項の排水基準で定める許容限度よりきびしい許容限度を定める排水基準を定めることができる。

(解説)
それなりの頻度で太字部分が空欄となって出題される。


第14条第1項
排出水を排出し、又は特定地下浸透水を浸透させる者は、環境省令で定めるところにより、当該排出水又は特定地下浸透水の汚染状態を測定し、その結果を記録し、これを保存しなければならない。

(解説)
出題頻度は低いが、知っておいてもらいたい内容。



2020年7月18日土曜日

令和元年 環境計量士国家試験(環化)問3の解説

問3(第70回
過去10年分の過去問をチェックしましたが、第15条からの出題は初めてです。
しかも、この条文が実務において役に立つとは思えません。

では、出題者(敵)の狙いは何か?


2つ考えられます。

  • 受験生の戦意を喪失させる
試験本番に、全く学習していない条文が目の前に現れたら、メンタルの弱い受験生の中には焦りだす人もいるでしょう。焦ると思考が停止するので、受験生にとって焦りは禁物です。

  • 受験生に無駄な学習をさせる
国家試験受験を控えた受験生が、この設問を見たら何を思うか?
多くの受験生が「条文を丸暗記しなければ!」と思うことでしょう。これが敵の狙いです。

環境計量士に求められるのは、強靭な精神力敵の策略を見抜く洞察力です。

以上!


環境計量士と大気汚染防止法

「環境計量に関する基礎知識(化学)」では、出題される25問のうち2問が大気汚染防止法についての設問です。しかもそのうちの1問は、過去に出題された内容とほぼ同じものが出題れることが多い。

というわけで、よく出題される内容をピックアップしました。


第2条1項 ばい煙の定義
「ばい煙」の一般的な定義は、物の燃焼に伴って発生する煙と煤(スス)のことですけど、大気汚染防止法の定義では次の7つの物質をいいます。

 (酸化物)→ NOx, SOx
 (重金属)→ Cd, Pb
 (ハロゲン)→ F, Cl
 (すすのような微粒子)→ ばいじん

覚え方:売店で ふっくら 生 ソックス の CD 買う 外人

売店=ばい煙 ふっくら=F, Cl 生=Pb ソックス=SOx の=NOx CD=Cd 外人=ばいじん


第2条7項と8項 粉じんの定義
「粉じん」とは、物の破砕、選別その他の機械的処理又は堆積に伴い発生し、又は飛散する物質をいう。

「粉じん」は「特定粉じん」と「一般粉じん」とに分けられる。
「特定粉じん」とは、石綿のこと。
「一般粉じん」とは、「特定粉じん」以外の「粉じん」のこと。


第2条16項 自動車排出ガスの定義
自動車の運行に伴い発生する次の物質のこと。

一酸化炭素
炭化水素
鉛化合物
窒素酸化物
粒子状物質


第3条2項 大気汚染防止法における有害物質

カドミウム 
塩素
フッ化水素
鉛 
窒素酸化物


第4条 上乗せ排出基準
一般排出基準、特別排出基準では大気汚染防止が不十分な地域において、都道府県が条例によって定めるより厳しい基準のことを上乗せ排出基準とよびます。
対象となる物質はばいじん有害物質です。


 



平成30年(12月)環境計量士国家試験(環化)問1の解説

問1(第69回
問1は必ず環境基本法から出題されます。

しかし私の経験上、この環境基本法の知識が実務で役立ったことがありません。
また、学習範囲が広く多くの時間を環境基本法の学習に費やしますが、出題がたったの1問だけなので、コストパフォーマンスの悪い学習を強いられてしまします。

ですから、少しでも効率の良い勉強をしたいのであれば、問1は捨てましょう!

さすがに捨てるのはちょっと...という人のために、出題率の高い条文を3つだけピックアップしました。リンク先で確認してください。



令和元年 環境計量士国家試験(環化)問1の解説

問1(第70回
問1は必ず環境基本法から出題されます。

しかし私の経験上、この環境基本法の知識が実務で役立ったことがありません。
また、学習範囲が広く多くの時間を環境基本法の学習に費やしますが、出題がたったの1問だけなので、コストパフォーマンスの悪い学習を強いられてしまします。

ですから、少しでも効率の良い勉強をしたいのであれば、問1は捨てましょう!

さすがに捨てるのはちょっと...という人のために、出題率の高い条文を3つだけピックアップしました。リンク先で確認してください。



環境計量士と環境基本法

環境基本法は、実務において役に立たないから貴重な勉強時間を費やす必要はない!
だから、「環境計量に関する基礎知識(化学)」の問1は捨てろ!

これがわたしの考えです。
しかし、試験本番で1問でも多く得点したい受験生の心情を鑑み、出題される可能性が高い条文を3つだけピックアップしました。出題されたらラッキー程度に思ってください。

試験本番の1~2週間前からの学習を推奨します。

1条(目的)
この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。

2条(定義) 
この法律において「環境への負荷」とは、人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう。
 この法律において「地球環境保全」とは、人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染野生生物の種の減少その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって、人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものをいう。
 この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることをいう。

16条 
政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。
 略
 第一項の基準については、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない。


2020年7月16日木曜日

第70回環境計量士国家試験(環濃)問18の解説

問18(第70回 環濃)

不確かさ要因を比較する際に最も大切なこと、それは単位を揃えること!
この問いでは、希釈後の標準液の濃度(10mg/L)に影響を与える不確かさを知りたいのだから、単位は mg/L に揃えます。


1.拡張不確かさは、標準不確かさと違ってばらつきを表すものじゃなくて、測定結果の存在範囲を表すもの。

たとえば、問題文にある「拡張不確かさ(k=2)は 6mg/L とする」は、「この標準液の濃度は約95%の確率で、1000mg/L ± 6mg/L の範囲にありますよ」という意味なんだ。
(詳細はリンク先の Point 解説 不確かさ(3)を見てちょーだい。)

でも、ぼくらが知りたいのは測定結果の存在範囲ではなくて、希釈後の標準液の濃度(10mg/L)に影響を与える不確かさだ。

拡張不確かさは、合成標準不確かさに包含係数 (k) を乗じたものだから、拡張不確かさを包含係数 (k) で除すれば、合成標準不確かさが求められる。

だから、 希釈前の標準液の不確かさは 3mg/L になるわけだ。

ところが、ぼくらが知りたいのは希釈後の標準液の濃度(10mg/L)に影響を与える不確かさだから、これを100倍した 0.003mg/L が不確かさになる。


2.希釈前の標準液(1000mg/L)から 1mLを全量ピペットで採取するから、採取した 1mL に含まれる「ある成分」の量は 1mg 。

採取に使用した全量ピペットの標準不確かさが 0.004mL だから、これを「ある成分」の量に換算すると 0.004mg 。

これを全量フラスコを用いて水で100mLに希釈するのだから、0.004mg / 100mL より不確かさは 0.04mg/L になる。


3.100mLの全量フラスコには希釈後の標準液が入るから、ここでは希釈後の濃度(10mg/L)で考えなくてはならない。

希釈した標準液 (10mg/L)の1mL に含まれる「ある成分」の量は 0.01mg 。

そして、 希釈に使用した全量フラスコの標準不確かさが 0.04mL だから、これを「ある成分」の量に換算すると 0.0004mg 。

これが100mLの希釈液に含まれているのだから、0.0004mg / 100mL より不確かさは 0.004mg/L になる。


4.「標準偏差の相対値」とは、標準偏差を平均値で除した数値のこと。これの 0.1% という数値はとても小さな数値になることがわかる。

標準不確かさ=標準偏差だから、分析者の希釈操作に伴う調整濃度のばらつきは、のどれよりも小さくなるでしょう。


5.希釈に使用する水の量が99mLだから、99mLに含まれる「ある成分」の量は
0.17μg/L × 99mL より 0.0168μg 。

これが100mLの希釈液に含まれるのだから、その濃度は 0.0168μg / 100mL より 0.000168mg/L になる。


以上より、の中で希釈後の標準液の濃度に最も影響を与えるのはでした。



環境計量士のための Point 解説 不確かさ(3)

6.合成標準不確かさ
標準不確かさを合成するには、次に示す式を用います。


ここで、U1, U2… は標準不確かさ、Uc は合成標準不確かさを表し、この合成標準不確かさが測定結果のばらつきを表す標準偏差です。

ここで再び、パスタを茹でる食塩水の濃度で考えましょう。
小さじ1杯の塩の標準不確かさが0.22g、1リットルの水の標準不確かさが2.89mlだったから、合成標準不確かさは次のようになると考えていいだろうか?
 



実はこれ、誤りなんだ。

なぜなら、0.22gと2.89mlでは単位が異なるから。単位が異なると不確かさは合成できないから、合成前に単位を揃える必要があるのよ。

私たちが知りたいのは食塩水の濃度の不確かさだから、その単位は g/L になる。だから、小さじ1杯の食塩の標準不確さは 0.22g/L になる。

その一方で1リットルの水の標準不確かさを考えるには、ちょっと工夫が必要なんだ。

小さじ1杯の食塩の標本平均値が6.7gだったから、食塩水の濃度は6.7g/Lになり、これを食塩水1ml当たりに換算すると0.0067gの食塩が含まれていることになる。

1リットルの水の標準不確かさが2.89mlだったから、食塩水2.89ml当たりに含まれる食塩の量は 2.89×0.0067g より 0.019g になり、1リットルの水の標準不確かさは 0.019g/L になる。


単位が揃ったので、2つの標準不確かさを合成すると、下の式より0.22g/Lになる。



ところで、「合成標準不確かさ」と「小さじ1杯の食塩の標準不確さ」が同じ数値(0.22)になったことに気づいたかな?

これは1リットルの水のばらつき(0.019g/L)が、小さじ1杯の塩のばらつき(0.22g/L)よりも一桁小さいため、合成結果に影響を与えられていないからなんだ。

つまり、1リットルの水のばらつきが不確かさ要因と見なされていないことを意味する。

不確かさ要因が多数ある場合、今回のように標準不確かさの数値が極端に小さい要因については、不確かさ要因とは見なされないから、計算から除外してしまったほうが効率的だということも覚えておこう。


7.拡張不確かさ
たとえば、ある金属A の濃度が1000mg/Lの標準液を購入したとします。
箱を開封すると標準液とJcss のロゴマークの入った証明書が同封されており、その証明書には次のように書かれていました。

値付け結果 1003mg/l
値付けの拡張不確かさ(k=2)は、値付け結果に対して±0.4%である

これは、「この標準液の金属Aの真の値(濃度)は、約95%の確率で1003mg/l ± 0.4%の範囲内になりますよ」という意味です。

真の値(濃度)は神のみぞ知る値で、実際に求めることはできません。
ところで、この約95%っていう数字はどこからきたのでしょうか?

これは測定結果が正規分布すると仮定した上で、正規分布がもつ次の性質から説明できます。

平均値±標準偏差の中に全データの約68%が含まれる
平均値±2×標準偏差の中に全データの約95%が含まれる
平均値±3×標準偏差の中に全データの約99.7%が含まれる

証明書に「拡張不確かさ(k=2)」と書いてあったけど、これは「標準偏差を2倍しますよ」という意味で、この「k」のことを包含係数とよびます。

そして標準偏差である合成標準偏差を2倍すれば、それは約95%が含まれる区間の半幅を表す値になり、この値を拡張不確かさとよびます。
したがって、拡張不確かさは次の式で求められます。

拡張不確かさ (U) = 合成標準不確かさ (UC) × 包含係数 (k)

ここで再びパスタを茹でる食塩水の話に戻ろう。
パスタを茹でる食塩水の拡張不確かさ(k=2)を求めると、0.22g/L×2 より 0.44g/L となる。
したがって、小さじ1杯の食塩から調製した食塩水の濃度は、約95%の確率で 6.7g/L ± 0.44g/L の範囲内になることが分かるね。


だいぶ長くなってしまいましたが、これで不確かさのお話はおしまい。
あとは演習問題を何度も繰り返して、不確かさの算出方法を身に付けてください。





環境計量士のための Point 解説 不確かさ(2)

4.不確かさの算出方法

不確かさは、次の1~4のステップを経て見積もっていきます。

  1. 不確かさ要因をピックアップする。

  2. 不確かさ要因によってどのくらいばらつくのかを実験等で求め、標準偏差として表す。これを標準不確かさという。

  3. すべての不確かさ要因の標準不確かさを求めたら、それらを合成し、測定結果のばらつきである合成標準不確かさを求める。

  4. 最終的な不確かさは、この合成標準不確かさとして報告して問題ない。しかし、これを定数倍した拡張不確かさを用いて、「±拡張不確かさ」という信頼区間の形で報告することが一般的となっている。

これから試験でよく問われる太字の個所を1つずつ解説していきますが、その前に「不確かさ要因」の話を少しだけします。

「不確かさ要因」とは、測定結果にばらつきを与える要因のことです。
たとえば、試薬や水の純度が悪ければ、調製した溶液の濃度に影響を与えてしまいます。また、計量器具の公差が大きいと、溶液の濃度に与える影響も大きくなります。

このように、最終的な結果(濃度)に影響を与えてしまう試薬の純度や計量器具の公差は「不確かさ要因」としてピックアップされます。


5.標準不確かさ

標準不確かさの求め方には、タイプAとタイプBの2通りが『計測における不確かさの表現ガイド(GUM)』に規定されています。


タイプA

母集団から標本を抽出したときの平均値の変動(標準偏差)を算出する方法。その母集団は、実際に自分で測定を行い、複数のデータを得て、そのデータから推定します。

タイプB

タイプA以外の方法を用いて標準偏差を求める方法。たとえば、ピペットの公差などがこれに該当します。


5.1 タイプAの評価法

たとえば、小さじ1杯の食塩の重さについて繰り返し5回の実験を行ったところ、次のデータを得たとします。


平均値(標本平均)が6.7g、 標本標準偏差が0.5g


ここで注意したいのは、標本標準偏差は標本平均のばらつき(母集団から標本を抽出したときの平均値の変動)ではないということ。

それじゃあ、この標本標準偏差は何を意味するの?って話になるよね。

標本標準偏差は、5回の測定値が平均的にどのくらいばらついているのかを表しています。しかし、私たちが知りたいのは標本平均のばらつきであって、5回の測定値のばらつきではありません。

そこで、標本平均のばらつきの算出方法を調べると、次のことが分かりました。

  1. 繰り返し測定を行ってデータを n 個取る。(小さじで食塩を5回秤量した。)

  2. そのデータから標本平均値と標本標準偏差を算出する。(標本平均が6.7g、標本標準偏差が0.5g)

  3. 標本標準偏差を√nで割る。

1と2については既にデータの算出まで終えているので、あとは標本標準偏差を√nで割るだけ。

繰り返し5回の実験を行ったのだから、標本標準偏差である 0.5 を √5 で割った 0.22g が小さじ 1 杯の食塩の標準不確かさとなる。


5.2 タイプBの評価方法

タイプBはタイプA以外の方法、すなわち実験を行わずにばらつきを算出する方法です。

具体的には、何らかの情報から測定結果が含まれる範囲(公差など)を見つけ出し、測定結果が矩形分布(一様分布)すると仮定する。そして分布の半幅を√3で割ることで標準不確かさを算出します。

たとえば、公差が±5mlのメスシリンダーを使用して水1リットルを計量した場合、公差である5mlを√3で割った2.89mlが標準不確かさとなります。


5.3 おまけ

ここから先は興味がなければ、飛ばしても構いません。


なぜ標本標準偏差を√nで割るのか?

標本平均=母平均、標本標準偏差=母標準偏差と仮定すると、測定の母集団が推定できます。
すると、繰り返し測定を行って得た n 個のデータは、この母集団からランダムに抽出したデータということになります。

そして、母集団から「標本を抽出して、標本平均を算出する」これを何度も何度も繰り返すと、多数の標本平均が得られる。この得られた多数の標本平均は、大小さまざまな値でばらついているから、標準偏差でそのばらつきを表すことができる。これが標本平均のばらつき。

この標本平均のばらつきには重要な性質があって、母集団の標準偏差(σ)を√n で割ったものと等しくなるんだ。
式で表すと次のようになる。

標本平均のばらつき=σ√n

標本標準偏差=母標準偏差と仮定しているから、標本平均のばらつきは、標本標準偏差を√nで割ったものと等しくなる。
 
標本平均のばらつき=標本標準偏差√n


矩形(くけい)分布とは?

確率分布の1つで、範囲内のどこにでも同じ確率で存在することを意味します。
これを図にすると範囲内の yの値(高さ)はどこも μ と同じになるから、その形は長方形になります。そして、±aという範囲が与えられていれば、その標準不確かさは a/√3になることが分かっています。

もし、極端な値が存在することがないと分かっている場合、その分布は両端に向かってゼロに近づいていくから、その形は三角形になる。そして、±aという範囲が与えられていれば、その標準不確かさは a/√6になることがわかっています。






2020年7月15日水曜日

環境計量士のための Point 解説 不確かさ(1)

「不確かさ」に関する設問は「化学分析概論及び濃度の計量」と「計量管理概論」の2科目から出題されている頻出テーマですが、「不確かさ」を解説する書籍はどれも実務者向けの難しいものばかりで、受験生向けの良い書籍が見当たりません。

そこで、僭越ながら低学歴・低収入な底辺派遣社員である私が環境計量士を目指す皆様のために、「不確かさ」について解説してみることにしました。


1.計量値とばらつき

統計学では、ある現象が大小さまざまの大きさで起こることを「分布をする」といいます。

たとえば、料理用の小さじで食塩を1杯計量したときの食塩の重さは、大小さまざまな重さになるので、小さじ1杯で計量した食塩の重さは分布をすると言えますね。

でも、私たち化学分析屋は「分布をする」と言わずに、「ばらつく」と言います。

この「ばらつく」という用語について、JIS K0211 と JIS Z8103 ではそれぞれ次のように定義しています。


大きさがそろっていない測定値の状態。
(JIS K0211)
<注記> 例えば、ばらつきの大きさを表すには標準偏差を用いる。

測定値の大きさがそろっていないこと。また,ふぞろいの程度。
(JIS Z8103)
<備考>ばらつきの大きさを表すには、例えば、標準偏差を用いる。

2.パスタの茹で汁の塩加減

ところで、小さじ1杯で計量した食塩を1リットルの水に溶かせば、パスタ100gを茹でるのに適した食塩水の濃度になると言われています。

小さじ1杯で計量した食塩の重さがおよそ6gですから、食塩水の濃度はおよそ 6g/L です。

でも、小さじ1杯で本当に6gの食塩がきちんと計量できるのでしょうか?

もちろん6gになるときもあるだろうけど、6gに満たないときもあるし、6gを超えてしまうときもあるでしょう。これは水を計量する計量カップにも同じことがいえます。

つまり何が言いたいのかというと、計量した食塩や水の値は必ず「ばらつき」ます!ってこと。そして、このばらつきが食塩水の濃度に影響を与えるので、食塩水の濃度も「ばらつき」ます!ってことを覚えておいてください。

そして、「ばらつき」は必ず生じますから「真の値」というものを我々は知ることはできません。できることは「真の値」が存在するであろう範囲を統計学的に推測するぐらいです。


真の値:ある特定の量の定義と合致する値。 
(JIS K0211)
<注記> 特別な場合を除いて観念的な値で、実際には求められないので、真の値とみなし得る値を用いることがある。

3.ばらつきと信頼

計量した値は必ずばらつくことを理解してもらったところで、こんどは「ばらつき」と「信頼」の関係について考えていきます。

ここに2種類の食塩水があるとします。
1つは1リットルの水に小さじ1杯の食塩を溶かした食塩水で、もう1つは1リットルの水にキッチンスケールで計量した6gの食塩を溶かした食塩水です。

さて、どちらの食塩水のほうが6g/ L の食塩水として信頼できるでしょうか?

もちろん、キッチンスケールで計量した食塩水のほうが6g/ L の食塩水として信頼できますね。なぜなら、キッチンスケールで計量したほうがばらつきが小さくなるからです。

つまり、私たちは日常的にばらつきが小さければ信頼できると評価し、ばらつきが大きければ信頼できないと評価しています。


ここで、話を少し応用してみましょう。

ばらつきの大小が信頼性評価の基準になるということは・・・

ばらつきを数値化すれば信頼性の評価も数値化できる!・・・ということになりませんか?

こうした方法で信頼を評価することを不確かさとよびます。


4.不確かさの定義について

わたしの記憶が確かならば・・・「不確かさ」の定義について試験で問われたことはありません。試験で問われるのは「不確かさの算出方法」です。

とは言っても、今後出題されることがあるかもしれないので紹介だけしておきます。


測定の結果に付随した、合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ
(計測における不確かさの表現ガイド(GUM))

用いる情報に基づいて,測定対象量に帰属する量の値のばらつきを特徴付ける負ではないパラメーター
(JIS K0211)

合理的に測定量に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ。これは測定結果に付記される。
(JIS Z8103)
備考1.  パラメータは、例えば標準偏差(又はその倍数)であっても、又は信頼水準を明示した区分の半分の値であってもよい。

備考2.  測定の不確かさは通常、多くの成分からなる。それらの成分の一部は一連の測定結果の統計的分布に基づいて推定可能で、試料標準偏差で示すことができる。その他の成分は、経験又は他の情報に基づいてだけ推定が可能である。

備考3.  測定の結果は測定量の値の最良推定値であると理解されている。また補正や参照標準に付随する成分のような系統効果によって生じる成分も含めた、すべての不確かさの成分はばらつきに寄与すると理解されている。


非常に難解な文章ですね。

この難解な文章の解読に挑むのも結構ですが、貴重な勉強時間を無駄にしてしまいますから、ほどほどにしましょう。



2020年6月28日日曜日

焼却灰に含まれる二酸化ケイ素の分析方法(後編)

中編に引続き、Q&A形式で解説します。

残渣を最初から1000℃で焼かず、いったん炭化させる理由は?

溶液と沪別した残渣は、ろ紙ごと白金ルツボに入れて強熱しますが、はじめから1000℃で強熱しません。ガスバーナーの炎で徐々に加熱していき、ろ紙を炭化させたのち、電気炉で強熱するのがセオリーです。
その理由は2つあります。
  1. 水分が急激に沸騰し、沈殿が飛跳ねることがあります。
  2. ろ紙が炎を出して燃えた場合、炭化したろ紙の一部が沈殿物の中に取り込まれてしまい、長時間強熱しても燃焼しきれずに残ることがあります。
分析は焦らず、確実に進めましょう。


フッ化水素酸処理を行う際、硫酸を必ず共存させる理由は?
硫酸の代わりに硝酸を代用しても大丈夫?

仮に硫酸を添加せずにフッ化水素酸を蒸発乾固させた場合、正確な二酸化ケイ素の定量はできません。また、硫酸の代わりに硝酸を代用した場合も同じです。

詳しく説明しましょう。
たとえば、不純物としてチタンが含まれていた場合、チタンはケイ素と同様にTiF4として揮散してしまうので、正の誤差となります。

また、チタン以外の不純物は1000℃で強熱しても酸化物にならず、フッ化物として残留してしまうため、1回目の秤量で酸化物として秤量された不純物が、2回目の秤量ではフッ化物として秤量されます。
その結果、酸化物とフッ化物の化学式量による誤差が生じ、フッ化水素酸による処理前と処理後の重量の差が何を意味するのか分からなくなってしまいます。



逆に、硫酸の共存下でフッ化水素酸を使用すると、酸化物は硫酸塩へと置き換わり、フッ化として残留しません。また、TiがTiF4として揮散することもなくなります。
そして、すべての硫酸塩は1000℃よりはるか低温で完全に分解し、再び酸化物にもどります。

例 Fe2(SO4)3 → Fe2O3 + 3SO3


さて、硫酸の代わりに硝酸を代用した場合はどうなるでしょうか?
硝酸には硫酸のような効果はありませんから、Ti は確実に TiFとして揮散しますし、チタン以外の不純物はフッ化物として残留します。


分析結果のばらつきはどのくらい?

規格には2回繰り返して行った測定値の差(許容差と言います)として、同一分析所内では0.85%と記載されています。しかし、今回紹介したknow-howを実践すれば、0.20~0.30%は楽勝です。

焼却灰に含まれる二酸化ケイ素の分析方法(前編)

今回はQ&A方式で解説します。


公定法やJISは、ありますか?

私の知る限り、焼却灰を対象とした公定法やJIS等の規格はありません。(環告13号が該当しますが、溶出試験ですからね...)

公定法やJIS等の規格がない場合、最も試料の組成が類似している公定法やJIS等の規格を探すのが解決への近道です。

焼却灰の場合、『JIS M8815 石炭灰及びコークス灰の分析方法(1976)』が最も試料の組成が類似していると思います。


規格には『炭酸ナトリウムで融解』とあるけど、酸分解はダメなの?

焼却灰は、ケイ酸塩(M(ii)SiO3)と金属の酸化物(M(ii)O)から構成されています。

そして、ケイ酸塩は酸に溶けません。
しかし、ケイ酸と結合する金属によっては、溶けることもあります。

具体例を挙げましょう。
ケイ酸ナトリウムは水に可溶ですが、ケイ酸カルシウムは水に不溶です。
水に不溶なケイ酸カルシウムは、酸で溶かすことができますが、ケイ酸アルミニウムは酸に不溶です。

一般的に、塩基性の強い金属と結合したケイ酸塩ほど、酸や水に溶解します。


金属の酸化物もケイ酸塩と同じように、塩基性の強い金属の酸化物ほど、酸や水に溶解します。

これについても、具体例を挙げましょう。
酸化ナトリウムは水に可溶ですが、酸化カルシウムは水に不溶です。
水に不溶な酸化カルシウムは、酸で溶かすことができますが、酸化アルミニウムは酸に不溶です。

もし、焼却灰に含まれるケイ酸塩の割合が低く、金属の塩基性が強いことが分かっているのであれば、酸分解でも問題ありません。
セメントの規格が酸分解法であるのは、これが理由です。

焼却灰の場合、酸素、ケイ素、鉄、アルミニウムがその主成分ですから、酸分解は不適切でしょう。


融解は『白金るつぼ』じゃなきゃダメ?

炭酸ナトリウムで融解する際は、『白金るつぼ』にこだわる必要はありません。
しかし、あとの工程で『白金るつぼ』を必ず使用するので、揃えておく必要はあります。

余談ですが、私が以前勤務していた会社には、ケチって少ない量の白金で作製した『白金るつぼ』がありました。
この『白金るつぼ』、とても薄くて柔らかいので全く使い物になりませんでした。
実験器具をケチると、ろくなことがありません。
 

『炭酸ナトリウムを加え、よく混和する』とあるけど、何か道具を使うの?

白金線、ミクロスパーテル等でルツボの内壁を傷つけないようにゆっくり混和します。
特に、ルツボの底の隅のほうに試料粉末が固まってしまい、分解が不十分になることがあるので、注意しましょう。

又は、試料と1/3程度の炭酸ナトリウムをメノウ製の乳鉢にとり、試料と炭酸ナトリウムをすりつぶしながら十分に混合したのち、白金ルツボに移します。
次いで、残りの炭酸ナトリウムを2回に分けて同じ乳鉢ですりつぶし、付着した混合物を回収します。


融解するときは電気炉?それともガスバーナー?

電気炉では試料の分解が不十分になってしまうので、ガスバーナーを使用します。

なぜ、電気炉では試料の分解が不十分なのでしょうか?

インスタントコーヒーに、お湯を注いだときのことを想像してください。
お湯を注いだだけでは、コーヒーの粉末は完全に溶けません。これを溶かすには、ティースプーンでかき混ぜる必要があります。

これと同じように、炭酸ナトリウムを溶かしただけでは、試料は完全に溶けません。ルツボの縁を白金トングで摘まみ、慎重にゆっくりとかき混ぜる必要があります。

ガスバーナーであれば、かき混ぜることもルツボの中の様子を覗くこともできますが、電気炉の場合、かき混ぜることができないので、試料の分解が不十分になってしまうのです。


ケイ酸塩や金属酸化物が炭酸ナトリウムと反応する際の、メカニズムを知りたい!

溶融状態の炭酸ナトリウムは、強電解質の性質をもち、イオン解離していると考えられています。

Na2CO3 → 2Na+ + CO32-

ここで生じた高温のNaイオンはケイ酸塩に対して強力な反応性を持ち、多量のNaイオンがシリカと結合することで可溶性の塩となり、ケイ酸塩を構成していた金属イオンは酸可溶性の塩(炭酸塩)となります。

M(ii)SiO3 + Na2CO3 → Na2SiO3 + M(ii)CO3

一方、高温の炭酸イオンは酸素イオンと二酸化炭素に分かれます。
融解中にプツプツと気泡が確認できると思いますが、これは二酸化炭素です。

CO32- → CO2 + O2-

この酸素イオンは反応性が非常に強く、試料中の金属酸化物を攻撃し、可溶性の塩にしてしまいます。

M(ii)O + Na2CO3 → Na2M(ii)O2 +  CO2


中編につづく



焼却灰に含まれる二酸化ケイ素の分析方法(中編)

前編に引続き、Q&A形式で解説します。


融解後、ルツボの中身を塩酸で溶かし出すわけですが、このとき用いるビーカーの材質はガラス?それともテフロン?

ガラスから二酸化ケイ素が溶出することを恐れて、テフロンビーカーの使用を考えるかもしれませんが、それは間違いです。

二酸化ケイ素がガラスから溶出するのは事実ですが、その溶出量が重量分析の結果に影響することはありません。
むしろ、ビーカー内部の様子が確認できず、脱水が不十分になること、ろ過の工程において細かな沈殿物が目視できず、沈殿物の回収が不十分になることのほうが、分析結果に大きな影響を与えます。

その昔、テフロンビーカーを使用して二酸化ケイ素の分析をさせられたことがあります。その分析結果が、認証値に対して大きく下回っていたことは言うまでもありません。


二酸化ケイ素を脱水する理由がわからない!

炭酸ナトリウム融解で分解したケイ酸塩の融解物を塩酸に溶かすと、単正ケイ酸(H4SiO4)を遊離します。

ところが、この溶液を加熱していくと分子間で少しずつ縮合が起こり出し、分子同士がSi-O-Si結合で結ばれ、三次元の網目構造が形成されていきます。その結果、ケイ酸含有量が多いほど溶液に粘性があらわれ、これをさらに加熱すると、モヤモヤとしたゲル状の沈殿ができます。

この沈殿は下の図のように、分子内部に多くの水を含んでいます。


また、二酸化ケイ素の溶解度は決して小さいわけではなく、むしろ溶けやすい沈殿です。
一般論として溶液に溶けやすい沈殿は、重量分析に不向きですが、二酸化ケイ素には溶解が平衡に達するのが非常に遅い(溶けるのに時間がかかる)という特徴があります。

そこで、分子内部に含んでいる水を全て取除き、一時的にゲル状の二酸化ケイ素を凝集さて、その溶解度をゼロにします。こんどは、これが再び溶けだす前に迅速にろ過することで、損失を最小限に抑えた二酸化ケイ素の回収が可能になります。

つまり、二酸化ケイ素を脱水する理由は、その溶解度をゼロにして、再び溶けだす前にろ別分離するためです。

ちなみに、二酸化ケイ素と溶液との最大接触時間は15~20分と言われおり、これを越えてしまうと二酸化ケイ素は溶け出します。


過塩素酸で二酸化ケイ素を脱水する際のポイントは?

過塩素酸は200℃以上になると白煙が発生するので、この白煙の発生を確認したら、時計皿でビーカーにフタをします。このときの過塩素酸は極めて強力な酸化剤であり、かつ脱水剤でもあります。

フタをした状態でしばらく加熱を継続すると、次第にビーカー内に充満していた白煙が消えて透明になり、ビーカー壁を伝わって冷却された過塩素酸が再びビーカーの底面に流れる様子が観察できます。

この白煙が消えた状態は、ビーカー内の脱水がほぼ完了したことを意味しますが、この状態を15分以上は継続してください。この工程は分析値を大きく左右するポイントの1つです。

蒸発乾固させない限り、長時間加熱し過ぎても問題ないので、しっかりと脱水しましょう。

また、過塩素酸は使用方法を誤ると爆発することのある大変危険な試薬です。必ず熟練者の監督・指導の下で使用してください。


ろ過をする際のポイントは?

ポイント① ろ紙とろう斗を密着させる。

ろ過を迅速に行うには、ろ紙をろう斗に密着させ、ろう斗の脚に液を充満させる必要があります。このろ紙をろう斗に密着させる技術は、はじめのうちは上手くできないかもしれませんが、適切な指導者の下で何度か練習すれば誰にでもできます。

ただし、ガラス製ではなくプラスチック製のろう斗の場合、ろ紙を密着させるのは無理です。


ポイント② 沈殿とろ紙の洗浄には温水を用いる。

分析経験が浅い人ほど、この洗浄工程を甘く見る傾向があります。
私たちが思っている以上に、ろ紙や沈殿には色々なものが付着しているので、徹底的に温水洗浄してください。

最終的には、洗浄液から酸が検出されなくなるまで洗浄します。
なぜなら、酸が残っているとろ紙がきれいに焼けませんし、過塩素酸を使用しているので、この後の工程で確実に爆発します‼

ちなみに、JIS K0211によると温水とは、40℃~60℃の水のことを言います。


後編につづく

2020年6月23日火曜日

低学歴な派遣社員が環境計量士(濃度関係)を受験したら合格した話

1.環境計量士国家試験‼

それは日本全国の野心に満ちた環境系化学分析員たちの知識・忍耐力・思考力が試される選抜試験のことである。

ある者は社内での地位と給料を上げるため・・・
ある者は転職を成功させるため・・・

合格率15%前後と言われるその難関に挑み、そして散っていく・・・


2018年夏、正社員でさえ突破が困難なこの難関に派遣社員が挑む。

「文系Fラン大卒の派遣社員には無理だ。」

毎年、この試験に挑み続けて10年以上のベテラン中年正社員は冷静に分析し、こう言い切る。

はたして、その結末は・・・?


2.学習計画を立てる

はじめに、現在の自分の学力と合格に必要な学力の差を見極めるため、直近(第68回)の過去問を経済産業省のHPからダウンロードして解いてみた。

結果は、「計量管理」の正答率は4割ぐらい、その他は3割ぐらい。
合格には程遠いいが、「計量法」はやればすぐ伸びる!という感触を得た。

ネット上の合格体験記には、”「環化」は難しく時間を必要とする科目なので早い時期から勉強すべき ” との意見が散見されたが、私は「計量法」と「計量管理」の基礎固めを優先した。

なぜなら、8月に「計量法」と「計量管理」の基礎固めを完成させることができれば、それは自信となり、仮に「環化」の基礎固めが9月中に終わらなくても焦りや不安を感じないはずと考えたから。

というわけで、8月と10月は「計量法」と「計量管理」、9月と11月は「環化」と「環濃」、8月と9月で基礎を完成させ、10月から過去問演習をスタート。12月は総まとめという大まかな計画を立てた。


3.いつ勉強するか?

問題発生!平日の勉強が全く捗らない・・・

普段の私は19時過ぎ頃会社から帰宅し、それから夕飯、入浴などで、勉強が始められるのは22時頃になってしまう。朝は6時半に起床するので、6時間の睡眠時間を確保するとなると勉強時間は22時~24時のおよそ2時間。しかし、その2時間ですら集中できず、時間だけが無駄に過ぎていく。

そこで私は、夜型の勉強スタイルから朝型の勉強スタイルに変えることにした。

具体的には22時に就寝、4時半に起きて6時半まで勉強。これに加えて、昼休みの30分間も勉強時間に充てることで、平日は2.5時間の勉強時間を確保。

私が朝型の勉強スタイルに切り替えたのが8月からなので、12月の試験当日までの平日の勉強時間はおよそ200時間以上ということになる。

休日も平日と同じ時間に起床し、途中休憩を挟みながら9時頃まで勉強。予定がなければ午後の1時ごろから4時ごろまで勉強。

これで休日は4~7時間の勉強時間が確保できたことになり、12月の試験当日までの休日の勉強時間はおよそ150時間以上となった。

試験のために費やした総学習時間は350時間以上といったところだ。

わたしは朝型に切り替えて成功したけど、夜型のほうが成功する人もいるから、それぞれ自分に合った勉強スタイルを早い段階で見つけることがポイントだと思う。



4.8月~9月

低収入で勉強にお金をかけられない私は、図書館で偶然見つけた『よくわかる環境計量士試験(弘文社)』を使って勉強した。


「計量法」は問題を解いて、解説と条文を読んで納得するまで理解し、これを覚える作業を何度も何度も繰り返す。これ以外何もしていないが、これで十分だ。

「計量管理」も問題を解いて解説を読む。それでも分からないことはgoogleで検索。ただ、自動制御の項目はどうしても分からなかったので潔く諦めた。

多くの人が手を焼くと思われる統計は、2年前に仕事でどうしても必要だったので集中的に勉強していたおかげもあって、それほど苦労した記憶はない。

8月は計画通りに勉強を進め、その進捗状況もほぼ問題なかったので、9月は予定通り、「環化」と「環濃」の勉強を開始した。

ところが、ここで進捗状況に狂いが発生。

「環化」の問題が解けない!解説を見ても全く理解できない!

そもそも『よくわかる環境計量士試験(弘文社)』は、問題数も少なく、解説も不親切だ!
・・・とテキストに八つ当たりをして自分を正当化したいところだが、そんなことをしても状況は良くならない。

これまで仕事で必要なモル計算、酸化還元反応、中和反応は勉強したことがあるが、気体、熱化学、電気化学、有機化学は勉強したことがない。(高校でも化学を履修してないし...)

そこで大学受験用の参考書を買ってきて、高校化学からはじめることにした。大学受験用の書籍は低価格だし、中古書も選び放題だから低収入な底辺派遣社員にはありがたい。

「環濃」は『よくわかる!環境計量士試験 濃度関係』に収録されている問題数があまりにも少なかったので、過去問にいち早く取り掛かかる。

普段から業務で使用する分析機器や試験規格は徹底的にjisや専門書を読み込んできたので、それほど苦労しなかったけど、それでも実務経験の少ない大気分析や有機分析には苦労した。


5.10月~試験直前

結局、9月中に環化の基礎が完成しなかったので、10月の平日は「環化」、休日は「計量法」と「計量管理」という勉強計画に立て直した。その結果、10月中になんとか「環化」の基礎は完成し、「計量法」と「計量管理」は1~2年分過去問演習に手をつけることができた。

11月は「環化」と「環濃」の過去問演習をするはずだったが、4科目を交互に勉強する計画に変更し、平日は4科目の過去問演習、休日は分からない箇所を調べに図書館へ行くという日々が続いた。
また、受験票が手元に届いたのもこの頃だった。

12月に入った頃には、3年分の過去問をやり終えており、さらにもう1年分の過去問に手を付けたが、ここで難問と遭遇。試験直前にして自信を失い、不安と焦りが生じた。
そこで、これまでの復習を徹底的に行うというスタイルに戻し、試験当日までメンタルを良好な状態に保つことにした。

試験直前期は新しいことに手を広げるのではなく、復習に徹したほうが精神的に良さそうだ。



6.試験前日と当日

受験会場が自宅からそこそこ距離のある場所だったので、試験前日の土曜日は受験会場近くのビジネスホテルに宿泊した。試験当日の朝に自宅を出ても間に合う距離ではあったが、電車が遅れたりして焦るよりも、試験本番で実力を発揮できる体制に整えることを重視した。それでもホテル代は痛い出費だ。

試験当日は集中力を維持するために、休憩時間に必ず水分補給と間食を摂った。身体から2%の水分が失われると、集中力が極端に低下するらしい。また、食後3時間で血糖値が低下するため、血糖値をおだやかに変化させるナッツ類の摂取が集中力の維持に役立つようだ。


7.まとめ

紆余曲折あったが、なんとか合格することができた。合格に必要なことは数え上げたらキリがないけど、いくつか挙げたいと思う。

  • 大まかな学習計画を立て、必要に応じて修正する。
  • 自分の集中力をコントロールする。
  • 不安と焦りを取り除く。
こんなところかな。

関連ページ


2020年6月21日日曜日

第70回環境計量士国家試験(環濃)問24の解説

問24(第70回 環濃)

第62回の過去問まで遡って探してみましたが、JIS K0450-70-10 から出題された問題はありませんでした。
おそらく、受験生のほとんどがこの規格について知らないと思います。

そもそも、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)およびペルフルオロオクタン酸(PFOA)とは何でしょうか?

どうやら、有機フッ素化合物のことのようで、フライパンの表面加工とか、衣類の撥水加工なんかに使用されているらしい。

また、安定な構造をしているため、環境中で分解されにくく、環境残留性や生態蓄積性による生態系への影響が懸念されているようです。


それでは、設問を見てみましょう。
多くの受験生と同じように、私もこの規格についての知見がありません。
知識がなければ、時間をかけて考えても無駄ですから解答を諦めて、この問題をパスするのが賢い選択です。

ただ、無回答にするのはもったいないので、ひと通り選択肢に目を通して、どれかを回答しておきたいものです。

「誤っているものを1つ選べ」という設問ですが、選択肢のが気になります。
この規格のことも、PFOSやPFOAのことも知りませんけど、選択肢の「一度乾固させてから」という記述が気になります。

一般的に前処理操作において、試料を乾固させるようなことはしません。
それは、目的の成分が揮発してしまったり、容器に焼き付いたりしてしまうからです。

はっきりとした根拠はないけど、選択肢のの記述内容に私は違和感を感じます。

実際に規格を確認してみると、5.4に次のような記載がありました。

この溶出液を、40 ℃以下で加熱しながら、窒素を緩やかに吹き付け、約1 mLになるまで濃縮し測定用溶液とする。

やはり、乾固は間違いでした。正解は



2020年6月13日土曜日

第70回(2019.12)化学分析概論及び濃度の計算 問25

📁第70回(平成元年12月)

「JIS B 7954大気中の浮遊粒子状物質自動計測器」に規定されている自動計測器は4つありますが、そのうちの1つがベータ線吸収方式です。

ベータ線吸収方式の原理

ベータ線吸収法は、低いエネルギのベータ線を物質に照射した際に、その物質の質量に比例してベータ線の吸収量が増加することを利用した測定方法です。

実際のベータ線吸収方式計測器は次のような仕組みになっています。

  1. 大気を吸収し、ろ紙上に浮遊粒子状物質を捕集します。
  2. 14Cや147Pm を線源とする低いエネルギーのベータ線をろ紙上に捕集した粒子に照射します。
  3. シンチレーション検出器、半導体検出器で透過ベータ線強度を測定します。
  4. ベータ線の吸収量の増加から SPM の質量濃度を求めます。


さて、設問を見ていきましょう。
(ア) ろ紙上に捕集した粒子がベータ線を吸収しますから、ベータ線の吸収量は質量に比例して「増加」します。「減少」することはありません。したがって、選択肢のは誤りです。

(イ) ベータ線の吸収量の増加から SPM の質量濃度を求めるので、空欄には「質量」が入ります。したがって、選択肢のは誤りです。

(ウ) ベータ線の検出器は、シンチレーション検出器もしくは半導体検出器です。「周波数」は関係ありません。したがって、選択肢のが誤りです。

正解は

2020年5月26日火曜日

令和元年 環境計量士国家試験(環濃)問23の解説

問23(第70回 環濃)

それなりの出題頻度を誇るガスクロマトグラフ質量分析計についての設問です。

電子イオン化法はガスクロマトグラフ質量分析でもっともよく使用されるイオン化法で、イメージとしては試料に電子をぶつけることでイオン化します。

もう少し具体的に話しますと、フィラメントという細い線に電流を流して熱電子を放出し、それを気体試料に衝突させます。かなり高いエネルギー(通常70eV)を持った熱電子を試料に衝突させるので、ぶつけられた試料のほうも無事で済むはずありません。

最初に分子の電子を1個たたき出し、分子を壊すことなく化合物分子をイオン化しますが、一般には分子間の弱い結合部分が切れて断片化(フラグメンテーション)が起こり、イオン(フラグメントイオン)が生成します。

そして、同じ実験条件なら決まったパターンで断片化が起こるため、標準試料のスペクトルと突き合わせることで分析種の同定が可能となります。


さて、選択肢を見てみましょう。
1.試料にぶつける熱電子は「フィラメント」から放出されますから、電子イオン化法のイオン源の構成要素として間違いありません。

3.「誘導コイル」に高周波の電流を通すと誘導電場が発生し、石英トーチ内のアルゴンガス(Ar)が電離して 、5,000~10,000Kという高温のプラズマ状態になります。たしかに、このプラズマもイオン源に間違いありませんが、電子イオン化法のイオン源ではありません。ICP質量分析装置のイオン源ですから、これが間違いです。

正解は

その他の選択肢の内容は、よく知りません。


2020年5月15日金曜日

第70回環境計量士国家試験(環濃)問22の解説

問22(第70回 環濃)

「JIS K0102 工場排水試験法」では、金属元素の試験に用いる試料は硝酸を加えて pH を約1にして保存するのがセオリーですが、例外があります。そして、その例外が試験で問われます。

  • クロム(Ⅵ)の試験に用いる試料は、そのままの状態で 0 ~ 10 ℃の暗所に保存します。
  • 溶存マンガン及び溶存鉄の試験に用いる試料は、試料採取後、直ちにろ紙5種Cでろ過し、初めのろ液約 50mlを捨て、その後のろ液を試料とし、硝酸を加えて pH を約1に調節して保存します。


選択肢を見ていきます。

1 溶存鉄の試験に用いる試料なのに、ろ過していません。したがって、この記述は誤りです。


正解は

第70回環境計量士国家試験(環濃)問20の解説

問20(第70回 環濃)

よく見かける表記ですが、ポイントは2つです。

  1. 試薬の体積 a と水の体積 b とを混合した場合、試薬名(a+b) 又は 化学式(a+b) と表示してもよいことになっています。
  2. このような水との混合比で表すことのできる試薬は限定されています。

どんな硝酸でも  硝酸(1+10)と表示してもよいというわけではなく、これができる試薬はJIS K0050 4の表1に示してあります。

市販されている硝酸は、その密度によって硝酸1.38、硝酸1.40、硝酸1.42 の3種類が存在しますが、この中で 硝酸(1+10)と表示してもよいのは、硝酸1.38(質量分率 60~61 %)のみです。


したがって、硝酸 (1+10)を調製する手順は、硝酸(質量分率 60~61 %)10ml と純水 100ml を混合しますから、が正解です。


2020年5月14日木曜日

令和元年 環境計量士国家試験(環濃)問19の解説

問19(第70回 環濃)
前回の第69回でも出題された「フローインジェクション分析(FIA)」と「連続流れ分析(CFA)」の違いを理解しているか?を問う設問です。

流れ分析とは下の動画で紹介するように、前処理から発色、測定までを全自動で行う分析法のことです。(前処理は手分析で行う場合もありますが...)



流れ分析は、大きく2つのタイプに分けられます。それが冒頭でお話した「連続流れ分析(CFA)」と「フローインジェクション分析(FIA)」です。

連続流れ分析(CFA)がフローインジェクション分析(FIA)と異なる点は、ラインの流れに空気を規則正しく注入して分節する点です。(この点に注意して動画をご覧になってください)
空気分節することで、サンプルと試薬、希釈水との完全混合が可能になったとか...

一方、フローインジェクション分析(FIA)は、一定流量で細管内を流れている試薬に試料を導入し、細管内での分散・混合によって分析対象成分と試薬とを反応させ、下流に設けた検出器で反応生成物を検出して定量する方法のことです。
原子吸光法や ICP 発光分光分析でヒ素やセレンを測定する際に用いる水素化物発生装置がその代表例です。


参考資料

さて、選択肢を見てみましょう。
『フローインジェクション分析は、細管内の流れを気体で分節することで、試料と試薬とを効率よく混合することを特徴とする。』とありますが、これは連続流れ分析の特徴です。
したがって、これが誤りです。

正解は

2020年5月13日水曜日

第70回環境計量士国家試験(環濃)問17の解説

問17(第70回 環濃)
どの材質の試料容器を使用するかは、規格や分析項目ごとに定められているので、1つ1つ覚えていく必要があります。その点、実務で携わっている人には有利かもしれません。

とは言ったものの、一般論ですが有機化合物が分析対象である場合、ガラス容器を使用します。

ポリエチレン瓶は、試料中の有機物を付着又は吸着する傾向があるため使用されません。重金属元素も吸着する傾向がありますが、硝酸や塩酸の添加による保存処理を行うことで防止できます。

以上を踏まえると、試験容器の材質がポリエチレンである選択肢ののどちらかが誤っていると推測されます。


 環告第59号を確認すると、次のように書かれていました。

『試料の採取にはガラス瓶又は硬質ポリエチレン瓶を用いる(あらかじめ硝酸でよく洗浄した後、水洗しておく)』

したがって、環告第59号のアルキル水銀分析方法における容器の材質は、硬質ポリエチレンで問題ありません。


 次に、環告64号を確認すると、次のように書かれていました。

『容量 1~5L の共栓付き広口ガラス瓶又はガラス製共栓付き広口三角フラスコであらかじめヘキサンでよく洗つておいたもの』

したがって、環告64号の排水中のノルマルヘキサン抽出物質分析方法における容器の材質はガラスですから、選択肢の組合せは誤りです。


正解は

2020年5月12日火曜日

第70回環境計量士国家試験(環濃)問16の解説

問16(第70回 環濃)
「JIS K 0303 排ガス中のホルムアルデヒド分析方法」は、よく出題されます。しかも、そのほとんどがサンプリング方法についての設問ですから、次の3つのポイントを押さえてください。

  1. ホルムアルデヒドの分析法としては現在、DNPH誘導体化―HPLC分析法が最も広く利用されています。
    (排ガス、作業環境、室内空気などで)
  2. サンプリング方法として、DNPH溶液を用いるインピンジャー法(吸収瓶法)がこれまで使用されてきましたが、現在は操作が簡単なDNPHコーティングしたシリカを充填したDNPHカートリッジ法(固体捕集法)が最も多く採用されています。
  3. DNPH誘導体化法における妨害物質として、二酸化窒素が挙げられます。二酸化窒素はDNPHと反応して、2,4-ジニトロフェニルアジトを生成し、これがクロマトグラフにおいてホルムアルデヒドと似通った挙動を示しすので、二酸化窒素の体積分率が10 vol ppm以下の場合に限り、DNPH誘導体化法が適用されます。

今回の設問は、ほう酸吸収瓶捕集による AHMT 吸光光度法についての出題です。おそらく知らない人のほうが多いと思いますし、わたしも知りませんでした。しかし、解くことはできます。この設問は、化学の基礎力があれば解けるように上手く作成されています。


設問の解説
問題文から酸化還元滴定であることが気付けましたか?それが攻略の第一歩です。次に、問題文から酸化剤と還元剤を探します。

酸化剤:ヨウ素溶液
還元剤:ホルムアルデヒド標準液、チオ硫酸ナトリウム溶液

ホルムアルデヒド標準溶液を三角フラスコにとり、そこにヨウ素溶液とを加えていることから、フラスコの中でホルムアルデヒドとヨウ素の酸化還元反応が起きていると推測できます。

空欄(ア)
過酸化水素は酸化剤もしくは還元剤としての役割がありますから、空欄(ア)に過酸化水素が入ることは常識的に考えられません。ホルムアルデヒドとヨウ素の一騎打ちの戦いに水を差すことになります。
したがって、選択肢はに絞られます。

空欄(イ)
「残留しているヨウ素を直ちにチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定」とありますから、フラスコ中のヨウ素は最初のホルムアルデヒドとの反応でほとんどが還元していると想像できます。そして、ホルムアルデヒドが仕留め損ねたヨウ素を、チオ硫酸ナトリウムで仕留める!というのがこの分析の流れですから、空欄(イ)に還元剤であるアスコルビン酸溶液が入るのは不自然です。
したがって、選択肢はは不適切となりに絞られましたので、これが正解です。

空欄(ウ)についても考えておきましょう。
ヨウ素溶液をチオ硫酸ナトリウムで滴定すると溶液の色は、黄褐色 → 淡黄色 → 無色と変化するので、淡黄色~無色の間で指示薬であるでんぷん溶液を加えて青紫色にし、無色になって点を終点とします。
したがって、選択肢のは誤りです。


正解は

第70回(2019.12)化学分析概論及び濃度の計算 問15

📁第70回(令和元年12月)

問15 は「JIS K0055 ガス分析装置校正方法通則」もしくは「高圧ガス」に関する設問が出題される傾向が10年近く続いています。そこで、過去の出題内容を踏まえて、ガス分析装置校正方法のポイントをリンク先のページにまとめました。



(解説)
 校正用ガスとは、分析装置の校正に用いる標準ガスのことで、ゼロガス・スパンガス・中間点ガスの総称です。したがって、問題文の記述内容は誤りです。

 スパンガスとは、分析装置の所定の測定段階(レンジ)の、最大目盛付近の目盛値を校正するために用いる校正用ガスのことです。したがって、問題文の記述内容に誤りはありません。

 中間点ガスとは、分析装置の所定の測定段階(レンジ)内の、最小目盛と最大目盛の間の目盛値を校正するために用いる校正用ガスのことです。したがって、問題文の記述内容は誤りです。

 Point 解説ページに書いてないのでパスします。

 校正用ガスを分析装置に導入するための配管接続はできる限り短く、かつ、遊び空間ができないように定められた導入口に接続します。したがって、問題文の記述内容は誤りです。


正解は

環境計量士のためのPoint 解説 ガス分析装置校正方法(JIS K0055)

「JIS K0055 ガス分析装置校正方法」は、かなりの頻度で出題される頻出テーマです。そこで、過去の出題内容を踏まえ、ガス分析装置校正方法のポイントをまとめてみました。


最も出題される5つの用語です。

  • 校正用ガスは、分析装置の校正に用いる標準ガスで、ゼロガス・スパンガス・中間点ガスの総称。
  • ゼロガスは、分析装置の最小目盛値を校正するために用いる校正用ガス。
  • スパンガスは、分析装置の所定の測定段階(レンジ)の、最大目盛付近の目盛値を校正するために用いる校正用ガス。
  • 中間点ガスは、分析装置の所定の測定段階(レンジ)内の、最小目盛と最大目盛の間の目盛値を校正するために用いる校正用ガス。
  • 希釈ガスは校正用ガスを調製する際に、目的成分ガスをある濃度に希釈するために用いるガスで、目的成分ガスに経時変化を起こさせるような成分、又は測定値に影響を与えるような成分を含まないもの。

(解説)
正誤問題で度々登場します。それぞれのガスの違いを明確に説明できるようにしましょう。


校正用ガス

校正用ガスには、容器詰め校正用ガスと校正用ガス調製装置による校正ガスの2つがあります。
  • 容器詰め校正用ガスは、計量法トレーサビリティ制度などにおいて供給されている実用標準ガスのことです。
  • 校正用ガス調製装置による校正用ガスは、容器詰め校正用ガスなどの既知濃度のガスを原料ガスとして、調製装置から得られたガスのことです。

(解説)
校正ガスの調製方法にはいくつか種類があり、それぞれ名称があります。しかし、その名称まで覚える必要はないと私は思っているので、ここに名称は挙げません。
過去に一度だけ、その名称について出題されましたが、名称を覚えることにどれほどの意味があるのか?私はその出題者に問いたいです。
今後も名称について出題される可能性はゼロではありません。しかし、貴重な時間をこんな内容の勉強に費やすのであれば、もっと得点に繋がる可能性の高い内容の勉強に費やすべきでしょう。


校正の準備

  • 校正用ガスを分析装置に導入するための配管接続はできる限り短く、かつ、遊び空間ができないように定められた導入口に接続する。
  • 配管の材質には吸着性、反応性及び透過性が小さいものか無視できるもの(例えばステンレス鋼、四ふっ化エチレン樹脂など)を用いる。

(解説)
下線部が正誤判定でよく出題されます。


定期校正

定期校正の実施周期は、分析装置の種類・用途に応じ、その性能が維持できる期間を調べて、あらかじめ定めておかなければならない。通常、1 か月、3 か月、6 か月など、少なくとも 1 か年を超えない期間を周期として行う。また、分析装置の設置時、修理後、校正用ガスの更新時などにも行う。

(解説)
定期的な校正さえ行っていれば良いのではなく、分析装置の修理後や校正用ガスの更新時など計量管理上必要なときには、定期校正に関係なく校正を行うべきです。

2020年5月11日月曜日

第70回環境計量士国家試験(環濃)問14の解説

問14(第70回 環濃)
「JIS B7989 排ガス中の揮発性有機化合物(VOC)の自動計測器による測定方法」からの出題は、私の知る限りほとんどありません。設問の内容は 排ガス中の VOC 測定方法の概要ですが、知らない人には手に負えない内容だと思われます。


(ア) 「排出口」ではなく「採取口」の間違いでは?と思ったのですが、「排出口」が正しいようです。

(イ) 化学分析を行う場合と連続分析(自動計測器)による測定を行う場合、捕集部に試料ガスを吸引捕集します。(JIS K0095)
したがって、「吸引採取」で間違いありません。

(ウ) VOC の分析では、捕集容器に捕集バッグを用いるようです。


正解は




令和元年 環境計量士国家試験(環濃)問13の解説

問13(第70回 環濃)
「JIS K 0095 排ガス試料採取方法」は、毎回出題される超頻出テーマです。このテーマについては過去の出題内容を踏まえ、別のページで試験に出る要点をまとめてあります。


(解説)
 除湿器には除湿方法によって5つに種類分けされており、試料ガス中の湿度、分析計の特性、要求測定精度などに応じて除湿器を選択します。したがって、問題文の記述内容に誤りはありません。

 除湿器は、5つの方式から単独または組み合わせて用います。したがって、問題文の記述内容に誤りはありません。

 解説ページに書いてないのでパスします。

 水分による干渉を受ける分析計では、電子冷却式を用いますから、問題文の記述内容は誤りです。

 気液分離器は、凝縮水を試料ガスから速やかに分離させるためのもので、除湿器の後段に接続します。したがって、問題文の記述内容に誤りはありません。


正解は

超頻出‼ 排ガス試料採取方法(JIS K0095)

「JIS K0095 排ガス試料採取方法」は、毎回出題される超頻出テーマです。過去の出題内容を踏まえ、排ガス試料採取方法のポイントをまとめてみました。

排ガス試料採取方法をテーマにした設問は出題が範囲広いため、ここを覚えればOK!みたいな個所がなく、むしろどこを勉強したら良いのか?手掛かりが掴みづらいと思います。しかし過去問研究を続けると、ある程度出題されるポイントは見えてきます。


試料ガスの採取位置
試料ガスの採取位置には、ダクトの屈曲部分、断面形状の急激に変化する部分などを避け、排ガスの流れが比較的一様に整流され、作業が安全かつ容易な場所を選ぶ。

(解説)
この文章を一字一句完璧に暗記する必要はありません。下線部に注意して頭の片隅に入れておいてください。


採取口
  • 採取口は、ダクト内の排ガス流に対してほぼ直角に採取管を挿入できるような角度とする。
  • 採取口に用いる管の材質は、炭素鋼、ステンレス鋼又はプラスチック製とする。

(解説)
「プラスチックは排ガスの熱に耐えられないからダメだろう」と思って正誤問題で「この文章は誤りだ!」とやってしまいます。プラスチックは120℃ぐらいに耐えらえるものであれば、採取口に用いても大丈夫です。


試料採取装置の構成
化学分析による場合:採取管ー導管ー捕集部
連続分析による場合:採取管ー導管ー前処理部ー(分岐管)ー計測器

(解説)
捕集部とは、排ガスを化学分析によって分析するとき、容器に直接または吸収液に吸収させて、試料ガスを捕集する部分のことです。
連続分析とは自動計測器のことです。そして、試料ガスを自動計測器に導入する前に除湿やその他の処理を行う部分のことを前処理部とよびます。
分岐管は、同一採取管から多成分を同時に測定するとき用いるもので、それぞれの計測器に接続する導入口をもちます。


測定成分と採取管・分岐管の材質
測定成分が塩素のとき:金属系の材質は不適切
測定成分がフッ化水素のとき:ガラス系の材質は不適切

(解説)
超頻出です。


一次ろ過材
ろ過材は、試料ガス中にダストなどが混入するのを防ぐため、必要に応じて採取管の先端又は後段に装着する。

(解説)
超頻出です。ろ過材を採取管のどこに装着するのか?を問う設問がほとんどです。


除湿器
除湿器の選択は、試料ガス中の湿度、分析計の特性、要求測定精度などに応じて、これらの方法のいずれから単独または組み合わせて用いる。
水分による干渉を受ける分析計では、前処理部を出たガスの露点を一定に保持する電子冷却式を用いる。水分による干渉を受けない分析計ではいずれを用いてもよい。

(解説)
除湿器とは、計測器内部に試料ガス中の水分が凝縮しない程度に除湿を行うもので、除湿方式は5つあります。その5つを覚える必要はありません。
露点とは、大気中の水蒸気が冷却して凝結がはじまる温度のことです。


気液分離器
気液分離器は、冷却除湿を行うとき、凝縮水を試料ガスから速やかに分離させるためのもので、除湿器の後段に接続し、気液分離管及び凝縮水トラップからなる。
凝縮水トラップ中の水が計測器内部の配管への流入を防ぐため、必要に応じて凝縮水トラップの排出管に安全トラップを接続する。





2020年5月10日日曜日

環境計量士(濃度関係)国家試験問題の解説(環濃)問12(2019)

令和元年 第70回 問12の解説

高校で学習する中和滴定の計算問題です。

溶液中の H+ と OH- の数が等しくなることを中和といいますから、0.20 mol/L の NaOH 水溶液 5.0 ml に含まれる OH- の数(物質量)と、0.5g の樹脂が保持していた H+ の物質量は等しくなります。


OH- の物質量:0.2 × (5.0 / 1000) = 1.0 × 10-3 (mol)

上の式より、OH- の物質量が 1.0 × 10-3 (mol) ですから、陽イオン交換樹脂 0.5g が保持していた H+ の物質量は 1.0 × 10-3 (mol) ということになります。

設問は「単位質量あたり(1g)の樹脂が保持していた H+ の物質量に最も近いものを選べ。」ということなので、 0.5g の樹脂が保持していたH+ の物質量2倍となり、2.0 × 10-3 (mol) が最も近い値です。

正解は

令和元年 環境計量士国家試験(環濃)問11の解説

問11(第70回 環濃)
「JIS B 7983 排ガス中の酸素自動計測器」は、ほぼ毎回出題される超頻出テーマです。
このテーマについては過去の出題内容を踏まえ、別のページで試験に出る要点をまとめてあります。


(解説)
1 解説ページにも書いてありますが、磁気式の計測器には、磁気風方式と磁気力方式があります。したがって、この記述に誤りはありません。

 解説ページに書いてないのでパスします。

 磁気方式は一酸化窒素の影響を受け、ジルコニア方式は未燃焼ガスの影響を受けます。これは大切なポイントです。
そのため、干渉成分の影響について試験を行う際の試験用ガスは、磁気方式には一酸化窒素が含まれたガスを、ジルコニア方式には一酸化炭素(未燃焼ガス)が含まれたガスを試験用ガスとして用います。

したがって、この記述は誤りです。

 解説ページに書いてありますが、ジルコニア方式は、酸素の電気化学的酸化還元反応を利用する電気化学式の一方式です。したがって、この記述に誤りはありません。


正解は



環境計量士のためのPoint 解説 酸素自動計測器(JIS B7983)

「JIS B 7983 排ガス中の酸素自動計測器」は、ほぼ毎回出題される超頻出テーマです。
過去の出題内容を踏まえ、酸素自動計測器についてまとめてみました。


この規格に規定されている計測器は以下のとおりです。

  • 酸素の常磁性を利用する磁気式
  • 酸素の電気化学的酸化還元反応を利用する電気化学式

酸素の常磁性とは?
とりあえず、動画をご覧ください。


酸素でふくらましたシャボン玉がネオジム磁石に引き寄せられていますね。
このように酸素の常磁性とは、磁場がないときは磁化を持たない(磁石のような働きをしない)けれど、磁場があると弱く磁化する磁性のことです。

そして、この常磁性を利用した計測器が磁気式であり、磁気風方式と磁気力方式の2つに分けられますが、試験で問われるのは磁気風方式のほうです。

磁気風方式
磁界内で吸引された酸素分子の一部が加熱されて,磁性を失うことによって生じる磁気風の強さを熱線素子によって検出する。

言葉だけでの説明ではなかなか覚えられないので、図のように左右に分かれたガス流路を例にして磁気風方式について考えてみます。

このガス流路の左側は(永久)磁石によって磁力がかけられていますが、右側の流路には磁力がかけられていません。そのため、このガス流路に酸素を含む測定ガスを流すと、測定ガスは酸素が磁界に引き付けられて左側の流路を進みます。


ところがしばらくすると、左側の通路の流れが悪くなります。この原因は測定ガスが磁力によって留まってしまうからです。そこで、磁力がかけられている流路を加熱すると、加熱によって磁性を失った測定ガスが磁気風と称する風を生じさせます。

この磁気風の強さは測定ガス中の酸素濃度に比例しますから、風の強さを検出することでその濃度を求めることができます。


磁気方式の特徴
一酸化窒素も常磁性がありますから、これの影響がある場合は正確な測定はできません。したがって、磁気方式の干渉影響試験には、一酸化窒素を含む試験用ガスを用います。


2020年5月8日金曜日

頻出‼ 排ガス中の窒素酸化物の分析方法で問われる内容とは?

令和元年 環境計量士(濃度関係)国家試験問題の解説

問10(第70 環濃)

排ガス中の窒素酸化物の分析方法はそこそこの頻度で出題されますから、少しまとめておきましょう。

排ガス中の窒素酸化物の分析方法の規格は、JIS K0104JIS B7982 の2つです。
前者は採取したガスを実験室で分析法を行う化学分析法の規格であり、後者は自動計測システムの規格です。

そして、JIS K0104では5つの分析方法が規定されていますが、試験に出題されたことがあるのは次の2つだけです。

①イオンクロマトグラフ法
試料ガス中の窒素酸化物をオゾン又は酸素で酸化し硫酸(0.005 mol/L)−過酸化水素水 (1+99) に吸収させて硝酸イオンとして定量します。

②ザルツマン吸光光度法
試料ガス中の二酸化窒素スルファニル酸−ナフチルエチレンジアミン酢酸溶液に通して発色させ,吸光度(545 nm)を測定します。
また、この方法には他の4つの分析方法と異なる特徴があります。他の4つの分析方法は 一酸化窒素と二酸化窒素を測定対象としていますが、ザルツマン吸光光度法だけが二酸化窒素のみを測定対象としています。


JIS B7982では4つの分析方法が規定されていますが、試験に出題されるのは化学発光法のみです。
この方法の原理は、一酸化窒素とオゾンを反応させたときに生成される光化学的に励起状態にある一酸化窒素の発光強度を測定するものです。これにより試料大気中の一酸化窒素濃度を測定することができます。
また、二酸化窒素を一酸化窒素に還元することによって、試料大気中の窒素酸化物の濃度が測定できます。


それでは、設問を解いていきます。
既に説明したとおりイオンクロマトグラフ法は、試料ガス中の窒素酸化物をオゾン又は酸素で酸化し、硫酸(0.005 mol/L)−過酸化水素水 (1+99) に吸収させて硝酸イオンとして定量します。

したがって、( ア )には「オゾン又は酸素」が入り、( イ )には「硫酸(0.005 mol/L)−過酸化水素水 (1+99)」が入ります。
そして( ウ )には「硝酸イオン」が入りますから、正解はになります。

2020年5月7日木曜日

環境計量士(濃度関係)国家試験問題の解説(環濃) 2019.12 問9

令和元年(12月)第70回 問9の解説

問9は毎年必ず原子吸光分析法から出題されます。しかも、バックグラウンドについて問われることが最も多いのですが、自己反転補正法について出題されたのは私の知る限りはじめてです。

とりあえず、バックグラウンドについて簡単にまとめておきます。


原子吸光分析法におけるバックグラウンドとは?

ホロカソードランプから放たれた光は目的元素によって吸光されるだけでなく、共存元素に吸光されたり、共存する粒子によって散乱したりもします。その結果、検出器に到達できる光は減ってしまい、見かけ上の吸光度が大きくなってしまいます。

このように目的元素以外の原因による減光をバックグラウンドと呼び、その対策として次の3つの方法でバックグラウンドを補正します。


  1. 重水素ランプ(D2)補正法
  2. 偏光ゼーマン補正法
  3. 自己反転補正法(自己吸収補正法)

自己反転補正法とは中空陰極ランプ(ホロカソードランプ)に、過剰電流で点灯した際に現れる自己吸収現象を利用した方法です。自己吸収現象が現れたとき、目的元素による原子吸光は無視できるほど小さいので、このときの吸光度はバックグラウンドによるものとなります。

通常時の吸光度:目的元素による吸光 + バックグラウンドによる吸光
自己吸収現象時の吸光度:バックグラウンドによる吸光

したがって、通常時の吸光度 - 自己吸収現象時の吸光 = 目的元素の吸光度 となります。

正解は


参考ページ


2020年5月6日水曜日

令和元年 環境計量士国家試験(環濃)問8の解説

問8(第70回 環濃)
第63回の問12で「JIS K 0103 排ガス中の硫黄酸化物分析法」について出題されています。しかも、選択肢が5つとも今回と同じ内容でした。それだけ設問のネタになるようなポイントのない分析法なのかもしれません。


この分析法について少しまとめておきましょう。

硫黄酸化物(SOx)とは、SO2 と SO3 のことです。
この分析法では SO2 と SO3 をそれぞれ別々に定量するのではなく、過酸化水素水で試料ガスを吸収することにより、全ての硫黄酸化物を硫酸に変換した上でまとめて定量を行います。

SO2 + H2O2 → H2SO4
SO3 + H2O → H2SO4

定量方法はイオンクロマトグラフ法と沈殿滴定法(アルセナゾⅢ法)の2つがあり、いずれも硫酸イオンとして硫黄酸化物を測定します。


さて、選択肢のを見てみましょう。

「~法では、硫黄酸化物をチオ硫酸に変換して測定する。」とあります。
しかし、これはチオ硫酸ではなく硫酸の間違いですから、選択肢の記述内容は誤りです。

正解は



第70回環境計量士国家試験(環濃)問7の解説

問7(第70回 環濃)
日々の業務で ICP 発光分光分析装置を使用しているのなら、即答できる内容です。


ICP 発光分光分析法における3つの定量方法を答えよ!


みたいな質問をされたら、次の3つが即答できるようにしましょう!
  1. 発光強度法
  2. 内標準法
  3. 標準添加法
※JIS K 0116 では、発光強度法も内標準法も検量線法の一つとして分類されいるようです。私個人としては、検量線法、内標準法、標準添加法という認識ですが...


ちなみに、ICP 質量分析法における定量方法は次の4つです。これも即答できたほうが良いですね。
  1. 検量線法
  2. 内標準法
  3. 標準添加法
  4. 同位体希釈分析法

というわけで、選択肢3の同位体希釈分析法が 「JIS K 0116 発光分光分析通則」に記載のない定量法ということになります。
正解は

2020年5月5日火曜日

令和元年 環境計量士国家試験(環濃)問6の解説


問6(第70 環濃)
PCB(JIS K0093)からの出題は2年連続です。
昨年は『5. ガスクロマトグラフ法』の原文をそのまま載せたかたちでの出題でしたが、今年は『6. ガスクロマトグラフ質量分析法』の原文をそのまま載せたかたちでの出題です。

(ア)
私は有機分析については素人なのでこのあたりのことはよく分かりませんが、PCB の分析におけるクリーンアップはシリカゲルを用いたカラムクロマト分離を行うのが一般的なようです。
しかし、規格の備考にはシリカゲルの代わりに活性けい酸マグネシウムを使用してもよいと記載されています。

したがって、下線部に誤りはありません。
選択肢はに絞られます。


(イ)
PCB をガスクロマトグラフ法で定量する場合、その検出器はハロゲンに対してのみ反応する電子捕獲検出器(ECD)を使用しますから、下線部の内容は誤りとなります。

したがって、残った選択肢はのみです。
正解は


(ウ)
四重極型のガスクロマトグラフ質量分析には、全イオン検出法(TIM、スキャンモード)と選択イオン検出法(SIM)があります。どちらの検出法を用いるかは分析の目的によります。

マススペクトルを利用して試料成分を同定する時には、スキャンモードを利用します。一方、SIMモードではマススペクトルは得られませんが、スキャンモードよりも高感度なので微量分析の定量に向いています。
スキャンモードでピークの成分同定を行い、その化合物に特定の質量電荷比(m/z)を持つイオンを決定し、それからそのイオンをSIM分析で定量するのが一般的な分析の流れとなります。


2020年5月4日月曜日

第69回環境計量士国家試験(環濃)問6の解説

問6(第69回 環濃)
JIS K0093に規定されている PCB の試験方法に関する穴埋め問題です。

問題文は JIS K0093 の『5. ガスクロマトグラフ法』の原文のままですが、JIS の原文を丸暗記する必要はありません。いくつかの基礎知識があれば攻略可能です。

(ア)
ヘキサンで抽出できるものとは?
ヘキサンは極性の低い溶媒ですから、ヘキサンで抽出できるものは同じく極性の低い物質に限られます。油脂や長い炭素鎖をもつ有機物などがそれです。これらは PCB と共にヘキサンで抽出されますが、測定時に妨害成分となるので分離する必要があります。

油脂とアルカリ
高校で学習する内容になりますが、油脂とはグリセリン1分子に高級脂肪酸3分子が結合した3価のエステルのことです。
エステルである油脂を水酸化ナトリウムのようなアルカリと共に加熱すると、エステル結合が加水分解されてグリセリンと脂肪酸のナトリウム塩(いわゆる石鹸)が得られます。

グリセリンも石鹸も水溶性ですから、再びヘキサンで抽出を行うと PCB から分離されます。
ところで、PCB はアルカリで分解されないのでしょうか?
PCB は化学的に安定であることが特徴ですから、この程度では分解されません。

したがって、空欄の(ア)には『アルカリ分解』が入ります。


(イ)
私は有機分析については素人なのでこのあたりのことはよく分かりませんが、PCB の分析におけるクリーンアップはシリカゲルを用いたカラムクロマト分離を行うのが一般的なようです。
しかし、試料中に油分(動植物油脂類)などが多く含まれ、アルカリ分解を行っても油分などが分解されずにヘキサン層に残留する場合には、フロリジルを用いたカラムクロマト分離を行う旨が規格の備考に記載されています。

したがって、空欄の(イ)には『シリカゲル』が入ります。


(ウ)
PCB は塩素(ハロゲン)を保有しているので、ハロゲンに対してのみ反応する電子捕獲検出器(ECD)を使用します。

正解は


2020年5月3日日曜日

第70回(2019.12)化学分析概論及び濃度の計算 問5

📁第70回(2019.12)

超頻出の「JIS K0115 吸光光度分析通則」から、Lambert-Beer(ランベルト・ベール)の法則についての出題です。

吸光度を A、物質の濃度が c (mol/L)、セルの厚みが l (cm) のとき、吸光度 A は次の式で表せます。

A = cεl 


物質固有の光吸収能を示す比例係数 ε (M-1cm-1) をモル吸光係数といいます。この値は、標準試料の濃度と吸光度の関係を表す検量線から求めることができます。


(設問の解説)
4.
モル吸光係数(ε)が2倍になると、同じ吸光度を得るために必要な光路長(セルの厚み)は 1/2 になりますから、誤りです。


5.
吸収セルの光路長(セルの厚み)が2倍になると、吸光度も2倍になりますから、正しい内容です。


正解は


ちなみに、吸光度 は次の式で表せます。

A = log10 ( I0 / IT )

I0:入射光 IT:透過光

また、光の透過率(T)は次のようになります。

TIT / I0

したがって、吸光度 は次のように書き換えられます。

A = log10 (  1 / T )


(設問の解説)
1.
A = log10 ( I0 / IT ) は次の式に書き換えることができます。

10AI0 / IT

入射光の強度が2倍になると、吸光度の値も大きくなります。

2.
濃度が2倍になると吸光度も2倍になります。入射光が一定の状態で吸光度が2倍になると、透過光が小さくなります。しかし、吸光度と透過光は反比例の関係ではないので透過率は 1/2 になりません。

3.
透過率が2倍になると、透過光が2倍あるいは入射光が 1/2 になります。
透過光が2倍になると、吸光度は下がります。入射光が 1/2 になっても、吸光度は下がります。

第70回環境計量士国家試験(環濃)問4の解説

問4(第70回 環濃)
分離度については、私の知る限り初めての出題かもしれません。
また、分析条件等の検討を行う際に必要となる知識ですから、ルーチン分析においては重要度が低いと言えるでしょう。


分離度(Resolution)は、隣接する2つのピークがどの程度分離しているのかを数値化したもので、数値が大きいほど良く分離していることを表します。

分離度の求め方は、2つのピークの頂点間の距離をそれぞれのピーク幅の平均値で割ります。
(※日本薬局方およびJIS 高速液体クロマトグラフィー通則とは式が異なります。)


2つのピークの頂点間の距離は同じでも、ピーク幅が狭いほど(ピークがシャープなほど)分母が小さくなり分離度は大きくなります。


正解は




2020年5月1日金曜日

令和元年 環境計量国家試験(環濃)問3の解説

問3(第70回 環濃)

ガスクロマトグラフの試料注入法は ホット(hot)コールド(cold)の2つに大別できます。

ホットインジェクション
下の動画で解説しているとおり、注入後に試料を気化します。気化した試料はカラムへ導入されますが、その方法は2つあります。

①スプリット注入法
スプリットバルブを開き、気化した試料の一部をカラムへ導入します。カラムへのサンプル導入量が少ないのでカラムへの過負荷を防ぎますが、微量分析には不向きです。

②スプリットレス注入法
スプリットバルブを閉じ、気化した試料の大部分をカラムへ導入します。カラムへのサンプル導入量が多いので微量分析に向いています。




コールドインジェクション
③コールドオンカラム注入法
試料溶媒の沸点以下に保った注入口を通してカラムに直接試料を導入する方法です。注入後にカラムを昇温することで、注入成分をキャピラリカラム内部で直接緩やかに気化させます。そのため、試料の熱分解を引き起こすことがありません。


(設問の解説)
選択肢のを見てください。
「コールドオンカラム注入法では、試料溶媒の沸点以上に保った注入口を~」とありますが、正しくは「試料溶媒の沸点以下」です。

正解は

2020年4月30日木曜日

第70回環境計量士国家試験(環濃)問2の解説

問2(第70回 環濃)
モル濃度計算は現場でも役に立ちますから、ぜひマスターしてください。


はじめに濃硫酸 1ml 中に含まれる硫酸の質量を計算します。

1.84 (g/ml) × (95/100) = 1.748 (g/ml)

上の式より、濃硫酸 1ml 中には 1.748g の硫酸が含まれていることが分かりました。
次に、硫酸 1.748 g を mol に変換します。

1.748 (g/ml) ÷ 98.0 (g/mol) = 1.784 × 10-2 (mol/ml)

上の式より、濃硫酸 1ml 中には 1.784 × 10-2  mol の硫酸が含まれていることが分かりました。
ちなみに、濃硫酸 1L 中には 1.784 × 10-2 × 103 より 17.8mol の硫酸が含まれていることになりますから、濃硫酸のモル濃度は 17.8 mol/L となります。


こんどは、3.00 mol/L の硫酸水溶液500ml の中に含まれる硫酸の物質量を計算します。

3.00 (mol/L) × (500/1000) (L) = 1.50 (mol)

上の式より、 3.00 mol/L の硫酸水溶液500ml の中には 1.50 mol の硫酸が含まれていることがわかりました。

濃硫酸 1ml 中には 1.784 × 10-2  mol の硫酸が含まれているので、下の計算式より濃硫酸 84.08 ml の中に 1.50 mol の硫酸が含まれていることが分かります。

1.50 (mol) ÷ (1.784 × 10-2) (mol/ml) = 84.08 (ml) 

したがって、濃硫酸 84.08 ml を水で希釈して 500 ml に定容すれば完成です。

正解は