2020年3月8日日曜日

ケルダール法による窒素の分析

ケルダール法を用いた窒素の分析は、環境・肥料・食品・石炭など幅広い試料に用いられる分析方法です。自動分解装置や自動蒸留装置といった便利な装置もあるので、分析操作はそれほど難しいものではありません。

ただ、「知識の継承ができてないなぁ~」と思うことがあるので、ポイントをまとめてみました。


ケルダール法の特徴は次の2つ!

特徴1

試料を濃硫酸とともに強熱するので、固体の有機試料を溶液化することができます。

有機物試料を硫酸とともに加熱すると、硫酸のもつ強力な脱水作用により試料は炭化してフラスコの中は真っ黒になります。

さらに加熱を続けていくと白煙が発生します。このときの硫酸は強力な酸化力を発揮し、この酸化力によって炭化した真っ黒な試料は、酸化されて最終的に CO2 まで分解されてしまいます。

硫酸カリウムや硫酸銅などの分解促進剤を添加しているのであれば、白煙発生から30~40分間の加熱で、ほとんどの試料は青緑色の透明な溶液に分解されるでしょう。このとき、測定対象の窒素は硫酸アンモニウムとして捕集されています。

もし溶液の色が黄色を帯びていたら、それは加熱時間が足らないのでさらに30分ほど加熱を続けてください。

石炭やコークスは分解が困難なので、長時間の分解でも溶液の色が真っ黒なときがあります。この場合は放冷したフラスコに少量の過酸化水素水を静かに加えて、再び加熱してください。(これでも分解できないようでしたら、ケルダール法は潔く諦め、ガス化法もしくはCHN法に切り替えます。)


特徴2
正確に分析できるのはアミノ態窒素またはケルダール窒素と呼ばれる酸化数が-3の窒素だけ。

酸化数が+5の硝酸、+3の亜硝酸とニトロ化合物、+1のニトロソ化合物などは正確な分析ができません。
これらの窒素をケルダール法で分析する場合は、デバルダ合金のような還元剤を添加し、その酸化数をー3にする必要があります。


蒸留について

アンモニウム塩は、アルカリ性溶液中では蒸気圧が高いアンモニアを遊離するので、蒸留する際は十分な量の水酸化ナトリウム溶液を加えます。

アルカリ性になると溶液の色が黒色に変化するので、黒色が維持されるまで水酸化ナトリウムをしっかりと加えてください。

また、アンモニアの分析経験が有る方は、次のような疑問が湧くかもしれません。

JIS K0102のアンモニウムイオンの分析や、肥料分析法のアンモニア性窒素の分析では、蒸留のときNaOHではなくMgOを加えて微アルカリ性にしています。この違いはなぜ起こるのでしょうか?

尿素、アセトアミド、ペプトン、アスパラギンなどの窒素を含む有機化合物は、蒸留の際にその一部が加水分解(加熱分解?)してアンモニアを生成します。しかし、もともと溶液中のアンモニウムイオンの分析だけが目的の場合、これでは正の誤差を与えることになりかねません。

この影響は蒸留時のpHが高くなるほど大きくなるということが分かっているので、蒸留時に MgO を加えて試料を微アルカリ性として蒸留を行うことでこれらの分解率を下げて、アンモニアの生成を抑制します。


吸収液について

留出したアンモニアは一定量の硫酸と反応させて、硫酸アンモニウムとして捕集されます。
そして、アンモニアと結合していない残った硫酸を標準水酸化ナトリウム液で中和滴定することで、間接的にアンモニアの含有量が求まります。

また、硫酸の代わりにホウ酸溶液を用いることも一部の公定法で認められています。
ホウ酸は、アンモニアと反応して蒸気圧の低い塩になります。

H3BO3 + NH3 → NH4H2BO3

ホウ酸は酸としての解離定数が極めて小さいので、中和滴定に関与しません。
ですから、留出液を標準硫酸溶液で直接滴定してアンモニアを定量できます。

NH4H2BO3 + 1/2H2SO4 = H3BO3 + 1/2(NH4)2SO4

吸収液としてのホウ酸は、アンモニアを完全に捕集できるだけの量さえあれば良いので、その濃度と量が正確である必要がありません。


中和滴定で定量することが前提みたいだけど、インドフェノール青吸光光度法はダメなの?

ダメじゃないですよ。
固形試料の場合、窒素濃度が高いことが多いので中和滴定のほうが適しているんですよ。
それに中和滴定のほうが操作も簡単で、分析時間も圧倒的に速いと思います。


ケルダール法のイメージ動画



参考文献
越野正義『第二改訂 詳解肥料分析法』養賢堂
日本規格協会『詳解工場排水試験法〔改訂3版〕』