2026年5月31日日曜日

表示される”と“正しく測れる”は別物よ ― 分析天秤の最小秤量値を解説


この分析天秤は0.0001gまで表示できるから、1つ上の桁の0.001gが秤量の最小秤量値になる。

新人時代、職場(環境計量事業所)の先輩にそう教わったのよね…
でも、結論から言うと、その考え方はかなり危険。
…というか、基本的には「間違い」。

なぜなら、表示される桁(最小表示)と、正しく測れる限界(最小秤量値)は、まったくの別物 だから。


今回は天秤の最小秤量値について、初心者向けに解説していく。


0.天秤の最小秤量値の求め方


細かい理屈はいいから、求め方を先に教えなさいよ!

そんなせっかちな読者は、次のa~dの手順を試してみなさい。

a. 分銅を用意する。
(普段よく測定する重さに近い分銅を使うこと。※)

b. 分銅を連続10回で秤量する。
(分銅を載せ降ろししながら、測定結果を記録する)。

c. 標準偏差を求める。

d. 次の式から最小秤量値を求める。

最小秤量値 = 2000 × 標準偏差

※本来は複数荷重域で評価することが望ましい。ただ、今回は初心者向けとして簡易的な方法を紹介している。

標準偏差の求め方が分からない!?
Excelのセルに ”=STDEV.S ”と入力すれば計算できるわよ。

1.最小秤量値とは?

天秤には、どれだけ丁寧に測定しても避けられない“測定値のバラツキ”があって、このバラツキは微量になるほど相対的に大きな誤差として現れるの。

たとえば、±0.001 g のバラツキでも、100 g を量るなら影響は小さい。
でも、0.010 g を量る場合は無視できない誤差になる。

だからユーザーは、「どこまでの誤差なら許容できるか」を先に決める必要があるの。
そして、その許容範囲内で測定できる最小の質量を「最小秤量値」というのよ。

ちなみに、"0.天秤の最小秤量値の求め方" で紹介した計算方法は、誤差範囲を0.1%に設定している。

先輩みたいに、「どの程度の誤差まで許容できるのか」を示さないまま、「0.001 g まで測れる」と言い切る人は、要注意人物だから。
そんな人に分析を語らせたらダメ。

2.繰返し性とは?

さて、前項で出てきた“測定値のバラツキ”について、もう少し説明しておく。

これは、「同じ人が、同じ天秤で、同じものを、短時間に何度も秤量したときに生じる、“数値のバラツキ”」のこと。 つまり、「おなじものを測っているのに、毎回まったく同じ値になるとは限らない」ってことね。

...え?
「機械なんだから毎回ぴったり同じ値になるんじゃないの?」って?

甘いわね。現実の測定はそんなに単純じゃないの。
天秤の測定では、どんなに高価な機種を使っても、どんなに熟練した人が測定しても、“絶対にゼロにできないバラツキ” が必ず存在する。
そして、そのバラツキの大きさを評価する重要な指標の1つが「繰返し性」なの。

ちなみに、" 0.天秤の最小秤量値の求め方 " で計算した「標準偏差」が、このバラツキの大きさに相当する。

大切なのは、「バラツキを無理やり消そうとすること」じゃない。
「どの程度のバラツキが存在するのかを把握して、それを踏まえて測定結果を判断すること」なの。

3.天秤の最小秤量値の求め方

さて、ここまで読んだなら、「じゃあ実際、最小秤量値ってどうやって決めるの?」って気になってる頃よね。最小秤量値は、繰返し性から求めた標準偏差sと、あらかじめ設定した誤差範囲を使って計算する。
式で表すと、こんな感じ。

最小秤量値 ≧ 2× s × (100/誤差範囲(%))

ここで、
s:繰返し測定から求めた標準偏差
誤差範囲 (%):ユーザー側が設定した許容管理幅
を表している。

ちなみに、この「2×標準偏差」というのは、測定値のバラツキを95%程度の範囲で見積もるために使っている。

...まあ、「なんで2なの?」って深い追いしたくなる気持ちは分かるけど、今回は初心者向けの記事だから、その辺はまず "そういう考え方をするんだな" くらいで十分。

4.直線性とは?

天秤の最小秤量値を求めるだけなら、繰返し性だけで十分。
でもね、天秤の性能を示す指標は繰返し性だけじゃないの。
そこで次に出てくるのが、「直線性」という考え方。

直線性とは...
「全測定範囲において、重さと表示値の関係が直線的になっているか」を評価する性能のこと。

ちょっと何を言っているのか分からない?
それじゃあ、定規📏で考えてみなさい。

定規の目盛って、正しく等間隔に刻まれているのが当たり前でしょ。
もし、途中で目盛間隔が広かったり、狭かったりしたら、安心して長さを測れないよね?

天秤の直線性も、イメージとしてはそれと同じなの。

重さと表示値の関係が直線的なら、「どの荷重域でも、一定の間隔で値が増加する」ことを意味している。
だけど、荷重によってズレ方が変わる場合――つまり直線性が悪い場合は、ある荷重域だけ誤差が大きいとか、 荷重によって感度が変わる、みたいな状態が起きる。

こんな "はかり" の目盛間隔がズレてるって言った方がイメージしやすいかな?

5.直線性試験って、何のためにやるの?

さて、ここまで直線性について説明してきたけど、「じゃあ、直線性試験って結局何のためにやるの?」って話よね。
もう一度整理すると、直線性確認によって分かるのは、次の3つ。

・荷重ごとの表示誤差
・荷重域による誤差変化
・使用可能範囲

つまり、「どの荷重域なら、信頼して測定できるのか」を確認するための試験なのよ。
これによって、実務上は次のような判断ができる。

・「この誤差なら、管理基準内だから使用可能」
・「この誤差域だけ誤差が大きいから、ここでの測定は避けよう」
・「この範囲なら、要求精度を満たせる」

...ほら、ただの点検じゃないでしょ?

特に重要なのが、「荷重域による誤差の出方が変わる」という点。
例えば、0〜50 g は問題ないけど、100 g付近から急に誤差増大みたいなケース。
この場合、「この天秤は100 g近辺の測定には向いていない」という判断ができる。

つまり、直線性試験って、「合格/不合格」だけを見るものじゃないの。
“どの範囲なら信頼して使えるのか” を把握するための試験なのよ。

直線性、一応点検したからヨシ!

こんなノリで終わらせるの、本当に危ないんだから。
だって、荷重域によっては誤差が増えているかもしれないでしょ?


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