2025年5月9日金曜日

環境計量士と原子吸光分析法(2)

ここでは環境計量士試験対策として、電気加熱原子吸光分析冷蒸気原子吸光分析を扱う。


「電気加熱原子吸光分析」とは?

電気的に加熱制御できる炉の中に、試料溶液を入れ 乾燥→灰化→原子化して原子吸光分析する方法のことを電気加熱原子吸光分析という。

この方法の特徴の1つは高感度であること。フレーム原子吸光分析法やICP発光分析法よりも検出下限が低く、ICP-MSに匹敵するほどの低濃度の測定が可能。

その一方で、元素や試料の種類によって乾燥・灰化・原子化温度が異なり、誤った温度設定及び時間設定をしてしまうと、目的元素の揮発や試料溶液の突沸が起きてしまうといったデメリットもある。


電気加熱炉

電気加熱炉は “ちくわ” の形をした黒鉛製の発熱体(グラファイトチューブ)が一般的で、これに電流を流して加熱する。

※「JIS K 0121 原子吸光分析通則(以下、規格)」には「発熱体は黒鉛製又は耐熱金属製とする」と書いてあるが、実際のところ黒鉛製以外の発熱体は市販されていない。しかし、試験では「耐熱金属製(タングステ, モリブデン)」がたびたび出題されるから要注意だ!

図のように、ちくわ(発熱体)の上部にある小さな穴からマイクロピペットを使用してサンプル(試料溶液)を注入する。

ちくわ(発熱体)に電流を流して、ちくわ内部の試料溶液を乾燥→灰化→原子化する。

内部で原子化された元素は、ランプからの光が通る軸方向に滞留するため、光路中の原子濃度が高くなり、感度が上昇する。

ちくわ(発熱体)内部の酸化防止、測定後の試料蒸気の排出のため、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスをちくわ(発熱体)内部に流す。


「冷蒸気原子吸光分析」とは?

試料溶液を還元気化、または加熱気化して得られた水銀の原子蒸気を原子吸光分析する方法のことを冷蒸気原子吸光分析といい、水銀専用原子吸光分析装置は、この方法で分析を行う。

還元気化は、試料溶液に還元剤を加えて溶液中の水銀イオンを金属水銀(ガス状)に還元し、水銀蒸気を発生させる。

加熱気化は、試料を加熱して気化した水銀を捕集管に捕集し、水銀をその他の測定に悪影響を与えるガスと分離する。分離後、捕集管を加熱して水銀を気化させる。この方法を「加熱気化ー金アマルガムー冷蒸気方式」とよぶ。


【過去問演習】


第75回(2024年12月)

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〔解説〕

1.正しい記述。
規格〔5.3.2 電気加熱方式の原子化部〕には “発熱体は黒鉛製または耐熱金属製とする” と記載されている。

2.正しい記述。
規格〔3.定義 m 〕には “水銀専用原子吸光分析装置は試料中の水銀を還元気化又は加熱気化して発生する水銀蒸気を原子吸光分析する水銀専用の測定装置” と記載されている。

3.正しい記述。
規格の〔5.8 附属装置 d 〕には “水素化物発生装置は試料溶液中の分析対象成分を還元してきた以上の水素化合物とし、フレーム又は加熱吸収セルに導入する装置” と記載されている。

4.正しい記述。
規格の〔5.3.1 フレーム方式の原子化部 a 〕には “予混合バーナーに用いるフレームの種類は、アセチレン・空気、アセチレン・一酸化二窒素、水素・アルゴンなどとする” と記載されている。

5.誤った記述。
規格〔5.3.2 電気加熱方式の原子化部〕には “酸化防止、試料蒸気などの移送のため、アルゴン、窒素、アルゴン及び水素の混合ガスなどを炉の中に流す” と記載されている。

グラファイト炉は酸化によって劣化してしまう。そのため、アルゴンや窒素ガス窒素ガスなどの不活性ガスをチューブ内に一定方向に流す必要がある。

以上より正解は5


第67回(2017年3月)

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 〔解説〕

(ウ)の還元気化原子吸光法は全水銀が分析対象成分なので、選択肢は1と3に絞られる。

そもそも原子吸光分析法は金属成分が分析対象。硫化物イオンは金属ではないから、選択肢の1と5は誤り。

以上より、正解は3


第65回(2015年3月)

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〔解説〕

1.正しい記述。
イオン化干渉に関する知識が問われている。フレーム及び電気加熱炉中で原子がイオン化すると、基底状態の原子が減少する。原子吸光は基底状態の原子による吸光を測定する方法だから、基底状態の原子の減少は吸光度の低下を招く。

一般論として、アルカリ金属はイオン化ポテンシャル(イオン化エネルギー)が低く、陽イオンになりやすい。そして、温度が高いほど原子や分子の熱運動が活発になり、イオン化に必要なエネルギーが供給され、イオン化は促進される。

2.正しい記述。
アルミニウムは難分解性酸化物を生成するため、アセチレン-空気フレームでは感度が低く、定量は困難。したがって、JIS K 0102〔58.2 フレーム原子吸光法 注(5)〕に示すように、多燃料フレームにして還元性を強めたほうが高感度が得られるため、高温フレーム(アセチレンー一酸化二窒素フレーム)を適用する。

3.誤った記述。
還元剤により容易に還元気化できる元素はカルシウムではなく水銀。

4.正しい記述。
規格〔3. 定義 n〕には “加熱気化ー金アマルガムー冷蒸気方式は、試料中の水銀を加熱気化しして原子蒸気とし、水銀捕集管で濃縮後これを加熱し、得られた原子蒸気を原子吸光分析する方式” と記載されている。

5.正しい記述(高度に専門的な知識)。
分析化学便覧には “硫黄の主な共鳴線が180.7nmの真空紫外部にあるため、通常は陽イオンの測定による間接法が用いられる” と記載されている。

※原子吸光で測定可能な波長は、200nm~800nm。
※「陽イオンの測定による間接法」とは、試料中のS化合物を硫酸イオンとし、これに塩化Baを添加して硫酸Baを生成する。これを溶解、原子吸光法にてBaを測定し、間接的にSの濃度を求める方法。

以上より、正解は3


第63回(2013年3月)

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〔解説〕

1.誤り。
「発熱体」と「乾燥過程の温度」は、電気加熱方式。

2.誤り。
「バーナーの種類」は、フレーム方式。

3.誤り。
「助燃ガス」は、フレーム方式。

4.「イオン化過程の時間」というものは存在しないはず...誤りだとは思うが保留。

5.「発熱体の材質」と「灰化過程の温度」は電気加熱方式。
「シースガス」が曲者。シース(sheath)とは(刃物の)鞘、(道具の)覆いといった意味で、原子吸光におけるシースガスとは、試料が原子化される際に炉内部で他のガスや酸素と混合するのを防ぎ、原子化された原子が拡散するのを防ぐ役割を担うらしい。いずれにせよ、電気加熱方式。

正解は5


第59回(2009年3月)

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 〔解説〕

空欄の「ア」には、「原子化」が入るから、選択肢は2と3に絞られる。

空欄の「イ」には、「耐熱金属」が入る。「タングステン」と「アルミニウム」のうち耐熱金属はタングステン。

光学系の測光方式には、シングルビーム方式とダブルビーム方式があるから、空欄の「ウ」にはダブルビームが入る。「自己反転」はバックグラウンド補正方法の1つ。

以上より、正解は「イ」


2025年4月13日日曜日

これからの環境計量士試験の勉強方法

 もしあなたが環境計量士の受験を考えているのなら、ちょっと話を聞いてほしい。

もう参考書などは購入する必要ありません。過去問と解答は経済産業省のHPで手に入ります。

「解答があっても解説がないじゃん!」って思った人、以下のサイトで無料で公開されています。

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実際に、『第75回 環濃 問1』を ChatGPT に解いてもらった結果がコレ👇


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2025年4月12日土曜日

環境計量士と原子吸光分析法(1)

ここでは環境計量士試験対策として「JIS K0121 原子吸光分析通則」に規定されている「5.3.1 フレーム方式の原子化部」を中心に扱う。


「フレーム」って何?

「フレーム」とは、試料を原子化するための高温の燃焼炎のことで、その温度は約2000~3000℃になる。フレームは燃料ガスと酸化剤の燃焼によって発生し、その中で試料が加熱されて溶媒の蒸発・分解・原子化が行われる。

左下の画像は純水を導入した際のフレームの様子で、右下の画像は試料溶液を導入した際のフレームの様子だ。溶液に含まれる元素の種類とその濃度によって、フレームの様子が大きく変化している。



「フレーム」の燃料は?

測定する元素に応じて異なる燃料ガスと酸化剤を使用するが、[アセチレン-空気]が最も一般的で、多くの金属元素に適用できる。また、アルミニウムやチタン、バナジウムなどの高融点の金属元素には[亜酸化窒素-アセチレン]が使用される。

※[亜酸化窒素-アセチレン]を使用する場合、火口部を小さくしガス噴出速度を大きくした専用のバーナーヘッドに交換する必要がある。これは混合ガスの燃焼速度が速いため、バックファイヤー(逆火:火炎がガス供給側へ戻る現象)を防ぐためだ。


試料溶液がフレームに導入されるまでの過程

吸引された液体試料は下の画像で示すネブライザー(霧化器)によって、微細な霧状になる。この霧は図の左にあるグレーの球体(ディスパーサー)に衝突し、より細かい粒子のみが燃料ガス・助燃ガスとともに(ミキシング)チャンバー内に進み、バーナーヘッドのスロットからフレームに送り込まれる。
このとき粗い液滴はドレンシステムによって除去される。



フレーム内で試料が原子化するまでの過程

霧化した試料がフレームに入ると高温によって溶媒が蒸発し、固体の微粒子(塩や酸化物)になり、熱分解を経て金属原子または酸化物として気化する。フレーム内の高温により酸化物などの化合物がさらに分解され、中性の金属原子になることで測定波長の光を吸収できるようになる。
また、フレーム中での原子密度は元素・フレームの状態などによって異なるから、測定を開始する前に光源ランプからの光束を最適な位置になるように、バーナーヘッドの位置調整を行う必要がある。


バーナー(ヘッド)とは?

ここまで紹介してきた、試料を原子化するために燃料ガスと酸化剤を燃焼させ、フレームを生成する一連の装置を「バーナー」とよぶ。バーナーには、霧化された試料溶液の全量をフレームに送り込む「全噴霧バーナー」と、細かい粒子だけをフレームに送り込むバーナーを「予混合バーナー」がある。



最後に、アセチレンガスの取り扱い方法に触れておこう。試験に出題するポイントを規格から抜粋した。

  • アセチレンの容器は、アセトンの流出防止のため必ず直立のまま貯蔵又は使用する。(10. a. 5)
  • アセチレン用配管には、鋼または銅含有率が62%以上の合金を使用しない。(10. a. 6)
  • アセチレンは0.1MPa以上の圧力(ゲージ圧)で使用しない。(10. b. 5)
  • 緊急時対策として、アセチレン使用中はアセチレン容器の開閉用ハンドルを取り付けたままにしておく。また、弁は1.5回転以上開かない。(10. b. 6)

アセチレンは不安定なガスで、圧縮や衝撃によって爆発する危険性があるため、アセトンなどの溶剤に溶かして容器に充填されている。 また、アセチレンが銅などの金属と反応すると、爆発性のアセチライドを生成する。

アセチレンは不安定な化合物であり、0.2MPa以上の圧力になると、酸素がなくても自発的に分解反応を起こす可能性があるため、比較的安全に取り扱える圧力が設定されている。


【過去問演習】

第73回(2022年12月)

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 〔解説〕

2.試料溶液をチャンバー内に吹き込み、細かい粒子だけをフレームに送り込むバーナーが「予混合バーナー」だから、ここの記述は誤り。

以上より、正解は2


第71回(2020年12月)

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 〔解説〕

1.予混合バーナーがフレーム方式の原子化部であることは事実。したがって、ここの記述に誤りはない。

ただ、「原子化部の1つとして」という記述があると「予混合バーナー以外にもあるの?」と疑問に思う人もいるだろう。一応、該当する規格を載せておく。

5.3.1 フレーム方式の原子化部

フレーム方式の原子化部は、バーナー及びガス流量制御部で構成する。

a) バーナーは、(中略)予混合バーナー及び全噴霧バーナーとする。

b) ガス流量制御部は、(中略)圧力調節弁、流量調節弁などで構成する。

 つまり、フレーム方式の原子化部はバーナーとガス流量制御部で構成されていて、バーナーには予混合バーナーと全噴霧バーナーがあるってこと。

4.フレーム中での原子密度は元素・フレームの状態などによって異なるから、測定を開始する前に光源ランプからの光束を最適の位置に設定する必要がある。したがって、ここの記述内容は誤り。

正解は4


第60回(2010年3月)

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 〔解説〕

1.アセチレンは不安定な化合物であり、0.2MPa以上の圧力になると、酸素がなくても自発的に分解反応を起こす可能性がある。そのため、比較的安全に取り扱えるように「アセチレンは0.1MPa以上の圧力(ゲージ圧)で使用しない。」と規格の10. b. 5で設定されている。

したがって、ここの記述内容は誤りです。

正解は1

2025年1月24日金曜日

環境計量士と浮遊粒子状物質自動計測器(4)

ここでは JIS B 7954 に記載されている4つの測定原理のうちの1つ、「圧電天びん方式」を扱います。

JIS B 7954 の 5.2.2 では「圧電天びん方式」について

粒子を静電的に水晶振動子上に捕集し、質量の増加に伴う水晶振動子の振動数の変化量から質量濃度を求めるもの。

と記載していますが、簡単に理解できる内容ではなさそうです。まずは理解を妨げている点を1つずつ解消していきましょう!


疑問1 水晶振動子って何?

水晶振動子は、特定の周波数で正確に振動する特性を持つ水晶を利用した電子部品のことです。この性質が時計や通信機器、計測機器などの電子回路内で特定周波数の正確な発振に利用されているようです。


疑問2 水晶振動子の上に粒子を捕集すると、水晶振動子の振動数はどのように変化するの?

水晶振動子の振動特性は質量変化に非常に敏感で、水晶振動子の上に粒子が付着すると付加した質量に応じて振動数が低下するそうです。質量と振動数の関係は「Sauerbrey方程式」として知られています。


疑問3 測定対象である浮遊粒子状物質を水晶振動子上に付着(捕集)させる仕組みは?

JIS B 7954 の 5.2.2 c) に次の記載があります。

浮遊粒子状物質を静電捕集するため、高圧回路と針状の放電電極によってコロナ放電を発生させ、浮遊粒子状物質を帯電させる。

また、知らないワードが出てきました。
「コロナ放電」って何?

コロナ放電は、高電圧をかけた電極の周囲で発生する放電現象のことで、通常は尖った電極や細いワイヤーに正または負の高電圧を印加することで、電極周囲の空気分子が電離して放電が発生します。

発生したコロナ放電によって空気中に正もしくは負のイオンや自由電子が生成され、これらが浮遊粒子状物質と衝突し帯電します。帯電した浮遊粒子状物質は、静電的な力を利用して表面に電極を設けた水晶振動子に引き寄せられ、捕集されます。


疑問4 水晶振動子の上に捕集された粒子は、その後どうなるのでしょう?

JIS B 7954 の 5.2.2 e) に次の記載があります。

水晶振動子の上に静電捕集された浮遊粒子状物質を一定時間又は堆積量ごとに洗い流す。

具体的にはエアジェット、液体ジェット、超音波、ワイパー、加熱などの洗浄技術を活用して洗浄しているそうです。

以上「圧電天びん方式」の要点でした。


次は演習です。

第74回(2023.12)

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 〔解説〕

JIS B7954 の5.2.2 がそのまま出題されていますね。

圧電方式では粒子を帯電させ、静電的に水晶振動子上に捕集する仕組みでした。したがって、空欄(ア)には「静電」が入ります。
これで選択肢は2と4に絞られ、空欄の(イ)には「増加」が入ることまでわかりました。

電気を流すと水晶振動子は規則正しくプルプル震えます。その水晶振動子上に粒子が付着するとプルプル震える運動が付着した粒子に転移してしまい、振動数が減少します。
したがって、空欄(ウ)には「振動数」が入ります。

以上より、正解は2。


第73回(2022.12)

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 [解説]

1.圧電天びん方式では、コロナ放電によって浮遊粒子状物質が電子と衝突し帯電します。中和ではありません。
したがって、この記述内容は誤りです。

正解は1


第72回(2021.12)

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 [解説]

1.ベータ線吸収方式は、ろ紙上に捕集した粒子によるベータ線の吸収量の増加から質量濃度を得る測定方法です。問題文にある「捕集前後のろ紙の吸収量及び反射量の変化」の「反射量の変化」が誤りです。

2.規格の 5.2.2 の内容がそっくりそのまま出題されました。どこにも誤りはありませんから、これが正解です。

3.「フィルタ振動方式では~」の~部分がベータ線吸収方式の説明になっていますから、ここの記述は誤りです。

4.光散乱方式は、粒子に光を照射することで粒子による散乱光量からその相対濃度を求める方法ですから、ここの記述は誤りです。

5.「吸光方式では~」の~の部分が光散乱方式の説明になっていますから、ここの記述は誤りです。

正解は2


2024年12月29日日曜日

環境計量士と浮遊粒子状物質自動計測器(3)

JIS B 7954 に記載されている4つの測定原理のうちの1つ、光散乱方式 についてまとめてみました。

JIS B 7954 の 5.2.3 では「光散乱方式」について

粒子による散乱光量からの相対濃度としての指示値を得るもの。

と記載されていますが、よくわかりません。

そもそも「粒子による散乱光」って何?
まずはそれから学んでいきましょう!

大気中に浮遊している粒子に光が接触すると、粒子が光を散乱させます。光が散乱すると上の図のような現象(木々の隙間から差し込む光のスジ)が観測されます。これは散乱現象の1つであるミー散乱によるチンダル現象らしいのですが、そんな知識は環境計量士には必要ありません。大切なことは、この散乱光の光量が次の①~③に示す内容に影響されるということです。

① 粒子の密度(濃度)による影響

粒子の質量濃度が濃くなると、濃度に比例してその光量は強くなります。

(しかし、濃度が高すぎると光が粒子間で何度も散乱されて本来の光路から外れてしまい、検出器に届く光が減少してしまうことがあります。また、高濃度の粒子によって光が遮られてしまうこともあるため、測定に適した濃度を予め把握しておくとよいですね。)


② 粒子のサイズによる影響

粒子のサイズが大きくなるほど、散乱光の光量は強くなります。


③ 粒子の形状による影響

光が粒子に当たった際に、粒子の形状が光の反射・屈折・回折・吸収・散乱の仕方を変化させてしまいます。


次は相対濃度です。
相対濃度はベータ線吸収方式の質量濃度と何が異なるのかな?

規格の3.b) では「相対濃度」について

質量濃度及び一定の相対的関係にある物理量を測定して得られる値にある係数を乗じて質量濃度としたもの。

と記載されています。
つまり、相対濃度=質量濃度、但し 質量濃度=質量濃度×ある係数 ということでしょうか…?

そもそも「光散乱方式」の計測器は、直接粉じんの質量を測定しているのではなく、それと比例関係にある散乱光の光量を測定しています。そのため、直接粉じんの質量を測定する直接重量法と、散乱光の光量を測定する方法、両者の比較を行い、そこで求めた係数(質量濃度変換係数)を散乱光量に乗じて μg/mに置き換える必要があります。
このように、なんらかの標準と比較することを前提とした定量方法のことを相対濃度測定法とよびます。


最後に、光散乱方式の計測器の仕組みを学びましょう!

① サンプリング

吸引ポンプ又はファンを用いて、一定流量の大気を装置内に吸引する。


② 散乱光の発生

吸引した大気中の浮遊粒子状物質にレーザーダイオードやタングステンランプなどを光源とした光を照射し、散乱光を発生させる。


③ 散乱光の検出

測定器内の光センサ(光検出器)が散乱光を検出し、その強度を電気信号に変換する。

 

以上で「光散乱方式」についてのまとめ解説は終了です。あとは演習するのみ!

 

第69回(2018.12)

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 〔解説〕

(ア)粒子に当たった光が散乱するので、空欄には「散乱」が入ります。

(イ)「光散乱方式」では直接粒子の質量を測定しているのではなく、それと比例している散乱光の光量を測定しています。そのため、散乱光量に係数(質量濃度変換係数)を乗じて質量濃度としているので、相対濃度として指示値を得ていることになります。したがって、空欄には「相対」が入ります。

(ウ)粒子に当てる光は、レーザーダイオードやタングステンランプなどを光源としていますから、空欄には「光源」が入ります。

正解は5


第66回(2016.3)
ここの設問は(2)で学習した「ベータ線吸収方式」と、ここで学習した「光散乱方式」の知識があれば対処可能です。


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 〔解説〕

1.ろ紙上に捕集した粒子によるベータ線の吸収量の増加から質量濃度を求める方法は、ベータ線吸収方式です。したがって、ここの記述は誤り。

2.光散乱方式は、粒子による散乱光量から相対濃度を求めますから、ここの記述も誤り。

3.粒子による散乱光量から相対濃度を求める方法は光散乱方式ですから、ここの記述は誤り。

4.後半部分がおかしいですね。ベータ線吸収方式では、ろ紙上に捕集した粒子によるベータ線の吸収量の増加から質量濃度を求めます。「捕集前後のろ紙の吸光量、反射量」は関係ないので、ここの記述は誤りです。

以上より、消去法で正解は5

2024年12月11日水曜日

環境計量士と浮遊粒子状物質自動計測器(2)

ベータ線吸収方式

JIS B 7954には4つの測定原理(附随書を入れると5つ)が記載されていて、そのうちの1つがベータ線吸収方式です。
この測定方法は、ろ紙上に捕集した粒子に放射線の1つであるベータ線を照射したとき、その粒子の質量に比例してベータ線が吸収される原理を利用しています。
簡単な図で解説しましょう。

大気導入部で取り込まれた試料(大気)中の浮遊粒子状物質は、分粒装置内で目的に応じた粒径に分粒されたのちフィルタ(ろ紙)で捕集されます。これにベータ線を照射してフィルタを通過したベータ線の強度を検出器で測定し、質量濃度を得るといった仕組みになっています。

浮遊粒子状物質を捕集するろ紙はリールに巻かれたテープ状で、これを一定時間ごとに一定の方向に一定の長さだけ移動させ、測定が終了すると巻き取って着脱ができる構造になっていて、ろ紙供給機構とよんだりします。

ろ紙上に捕集した粒子に照射するベータ線の線源は、放射性物質が漏れないように密封されていて、放射線障害防止法に規定された “放射性同位元素” には該当しない14Cや147Pmなどの低いエネルギーのものが使用されています。

フィルタ(ろ紙)を通過したベータ線の強度を測定する検出器は、シンチレーション検出器半導体検出器などが使用されています。

大気の採取流量の変化は測定誤差の原因となるため、ろ紙に粉塵が付着して通気抵抗が増しても規定の流量が維持できる流量制御システムが求められます。


第70回(2019.12)

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〔解説〕

(ア)ろ紙上に捕集した粒子がベータ線を吸収し、その吸収量は質量に比例して「増加」します。したがって、選択肢の2と4は誤りです。

(イ)ベータ線の吸収量の増加から浮遊粒子状物質の質量濃度を求めるので、空欄には「質量」が入ります。したがって、選択肢の1と2は誤りです。

(ウ)ベータ線の検出器は、シンチレーション検出器もしくは半導体検出器です。「周波数」は関係ありません。したがって、選択肢の1と2と3が誤りです。

正解は5


第68回(2018.3)

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 〔解説〕

1.規格の5.2.1 a) に『必要に応じて分粒装置を付加する』とあります。

2.「浮遊状態の粒子にベータ線を照射」とありますが、正しくは「ろ紙上に捕集した粒子にベータ線を照射」です。

正解は2


第64回(2014.3)

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 〔解説〕

ベータ線吸収方式では、ベータ線源として14Cや147Pmなどの低いエネルギーのベータ線を捕集した粒子に照射します。したがって、光源は使用しません。

正解は3


第61回(2012.3)

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〔解説〕

1.規格 5.2.1 d)によると「ベータ線源は密封線源で、14C, 147Pmなどの低いエネルギーのものを使用する。これらの線源の放射能は、放射線障害防止法に規定された “放射性同位元素” には該当しない。」とありますから、ここの記述は誤りです。

2.規格 注1)によると、「ろ紙はJIS K 0901に規定する捕集率A1のものを用いる」とあり、 K 0901ではろ紙の形状、寸法、材質、性能(捕集率、圧力損失、吸湿率、加圧強度、金属含有量)を規定しています。ベータ線の吸収については規定がないので、ここの記述は誤りです。

3.環境基本法に基づく大気の汚染に係る環境基準に関する浮遊粒子状物質は、大気中に浮遊する粒子状物質で、その粒径が10μm以下のものと定義されています。したがって、粒径が10μm以上のものを除外する分粒装置が必要になりますから、ここの記述は誤りです。

4.ベータ線吸収方式では、検出器としてシンチレーション検出器もしくは半導体検出器を使用します。したがって、記述内容に誤りはありません。

5.規格 3. c) には「質量濃度(単位体積の空気中の浮遊粒子状物質の質量)の単位はμg/m3で表す」とありますから、「μg/L」は誤りです。

正解は4


第61回(2011.3)

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 〔解説〕

1.ベータ線吸収方式では、検出器としてシンチレーション検出器もしくは半導体検出器を使用します。したがって、記述内容に誤りはありません。

2.環境基本法に基づく大気の汚染に係る環境基準に関する浮遊粒子状物質は、大気中に浮遊する粒子状物質で、その粒径が10μm以下のものと定義されています。したがって、粒径が10μm以上のものを除外するために分粒装置が用いられています。したがって、ここの記述内容に誤りはありません。

3.ベータ線吸収方式は、ろ紙上に捕集した粒子によるベータ線の吸収量が増加することを利用した測定方法です。記述にあるように「浮遊状態のまま粒子の濃度を求める」ことはできません。

正解は3


2024年12月7日土曜日

環境計量士と浮遊粒子状物質自動計測器(1)

JIS B 7954 大気中の浮遊粒子状物質自動計測 

この規格は、大気中の浮遊粒子状物質の濃度を連続で測定する自動計測器の測定原理やその扱い方について、実務者向けに細かく書かれています。しかし、試験に出題される内容はその一部であり、細かな知識が要求されるような出題は減少傾向です。
当ブログでは忙しい受験生に代わって、出題するポイントだけを厳選して紹介します。


浮遊粒子状物質の定義

この規格の3. a)には "浮遊粒子状物質" の定義が記載されています。
しかし、定義そのものは(試験対策として)それほど重要ではありません。重要なのはこれに続く "備考" です。

浮遊粒子状物質とは、大気中に浮遊する粉じん(ダスト、ヒューム、ミストを含む)。

<備考>
環境基本法に基づく大気の汚染に係る環境基準に関する浮遊粒子状物質とは、大気中に浮遊する粒子状物質で、その粒径が10μm以下のものを言います。

太字で示した「粒径10μm以下」が過去に何度か出題されています。
補足しておきますが、固体粒子で粒径が 1 µm 以下の場合をヒューム液体粒子で 10 µm以下のものをミストとよびます。つまり、粒子状物質は個体粒子と液体粒子の両方を含んでいることを頭の片隅に入れておくと良いでしょう。


質量濃度の単位

規格の3.c)に、浮遊粒子状物質の質量濃度を表す単位が定義されています。
単位だけでなく「質量濃度」という用語にも今後注意を払ってください。

質量濃度とは、単位体積の大気中に含まれる浮遊粒子状物質の質量で、単位は μg/m3 で表します。



過去問演習(第71回2020年12月)


<解説・解答>

選択肢1の記述は、規格の3. a)の "備考" がそのまま書かれているようです。でも「粒径が1μm以下」という記述は間違いで、正しくは「粒径が10μm以下」。
したがって、正解は1


過去問演習(第67回2017年3月)


<解説・解答>

選択肢1の記述は、規格の3. a)の "備考" がそのまま書かれています。でも「粒径が1mm以下」という記述は間違いで、正しくは「粒径が10μm以下」。
したがって、正解は1


過去問演習(第59回2011年3月)


<解説・解答>

選択肢1の記述、おかしくないですか?
主語がありません。
文章の意味が分からないので正誤判定できません。
したがって、選択肢1は "保留" とします。

選択肢2の記述は、規格の3. a)の "備考" がそのまま書かれていて、粒径も「10μm以下」で間違いありません。

選択肢3の記述は、規格の3.c)の内容ですが、単位は「ppm」ではありません。正しくは「μg/m3」です。

したがって、正解は3


過去問演習(第62回2013年3月)
※難問です。時間に余裕があったらチャレンジしてみてください。


<解説・解答>

選択肢1から順番に見ていきます。
「浮遊粒子状物質とは、大気中に浮遊する粉塵(ダスト、ヒューム、ミストを含む)」と規格の3. a)に記載されていました。また、固体粒子で粒径が 1 µm 以下の場合をヒューム、液体粒子で 10 µm 以下のものをミストとよびます。つまり、浮遊粒子状物質には個体粒子も液体粒子も含まれることになりますから、「固体粒子状物質である」という記述は誤りです。

選択肢2
計測の対象となる浮遊粒子状物質の粒径は10μm以下ですから、粒径10μm以上の粒子を除く分粒装置が必要となります。しかし、計測器によっては分粒装置を必要としないものもありますから、「いずれの測定方式においても、分粒装置を用いなければならない」という記述は誤りです。

選択肢3
規格の3. e)には「浮遊粒子状物質の粒径は幾何学的又は物理学的性質に基づいて定められる」とありますから、ここの記述は誤りです。

選択肢4
規格の附随書2 2.2.1には「計測器の校正及び試験に用いる校正用空気は、粒径範囲0.1〜3μmの均一系単分散粒子を含むもの」とありますから、ここの記述は誤りです。

以上より、正解は消去法で5

2024年9月23日月曜日

環境計量士と排ガス試料採取方法(4)

5.除湿器・気液分離器・安全トラップ

・除湿器
計測器内部で試料ガス中の水分が凝縮しない程度に除湿を行うもので、(中略) 除湿器の選択は、試料ガス中の湿度、分析計の特性、要求測定精度などに応じて、これらの方法のいずれかから単独または組合せて用いる
但し、水分による干渉を受ける分析計では、前処理部を出たガスの露点を一定に保持する電子冷却式を用いる。水分による干渉を受けない分析計ではいずれを用いてもよい。(6.9.a)

・気液分離器
冷却除湿を行うとき、凝縮水を試料ガスから速やかに分離させるためのもので、除湿器の後段に接続し、気液分離管及び凝縮水トラップからなる。(6.9.b)

・安全トラップ
凝縮水トラップ中の水が計測器内部の配管への流入を防ぐため、必要に応じて凝縮水トラップの排出管に安全トラップを接続する。(6.9.c)

 JISには除湿器として5つの除湿方式が記載されていますが、全部覚える必要はありません。


第72回(2021.12)
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〔解説〕
1.採取管の内径については覚えていないので、保留にします。

2.規格の6.4.aに記載されている内容です。

3.規格の6.9.aに記載されている内容です。

4.規格の6.9.bに記載されている内容です。

5.規格の6.9.cに記載されているように安全トラップの設置目的は、凝縮水トラップ中の水が計測器内部の配管への流入を防ぐためですから、ここの記述は誤りです。

正解は5


第70回(2019.12)
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 〔解説〕

1と2.規格の6.9.aに記載されている内容です。

3.水冷式の除湿器の冷却温度が規定されているのか、いないのか、そんなことまで覚えていないから保留。

4.規格の6.9.aに記載されているように、水分による干渉を受ける分析計では、前処理部を出たガスの露点を一定に保持する電子冷却式を用いるのであって、自然空冷式の除湿器は用いません。したがって、これが正解です。

正解は4


第66回(2016.3)
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〔解説〕
1.規格の6.3にあるように、採取管の先端の形状は、試料ガス中にダストが混入しにくい構造が望ましいのであって、水蒸気が混入しない形状は誤りです。

2.400℃以上でも使用できる材質として、シリカガラスやステンレス鋼があります。

3.規格の6.2にあるように、ろ過材の材質は採取管や導管と同様、排ガス中の腐食性成分によって腐食されにくい材質を選択しますから、ここの記述は誤りです。

4.規格の6.9.cにあるように、安全トラップの設置目的は、凝縮水トラップ中の水が計測器内部の配管への流入を防ぐためですから、ここの記述は誤りです。

5.規格の6.9.bにあるように、気液分離器は凝縮水を試料ガスから速やかに分離させるためのもので、除湿器の後段に接続しますから、ここの記述は誤りです。

正解は2


第63回(2013.3)
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〔解説〕
1と2.規格の6.9.aに記載されている内容です。

3.半透膜気相除湿方式については分からないので、保留。

4.規格の6.9.aに記載されている内容です。

5.規格の6.9.bに記載されている内容です。

選択肢の3を除き、いずれも正しい記述内容なので、消去法で3が正解になります。


第60回(2010.3)
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 〔解説〕

1.規格6.4.aに記載されている内容です。

2.この規格に限らず、試験・測定前に配管やシステム内を試料ガス等で置換・パージするのは常識ですな。

3.規格6.9.bに記載されている内容です。

4.規格の6.9.cにあるように、安全トラップの設置目的は、凝縮水トラップ中の水が計測器内部の配管への流入を防ぐためですから、ここの記述は誤りです。

正解は4

2024年9月21日土曜日

環境計量士と排ガス試料採取方法(2)

3.材質

測定成分と使用可能な材質の組合せに関する設問は、過去に何度も出題されていますが、その組み合わせは下の表が示す通り、膨大な量となります。流石にこれらをすべて暗記するのは酷な話ですから、少し要点を絞った解説をしましょう。

まず、接手管とろ過材については出題されないので無視し、採取管・分岐管・導管については、次の太字部分を中心に覚えてください。

ほうけい酸ガラス(耐熱ガラス)のみが全ての測定成分で使用可能ですが、その耐熱温度は400℃まで。これを超える場合、その他の材質を使用する必要があります。

<その他の材質1>
耐熱性のあるシリカガラス製の部材はフッ化水素を除くすべての測定成分に使用可能。

<その他の材質2>
ステンレス鋼も耐熱性がありますが、塩素や塩化水素等の測定成分に使用できない

最後に、ガラス製の部材は破損しやすいので使用を控えたいのであれば、塩素を除くすべての測定成分に使用可能な四フッ化エチレン樹脂(PTFE)製の部材を用いると良いでしょう。ただし、その耐熱温度は200℃


第74回(2023.12)
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〔解説〕
1.硬質塩化ビニル樹脂は覚えていないので、一旦保留にします。

2.シリカガラスが使用できない測定成分はフッ化水素のみですから、これらの組合せは誤りです。

3.四フッ化エチレン樹脂(PTFE)は塩素を除くすべての測定成分に使用可能ですから、これらの組合せは誤りです。

4.ステンレス鋼は塩素や塩化水素等の測定成分に使用できないことは覚えたけど、メルカプタンはどうだったかなぁ…一旦保留にします。

5.ほうけい酸ガラス(耐熱ガラス)のみ、すべての測定成分で使用可能ですから、これらの組合せは誤りではありません。

以上より、正解は5


第71回(2020.12)
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〔解説〕
1.ほうけい酸ガラス(耐熱ガラス)のみ、すべての測定成分で使用可能ですから、これらの組見合わせは問題ありません。

2.ステンレス鋼が使用できない測定成分は塩素や塩化水素等ですから、これらの組合せは誤りです。

以上より、正解は2


第69回(2018.12)
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〔解説〕
1~3.ステンレス鋼が使用できない測定成分は塩素や塩化水素等ですから、これらの組合せは問題ありません。

4.シリカガラスが使用できない測定成分はフッ化水素のみですから、これらの組合せは誤りです。

以上より、正解は4


第65回(2015.3)
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〔解説〕
1.ダクトの屈曲部分や断面形状の急激に変化する部分などは、排ガスが乱れ、圧力の変化や渦巻きが生じやすくなるので、試料ガスの採取位置としては不適切です。したがって、ここの記述内容に誤りはありません。

2.ステンレス鋼が使用できない測定成分は塩素や塩化水素等ですから、ここの記述は誤りです。

以上より、正解は2


環境計量士と排ガス試料採取方法(1)

ここでは環境計量士(濃度)試験に毎年出題される「JIS K0095 排ガス試料採取方法」を4つのパートに分け、試験に出題される部分だけをJISから抜粋し、必要に応じて解説を追記しています。
また、過去の試験問題とその解説も掲載していますから、まずは薄緑色のボックスに書かれた内容を2~3回通読したうえで、過去問演習を行ってください。

通読と過去問演習を何度も繰り返して「JIS K0095 排ガス試料採取方法」を得点源にしよう!


1.採取位置と採取口

試料ガスの採取位置には、ダクトの屈曲部分、断面形状の急激に変化する部分などを避け、排ガスの流れが比較的一様に整流され、作業が安全かつ容易な場所を選ぶ。ただし、空気のダクト内への漏れ込みの著しいところ、およびダクト内にダストが堆積したり、落下の著しいところは避ける。(5.1.a)

 "ダクトの屈曲部分や断面形状が急激に変化する部分"ってのは、排ガスが乱れて圧力の変化や渦巻きが生じやすくなるんで、測定対象成分の濃度に偏りが生じたりして、分析結果に悪影響を与えてしまう可能性があるんです。


・採取口は、ダクト内の排ガス流に対してほぼ直角に採取管を挿入できるような角度とする。(5.3.a)

・採取口に用いる管の材質は、炭素鋼、ステンレス鋼又はプラスチック製とする。(5.3.c)

採取管は排ガス流に対して直角に挿入するのか?平行に挿入するのか?という設問が過去に何度が出題されていますから、覚えておきましょう。 

「プラスチックは排ガスの熱に耐えられないから、採取口の材質として使用できない…はず」このように多くの受験生が誤った思い込みをしてしまうけれど、実際は120℃程度の加熱にも耐えられる材質であれば、採取口に用いることが可能です。


第67回(2017.3)
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〔解説〕
採取位置で重要なことは、排ガスが整流されていることでしたね。だから、排ガスが乱れるダクトの屈曲部分や断面形状の急激に変化する部分は避けなければなりません。

以上より、正解は5


2.試料採取装置の構成

まずは規格6.1.1に掲載されている模式図を見てもらいたい。

・化学分析による場合:採取管ー導管ー捕集部

・連続分析による場合:採取管ー導管ー前処理部ー(分岐管)ー計測器

まず大前提として規格には、①試料ガス吸引採取方式と②試料ガス非吸引採取方式が規定されていますが、②は試験に出題されません。

①の試料ガス吸引採取方式は、捕集部で試料ガスを吸引捕集した後に化学分析を行うものと、前処理部にて試料ガス中の水分を除去した後に試料ガスを計測器に導入する連続分析があり、これを模式図にしたものが上の図です。

次に、上の図に登場する用語をもう少し詳しく見ていきます。

化学分析:吸収瓶又は捕集容器に捕集された試料ガスの分析方法のうち、滴定法、吸光光度法、ガスクロマトグラフ法、イオンクロマトグラフ法など連続分析(自動計測器による分析)以外の分析方法の総称のことです。(3.o)

導管:試料ガスを採取するとき、採取管と捕集部又は前処理部とを接続する管のこと。接続には共通球面すり合せ接手管などを用い、グリースは用いない。(3.g, 7.1.1.c)

捕集部:吸収瓶・捕集容器・洗浄瓶・吸引ポンプ・ガスメーターなどから構成されます。(6.8)

前処理部:上でも少し書いたけど、試料ガスを分析計に導入する前に除湿を行う部分。除湿器・気液分離器などから構成されます。(3.i, 6.9)

分岐管:1つの採取管から(複数の計測器を用いて)多成分同時測定するときに用いるもので、それぞれの計測器に接続する導入口をもちます。(6.9.g)


第68回(2018.3)
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〔解説〕
空欄(ア)に「採取管」が入ることは疑いの余地がない。したがって、選択肢の2,3,4は除外され残る選択肢は1と5。
次に空欄(ウ)直後の「各計測器」の「各」に着目。計測器が複数あることが推測できるから、ひとつの採取管から複数の計測器に接続する導入口をもつ「分岐管」が空欄(ウ)に入る。

以上より、正解は1


環境計量士と排ガス試料採取方法(3)

4.採取管・一次ろ過材・導管

・採取管の先端の形状は、試料ガス中にダストが混入しにくい構造が望ましい(6.3)

・試料ガス中にダストなどが混入するのを防ぐため、必要に応じて採取管の先端または後段にろ過材を装着する(6.4)

・採取管と捕集部または前処理部とを接続する導管の長さはなるべく短くする(6.6)

・試料ガス中の水分および露点の高いガス成分が採取管や導管中で凝縮・凍結することを避けるため、採取管及び導管は保温または加熱する(6.7)

採取管は排ガス流に対して直角に挿入し、取付け具で採取口に固定する(7.1.1.b)

・採取管と導管、導管と捕集部などの接続には、共通球面すり合せ接手管などを用いる。このとき、グリースを用いてはならない(7.1.1.d)


第73回(2022.12)
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〔解説〕
1.採取口に用いる管の材質は、炭素鋼、ステンレス鋼又はプラスチック製ですから、”コンクリート製” は誤りです。

2.導管の長さはなるべく短くするので、ここの記述は誤りです。

3.ろ過材は必要に応じて採取管の先端又は後段に装着するので、ここの記述に誤りはありません。これが正解です。

4.シリカガラス製の採取管は、フッ化水素を含む排ガス試料の採取に使用できないので、ここの記述は誤りです。

5.乾燥剤としてシリカゲルを用います。鉄粉は水分があると酸化熱が発生し、発熱・発火することがあり危険です。 

正解は3


第64回(2014.3)
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〔解説〕
1.四フッ化エチレン樹脂(PTFE)は塩素を除くすべての測定成分に使用可能ですから、ここの記述は正しい。

2.正しいとは思うけど自信ないな...保留

3.採取管の先端の形状は、試料ガス中にダストが混入しにくい構造が望ましいので、ここの記述は正しい。

4.必要に応じて採取管の先端又は後段にろ過材を装着するので、ここの記述は誤り。

5.ダクト内の排ガス流に対してほぼ直角に採取管を挿入するので、ここの記述は正しい。

正解は4


第62回(2012.3)
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〔解説〕
1.常識的に考えて「採取管の外径=採取口の内径」はおかしいよね?サイズがぴったり過ぎて採取管が入らないと思うな。

2.ダクト内の排ガス流に対してほぼ直角に採取管を挿入するので、ここの記述は誤り。

3.シリカガラス製の採取管は、フッ化水素を含む排ガス試料の採取に使用できないので、ここの記述は誤りです。

4.ろ過材は必要に応じて採取管の先端又は後段に装着するので、ここの記述に誤りはありません。これが正解です。

5.採取管及び導管の保温又は加熱は、試料ガス中の水分及び露点の高いガス成分が採取管や導管中で凝縮・凍結することを避けるためです。記述にある「露点の低いガス成分」が誤り。

正解は4


第61回(2011.3)
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〔解説〕
1.試料ガスの採取位置はダクトの屈曲部分、断面形状の急激に変化する部分などを避けなければなりませんので、ここの記述は誤り。

2.よくわからないので、保留

3.採取口に用いる管の材質は、炭素鋼、ステンレス鋼又はプラスチック製なので、ここの記述は誤り。

4.共通球面すり合わせ接手管の接続にはグリースは用いないので、ここの記述は誤り。

5.ろ過材は、必要に応じて採取管の先端又は後段に装着するので、ここの記述は誤りです。

正解は2


第59回(2009.3)
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〔解説〕
1.規格の5.3.aに記載されている内容です。

2.吸引ポンプと乾燥管については、これまで触れてないので正誤判定できなくても良いのですが、実務では知っておいたほうが良いです。吸引ポンプを保護するために乾燥剤としてシリカゲルが充填された乾燥管をポンプの手前に設置します。

3.規格の6.4.aに記載されている内容です。

4.規格の7.1.1.dに記載されている内容です。

5.凝固点・露点が高い成分が採取管、導管中で凝縮することを避けるため、採取管、導管を加熱又は保温するので、ここの記述は誤りです。

正解は5


2024年5月13日月曜日

環境計量士とガスクロマトグラフィー(1)

ここでは覚えるだけで得点に結びつく、ガスクロマトグラフィーの検出器についてまとめました。


電子捕獲検出器(Electron Capture Detector:ECD)

試験に最も出題される検出器です。
この検出器は有機ハロゲン化合物、ニトロ化合物、有機リン化合物、アルキル水銀などの電子親和性化合物を極めて高感度で検出します。
その原理を簡単に説明すると、検出器の内部はキャリヤーガスであるHeとメイクアップガスである窒素で満たされていますが、Heに対して窒素のほうが多いので検出器の内部はほとんど窒素で満たされていると考えてください。
そこへβ線が放射され、窒素のイオン化反応が進行します。

N2 → N2+ + e-

こうして検出器の内部は窒素由来の自由電子が常時一定量で存在していますが、ここへ電子親和性化合物という自由電子が大好物な成分がやってくると、自由電子の量は一時的に減ってしまいます。
ECDではこの自由電子の量を常時モニタリングし、その量が減った減らないで測定を行っているのです。


熱伝導度検出器(Thermal Conductivity Detector:TCD)

GCに限らず様々なガス分析装置で使用される検出器です。
この検出器は測定対象化合物とキャリヤーガス(He)との熱伝導度の差を利用し、キャリヤーガス以外のすべてのガス(O2やN2といった無機ガスも含む)の検出が可能ですが、感度そのものはあまり高くないため、比較的濃度の高い成分の分析に使用されます。
また、この検出器では測定対象の成分が破壊されないので他の検出器と直列につなぐことが可能です。


水素炎イオン化検出器(Flame Ionization Detector:FID)

有機化合物のほとんどすべてを検出することが可能ですが、カルボニル基やカルボキシル基のように酸素と二重結合している炭素には感度がありません。また、炭素に水素以外のもの(ハロゲンや硫黄など)が結合していると感度が下がります。

この検出器の原理を簡単に説明すると、空気と水素で形成された水素炎にカラムを通過した試料ガスが送り込まれると、炎の中で試料ガスの分子は分解されてイオンが生成されます。
生成したイオンは電極部(コレクター)で回収されますが、そのとき発生する電流の変化を検出しています。


炎光光度検出器(Flame Photometric Detector:FPD)

この検出器は還元性の炎中で化合物が燃焼する際に生成する励起化学種が発する特異的な波長の光を検出し、硫黄・りん・すずを含有する化合物を対象とします。
注意すべきは硫黄の検量線が二次曲線になる点です。
これは硫黄を含む化合物を燃焼・励起させるとS2の光が検出されるので、光量(シグナル強度)はS2量に比例しますが、S量に対してはその2乗に比例するからです。


第74回(2023年12月)

〔解説〕
1.ベンゼンはCとHの結合ですから、水素炎イオン化検出器(FID)で間違いありません。
2.アクロレインは分からないので後で考えます。
3.一酸化炭素のような無機ガスは、熱伝導検出器(TCD)で間違いありません。
4.メチルメルカプタンも分からないので後で考えます。
5.トリクロロエチレンは有機塩素系化合物、すなわち有機ハロゲン化合物なので検出器は電子捕足検出器(ECD)です。したがって、アルカリ熱イオン化検出器は間違いです。

〔正解〕5


第73回(2022年12月)

〔解説〕
1.熱伝導度検出器は測定対象化合物とキャリヤーガスとの熱伝導度の差を利用する検出器だから、測定対象化合物の熱伝導度とキャリヤーガスのそれとの差が大きいほど高感度に検出します。したがって、ここの記述は誤りです。

2.前半部分の「水素炎イオン化検出器は有機化合物のほとんどを対象とする」に誤りはありませんが、後半部分の「検量線の直線領域は2桁前後の狭い範囲に限られる」については正しいのか誤りなのか分かりません。したがって、正誤判定は先送りします。

3. 前半部分の「電子捕獲検出器は電子親和性の高い化合物を選択的に検出し、」に誤りはありませんが。後半部分の「検量線の直線領域は7桁前後の非常に広い範囲に及ぶ」については正しいのか誤りなのか分かりません。したがって、正誤判定は先送りします。

4.ここの記述に誤りはありません。

5.熱イオン化検出器は含窒素化合物及び含りん化合物を選択的、高感度に検出しますが、塩素は検出しません。したがって、ここの記述は誤りです。

〔正解〕4


第72回(2021年12月)

〔解説〕
電子捕獲検出器の検出対象は、有機ハロゲン化合物、ニトロ化合物、有機リン化合物、アルキル水銀などの電子親和性化合物でした。
選択肢の四塩化炭素、クロロホルム、トリクロロエチレン、ジクロロメタンはいずれも有機塩素系化合物、すなわち有機ハロゲン化合物ですから、ECDの測定対象になり得ます。これに対してベンゼンはCとHの結合なのでECDでは検出されません。

〔正解〕2


第69回(2018年12月)

〔解説〕
1.電子捕獲検出器は検出器内部に充満している窒素ガスにβ線を放射することで測定を行っていますから、塩素ガスは誤りです。

〔正解〕1


第67回(2017年3月)

〔解説〕
4.“電子親和性の高い化合物に対する電子捕獲反応を利用した検出器” とは電子捕獲検出器(ECD)のことであり、光イオン化検出器ではありません。

〔正解〕4


第60回

〔解説〕
電子捕獲検出器(ECD)は電子親和性化合物(有機ハロゲンやニトロ化合物など)に対して高感度を示す検出器です。

(ア)3と5の有機ハロゲン化合物以外は不適切です。

(イ)ハロゲンとは、周期表の17族に属するフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンの5つの元素の総称のことですから、塩素を含む3の塩化メチル水銀と5の有機塩素系農薬は適切です。

(ウ)3のカドミウムは重金属元素なので不適切です。一方、ポリクロロビフェニル(PCB)は塩素を含むので適切です。

〔正解〕5