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2020年4月6日月曜日

ppm という表記がよくわかりません。

 1.ppm という表記の役割

「分析結果は ppm 表記ではなく、% 表記でお願いします!」

このように ppm から % への表記変更、または % から ppm への表記変更を依頼されることがありますが、次のような変換表があると非常に助かります。

1ppm = 0.0001%
10ppm = 0.001%
100ppm = 0.01%
1000ppm = 0.1%
10000ppm = 1% 

この変換表を見ていると、ppm という表記の役割に気づかれるのではないでしょうか。

人は数字がいくつも連なる表記では情報量が多いため、これを理解しやすい形に変える傾向があります。たとえば...

中古自動車の値段の表記:¥345000 → 34.5万円

電話番号:08012345678 → 080-1234-5678

ppm という表記の役割も、これらと似たようなものなのだとまずは理解してください。



 2.ppm = mg/L と考えて良いのか?

「1000ppm 鉛標準液の濃度は、1000mg/Lですか?」

新人さんからよく質問されます。
「そうだよ―」と答えると、次の質問が飛んできます。

「ppm は "100万分の1" という意味ですよね?」
「なぜ mg/L も "100万分の1" という意味になるんですか?」

この手の質問はとても多い。

「たとえば、水1Lに鉛が 1mg含まれるとき、その濃度は1mg/Lと表記されるけど、水1Lの重さは1kg だから、1mg/L を 1mg/kg に書き換えても問題ないよね?」

こう説明して、私は新人さんの顔を覗く。
新人さんが無言で頷いたのを確認し、説明を続ける。

「1mg = 0.001g です。それじゃあ、1mg は何 kg になるでしょうか?」

新人さんはメモ帳を取出し、その場で計算を始めた。
「え~っと... 1g = 0.001kg だから... 0.001×0.001 で 0.000001kg です!」

「今、計算してくれた 0.000001kg は、 100万分の1 kg だよね?」
新人さんは頷く。

「ということは、1mg/kg = 0.001g/kg = 0.000001kg/kg となるから、mg/kg は "100万分の1" という意味になるよね?」

新人さんの顔を覗いたが、こんどは納得していないようだ。

「kg/kg = 1 だから、これを上の式に代入すると 1mg/kg = 0.000001×1 になって、1mg/kg = 0.000001 になるから、mg/kg は "100万分の1" という意味になるよね?」

ここまで説明すると、ほとんどの子は納得してくれる。
しかし、納得できない子もいないわけじゃない。そんなときはどうするのか?

「ppm = mg/L = mg/kg  覚えろ!」

これで解決♪


3.ppm の扱い方は % の扱い方と同じ!

理科と言えば食塩水!食塩水の問題で ppm を使いこなしてみよう。

<問題>
濃度10%の食塩水を100ml作るには、食塩をどれくらい水に溶かせば良いのでしょうか?

小学校の算数の問題ですね。10% = 10/100 = 0.1 です。
水100ml の重さは100g なので、100g × (10/100) より 10g の食塩を水に溶かせば濃度10%の食塩水の完成です。


次の問題はどうでしょうか?

<問題>
濃度1000ppmの食塩水を100ml作るには、食塩をどれくらい水に溶かせば良いのでしょうか?

1000ppm = 1000/100万 = 0.001 です。
水100ml の重さは100g なので、100g × (1000/100万) より 0.1g の食塩を水に溶かせば濃度1000ppmの食塩水の完成です。


ppm という表記は日常生活で使用することがないので難しく捉えがちですが、 % という表記に置き換えることで、理解がスムーズになると思います。

最後に % や ppm には、3種類の濃度表示があることに注意してください。

①重量/重量 (w/w)
②重量/体積 (w/v)
③体積/体積 (v/v)

食塩水の濃度は、もちろん②の重量/体積 (w/v)です。


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2020年3月8日日曜日

ケルダール法による窒素の分析

ケルダール法を用いた窒素の分析は、環境・肥料・食品・石炭など幅広い試料に用いられる分析方法です。自動分解装置や自動蒸留装置といった便利な装置もあるので、分析操作はそれほど難しいものではありません。

ただ、「知識の継承ができてないなぁ~」と思うことがあるので、ポイントをまとめてみました。


ケルダール法の特徴は次の2つ!

特徴1

試料を濃硫酸とともに強熱するので、固体の有機試料を溶液化することができます。

有機物試料を硫酸とともに加熱すると、硫酸のもつ強力な脱水作用により試料は炭化してフラスコの中は真っ黒になります。

さらに加熱を続けていくと白煙が発生します。このときの硫酸は強力な酸化力を発揮し、この酸化力によって炭化した真っ黒な試料は、酸化されて最終的に CO2 まで分解されてしまいます。

硫酸カリウムや硫酸銅などの分解促進剤を添加しているのであれば、白煙発生から30~40分間の加熱で、ほとんどの試料は青緑色の透明な溶液に分解されるでしょう。このとき、測定対象の窒素は硫酸アンモニウムとして捕集されています。

もし溶液の色が黄色を帯びていたら、それは加熱時間が足らないのでさらに30分ほど加熱を続けてください。

石炭やコークスは分解が困難なので、長時間の分解でも溶液の色が真っ黒なときがあります。この場合は放冷したフラスコに少量の過酸化水素水を静かに加えて、再び加熱してください。(これでも分解できないようでしたら、ケルダール法は潔く諦め、ガス化法もしくはCHN法に切り替えます。)


特徴2
正確に分析できるのはアミノ態窒素またはケルダール窒素と呼ばれる酸化数が-3の窒素だけ。

酸化数が+5の硝酸、+3の亜硝酸とニトロ化合物、+1のニトロソ化合物などは正確な分析ができません。
これらの窒素をケルダール法で分析する場合は、デバルダ合金のような還元剤を添加し、その酸化数をー3にする必要があります。


蒸留について

アンモニウム塩は、アルカリ性溶液中では蒸気圧が高いアンモニアを遊離するので、蒸留する際は十分な量の水酸化ナトリウム溶液を加えます。

アルカリ性になると溶液の色が黒色に変化するので、黒色が維持されるまで水酸化ナトリウムをしっかりと加えてください。

また、アンモニアの分析経験が有る方は、次のような疑問が湧くかもしれません。

JIS K0102のアンモニウムイオンの分析や、肥料分析法のアンモニア性窒素の分析では、蒸留のときNaOHではなくMgOを加えて微アルカリ性にしています。この違いはなぜ起こるのでしょうか?

尿素、アセトアミド、ペプトン、アスパラギンなどの窒素を含む有機化合物は、蒸留の際にその一部が加水分解(加熱分解?)してアンモニアを生成します。しかし、もともと溶液中のアンモニウムイオンの分析だけが目的の場合、これでは正の誤差を与えることになりかねません。

この影響は蒸留時のpHが高くなるほど大きくなるということが分かっているので、蒸留時に MgO を加えて試料を微アルカリ性として蒸留を行うことでこれらの分解率を下げて、アンモニアの生成を抑制します。


吸収液について

留出したアンモニアは一定量の硫酸と反応させて、硫酸アンモニウムとして捕集されます。
そして、アンモニアと結合していない残った硫酸を標準水酸化ナトリウム液で中和滴定することで、間接的にアンモニアの含有量が求まります。

また、硫酸の代わりにホウ酸溶液を用いることも一部の公定法で認められています。
ホウ酸は、アンモニアと反応して蒸気圧の低い塩になります。

H3BO3 + NH3 → NH4H2BO3

ホウ酸は酸としての解離定数が極めて小さいので、中和滴定に関与しません。
ですから、留出液を標準硫酸溶液で直接滴定してアンモニアを定量できます。

NH4H2BO3 + 1/2H2SO4 = H3BO3 + 1/2(NH4)2SO4

吸収液としてのホウ酸は、アンモニアを完全に捕集できるだけの量さえあれば良いので、その濃度と量が正確である必要がありません。


中和滴定で定量することが前提みたいだけど、インドフェノール青吸光光度法はダメなの?

ダメじゃないですよ。
固形試料の場合、窒素濃度が高いことが多いので中和滴定のほうが適しているんですよ。
それに中和滴定のほうが操作も簡単で、分析時間も圧倒的に速いと思います。


ケルダール法のイメージ動画



参考文献
越野正義『第二改訂 詳解肥料分析法』養賢堂
日本規格協会『詳解工場排水試験法〔改訂3版〕』

2019年11月23日土曜日

添加回収試験の添加量の計算方法が分からない!

新人の分析屋さんが最初につまずくテーマではないでしょうか?
濃度計算をマスターすることで、あなたを分析作業者から分析技術者に成長させていくことでしょう。


そもそも添加回収試験とは?

添加回収試験とは分析法の正確さを確認する手段の1つです。

たとえば、ある試料に含まれるヒ素の濃度を知りたいとき、この試料を2つのグループに分けます。
そして、片方のグループには何も添加せずに前処理と測定を行い、もう一方のグループには既知濃度のヒ素を添加したうえで、前処理と測定を行います。 得られた2つのグループの分析結果を比較したとき、2つのグループの分析結果の差が添加したヒ素量と一致すれば、その分析法は正確だと判断されます。


以降、現場を想定した練習問題を用意しました。納得するまで、丁寧に計算して練習してください。


問題1
ある試料 2g にヒ素を 1ppm 添加したいとき、添加するヒ素の質量を求めなさい。


そもそも "ヒ素 1ppm" ってどんな量ですかね?
[ppm] に慣れていない人は [%] に変換して考えてみると良いでしょう。

たとえば、"ある試料 1g には 1% のヒ素が含まれている"場合、含まれているヒ素の量は0.01g です。

だって % = 1/100 だから、1g の1% は 1g × 1/100 より 0.01g になるよね。


これと同じようにして [ppm] も考えてみる。
ppm = 1/10-6 だから、1g の1ppm は 1g ×1/10-6 より 0.000001g です。

0.000001gでは0が多くて扱いにくいから単位を変換して...
0.000001g = 0.001mg = 1㎍

つまり、1g の 1ppm は 1㎍ です。
問題は試料が 2g だったので、添加するヒ素の量は 2㎍ です。



問題2
市販の濃度1000ppmのヒ素標準溶液を希釈して調製した濃度1ppmのヒ素標準溶液(比重1)があります。この溶液から 2㎍ のヒ素を添加したいとき、添加する溶液の体積量を求めなさい。


濃度 1ppm のヒ素標準溶液 1ml に、ヒ素が質量としてどれくらい含まれているのか、これをはじめに考えます。

溶液の比重が1だから、"ヒ素標準溶液 1ml" は "ヒ素標準溶液 1g" に置き換えられますね。
そして、1g の 1ppm は 1㎍(0.000001g)でした。(問題1で計算したよ)

つまり、濃度 1ppm のヒ素標準溶液 1ml には 1㎍ のヒ素が含まれているから、添加する "ヒ素標準溶液" の量は 2ml です。


問題3
ある工場排水に 0.01mg/L のヒ素を添加したい。濃度 1ppm のヒ素標準溶液から添加するとき、その添加量を求めなさい。試料は 100ml をはかりとって分析するとします。


問題文にある " 工場排水に 0.01mg/L のヒ素を添加したい " とは、工場排水 1リットル にヒ素を 0.01mg 添加したいという意味です。

しかし、実際は 1リットルの 1/10 である 100ml をはかりとるのだから、ヒ素の添加量は 0.01mg の 1/10 である 0.001mg(1.0㎍)を添加することになります。

問題2より濃度 1ppm のヒ素標準溶液 1ml には 1㎍ のヒ素が含まれていることが分かっているから、添加する "ヒ素標準溶液" の量は 1ml です。


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2019年10月30日水曜日

金属鉄の分析方法

 ある日、若手正社員さんが中年正社員から、次のような業務命令を受けました。

「スラグに含まれる金属鉄を分析して!」

分析方法はJIS A5011-2の附属書Aに記載されているので、それに従って分析を進めればよいのですが...分析を担当する若手正社員さんは少し不安です。

この分析は試料を臭素メタノール溶液で金属鉄を抽出するのですが、どういったメカニズムで金属鉄が試料から抽出できるのか皆目見当がつきません。
というわけで、わたしが金属鉄の分析方法について若手正社員さんにレクチャーします。


1.金属が臭素メタノール溶液で溶けるそのメカニズムとは?
臭素はハロゲンの仲間であり、ハロゲンはどれも酸化力が強いことが特徴でした。そして、強い酸化力は金属を溶かします。
2Fe + 3Br2 → 2FeBr3

つまり、強い酸化力があれば臭素でなくてもいいのです。

事実、以前はヨウ素メタノール溶液で金属を溶かす方法も研究されていましたが、この方法は微量の酸素および水分を避ける必要があるため実験装置が大掛かりなものとなり、操作も複雑だったため実用的ではなかったそうです。

また、臭素メタノール法が採用される前は塩化第二水銀法(昇汞法)が金属鉄を抽出する一般的な方法でした。この方法は微粉砕した試料を炭酸ガス気流中で昇汞溶液(HgCl2)と加熱することで、塩素が金属鉄を溶解します。
Fe + 2HgCl2 = FeCl2 + Hg2Cl2
Fe + HgCl2 = FeCl2 + Hg

2.メタノールの役割は?
『似たものどうしは良く溶け合い、似ていないものどうしは溶けない』という話を聞いたことはありますか?

これは、溶質と溶媒の関係をうまく表現しています。すなわち、極性分子は極性溶媒に良く溶け、無極性溶媒にはあまり溶けないことを意味します。

臭素に限らずハロゲンの単体は二原子分子なので無極性です。無極性な分子である臭素は極性溶媒である水にはあまり溶けません。
その一方で、極性の小さい溶媒である四塩化炭素や、極性が中程度の溶媒であるメタノールには溶けます。(MSDSによると、臭素の溶解度は20℃の水100mlに対して3.1 g溶解、有機溶媒に可溶とあります。)

つまり、メタノールは臭素の溶媒としての役割だけであり、金属の溶解には関係がないのです。

3.本当に金属鉄のみが溶けて、酸化鉄は溶解しないのか?
「百聞は一見に如かず」なので、自身で実験をして確認するべきですが、コスト削減と効率化が叫ばれる中、それが難しいのも事実です。

ここでは、物質工学工業技術研究所の中里氏の研究が参考になると思います。その研究内容とは。。。「金属を溶かす有機溶媒系について」です。

中里氏によると、金属を溶かす溶媒系は「ハロゲン単体、ハロゲン化物、有機溶媒」の3者で構成されます。

たとえば、塩素+トリメチルアミン塩酸塩+アセトニトリルの混合溶液は王水よりも速くAuを溶解します。また、面白いことに有機溶媒系の組合せによりAgだけが溶解しない、Niだけが溶解しないなどの組み合わせもあるそうです。

このように、金属に対してすばらしい溶解性を示す有機溶媒系ですが、金属の酸化物は苦手で、長時間かけてもなかなか溶解しないものが多く、特に鉄の酸化物に対しては全く溶解しません。

4.なぜ、スラグ中の金属鉄含有量を調べるのか?
臭素メタノール溶液が金属を溶かすそのメカニズムの説明と中里氏の研究を紹介してきたわけですが、最後にスラグ中の金属鉄の含有量を調べる目的について紹介しましょう。

コンクリートはセメント、水、骨材から構成されていますが、骨材としてスラグが使用されるものがあります。仮にそのスラグが金属鉄を含有していた場合、コンクリート内部で金属鉄が酸化してしまう可能性があります。鉄が酸化すると熱膨張を起こし、結果的にポップアウト現象というものを引き起こします。これはコンクリート劣化現象の1つで、コンクリートの表面が薄い皿状に剥がれ落ちる現象のことです。つまり、スラグ中の金属鉄分析はコンクリート用骨材の品質・安全性を証明する手段の1つなのです。



5.参考文献・参考資料
JIS A5011-2
J.N.Spencer, G.M.Bodner, L.H.Rickard『スペンサー基礎化学』東京化学同人, 292-295
亀田和久『無機化学が面白いほどわかる本』KADOKAWA , 91-107
高木誠司『定量分析の実験と計算 第二巻』共立出版, 281
若松茂雄:分析化学, 14, 297 (1965)
中里幸道:資源処理技術, 44, 155 (1997)
中里幸道:日本金属学会会報, 32, 619 (1997)