2024年3月24日日曜日

環境計量士とイオン電極法(1)

このページでは環境計量士試験に2年に1度出題される ”イオン電極法” について、試験に合格したい人、イオン電極法を学びたい人向けの解説ページです。

ちなみに、掲載している試験問題は以下のとおりです。

それじゃあ、”イオン電極法の概要” からはじめましょう。


イオン電極法って何?

イオン電極法とは、測定しようとする溶液が入ったビーカーにイオン電極比較電極を入れて、測定対象のイオン濃度を測定する分析方法のことです。

※イオン電極をイオン選択性電極、比較電極を参照電極ともいいます。

そして、2本の電極は電位差計に接続され、マグネチック・スターラーで液をかき混ぜながら測定を行います。


最近は比較電極を必要としない “複合形イオン電極” があるので、比較電極の存在を知らない子も多いようです。そんな現場の状況を知っているのか、令和4年実施の試験では以下の内容が出題されました。


第73回(令和4年)
イオン電極を用いたイオン濃度の測定装置の構成要素と成り得るものとして「JIS K 0122 イオン電極測定方法通則」に規定されていないものを1つ選べ。
  1.  電位差計
  2.  高周波電源
  3.  比較電極
  4.  温度計
  5.  ポンプ

〔解説〕
図で示したとおり、1の電位差計、3の比較電極、4の温度計は全て測定装置の構成要素に成り得るものですから、これらは解答の候補から外れます。
2の高周波電源を使用している身近な実験装置として、超音波洗浄機ICP発光分光分析装置マイクロウェーブ分解装置の3つは覚えておきましょう。イオン濃度計には高周波電源は使用されていませんから、これが正解です。
「仕事でイオン濃度計を使用しているけど、5のポンプなんて付いてないぞ!」と思った人もいるでしょう。ポンプがついているのはフロー形測定装置ですね。これは実験室ではなく工場などで自動計測装置として使用されています。

〔解答〕


イオン電極法の測定原理

イオン電極の先端部分には特定のイオンに応答する感応膜があり、これが試料溶液中の特定イオンと接すると、そのイオン活量に応じた膜電位が生じます。

比較電極のほうは常に一定の電位が生じていますから、これら2つの電極間の電位差を電位差計で測定します。このとき得られた電位を応答電位といいます。

応答電位(E)と試料溶液中の測定対象イオンの活量(a)との間には式(1)の関係があり、これをネルンスト式といいます。

 E = E0 + [ 2.303 RT zF ] × log a (1)


ここで「E0」は25℃での標準電極電位、「R」は気体定数(8.31 J/mol・K)、「T」は絶対温度(K)、「z」は測定イオンの価数、「F」はファラデー定数(96500 c/mol)、「2.303」は常用対数から自然対数への変換係数です。

とりあえず、式の名前だけでも覚えましょう。それだけで次の問題が解けます。


第67回(平成29年)
イオン電極によるイオン濃度の測定原理において、基礎となっている法則または式として正しいものを次の中から1つ選べ。
  1.  ネルンスト式
  2.  ランバード・ベアーの法則
  3.  ファンディムターの式
  4.  ファラデーの法則
  5.  ブラッグの式

〔解答〕

簡単ですね。
だけど、次の問題は名前を知っているだけでは解けませんよ。


第59回(平成21年)
JIS K 0122に規定されているイオン電極測定法に関する次の記述について、ア~ウに入る語句および記号の組合せとして正しいものを1つ選べ。

イオン電極を用いた測定において、応答電位Eと測定対象イオン活量aとの間には、( ア )式と呼ばれる関係式
E = E0 2.303 R・( イ ) ( ウ )・F  log a
が成立する。ここでE0は25℃での標準電極電位、Rは気体定数、Fはファラデー定数、log aaの常用対数である。
 
 イ   ウ 
1.  ネルンスト    T     γ  
2.  ネルンスト    Z    γ  
3.  アーレニウス    γ    T 
4.  ネルンスト    T    Z 
5.  アーレニウス    Z    T 

ただし、Tは絶対温度、γ は測定対象イオンの活量係数、Zは測定対象イオンの価数をそれぞれ表すものとする。

〔解説〕
空欄アには「ネルンスト」が入りますから選択肢は1・2・4に絞られます。
空欄イには「T(絶対温度)」もしくは「Z(測定対象イオンの価数)」が入りますが、気体の状態方程式 PV=nRTを覚えていれば、R(気体定数)の後にT(絶対温度)が続くことは感覚的に分かると思います。これで選択肢は1と4に絞られました。
空欄ウ ネルンスト式の分母には「Z(測定対象イオンの価数)」が入ります。

〔解答〕


イオンの活量

「活量って何?濃度と何が違うの?」と聞かれることがあります。

活量とは特定のイオンが溶液中でどの程度活動しているかを示す尺度のようなものと捉えてください。
たとえば、比較的濃厚な溶液中ではイオン同士が互いに接近しているためイオンの活動が制約されてしまい、濃度に相当するイオンの活動が得られません。反対に希薄溶液ではイオン同士が離れているためイオンの活動が制約されません。

一般に全イオン濃度が10-3 mol/dm3 (mol/L) 以下の低濃度溶液においては、活量と濃度はほぼ等しいと考えます。

したがって、濃厚な溶液では濃度にある一定の係数(活量係数)を掛けた値が活量となり、イオンの活量(a)と濃度(C)の間には、活量係数 γ として式(2)に示す関係があります。

aγ = C   (2)

この活量係数 γ は溶液のイオン強度で定まり、そのイオン強度は溶液中の全イオンのイオン価数と濃度で決まります。


第65回(平成27年)
イオン電極を用いる濃度測定に関する次の記述の中から、誤っているものを1つ選べ。
  1. イオン電極は、特定イオンのイオン活量に応じた膜電位を生じる。
  2. 応答電位と試料溶液中の測定対象イオン活量との間には、ネルンスト式と呼ばれる関係式が成り立つ。
  3. 全イオン濃度が10-3 mol/dm3 以下の低濃度溶液においては、活量と濃度はほぼ等しい。
  4. 活量係数は、電極の種類や構造の影響を受けて変動する。
  5. イオン電極の使用可能なpHの範囲は、対象イオン濃度が低くなるにつれて、一般に狭くなる。

〔解説〕
選択肢の1~3は既に説明したとおりの内容ですから、誤りはありません。
選択肢の4も既に説明した内容です。活量係数は溶液のイオン強度で定まり、そのイオン強度は溶液中の全イオンのイオン価数と濃度で決まります。電極の種類や構造の影響を受けて変動はしませんから、この記述は誤りです。

〔解答〕