2025年8月31日日曜日

環境計量士と原子吸光分析法(3)

ここでは環境計量士(濃度)の試験対策として、原子吸光分析のバックグラウンド補正を扱います。

図のような駅のホームをイメージしてください。

この列車は、「光源(中空陰極ランプ)」を出発し、「検出器」まで向かいます。乗客は原子とバックグラウンド(BKG)ですが、ホームに乗客がいませんので、列車の乗客数は0の状態で終点の「検出器」に到着します。この状態が「吸光度0」です。

次の図では、ホーム上の乗客のうち、乗車口(原子が吸収する波長)に並んだ乗客が列車に乗り込み、乗車口に並ばない乗客は列車に乗れません。したがって、列車の乗客は原子と一部のBKGとなり、終点の「検出器」に到着します。

このように、中空陰極ランプを光源とする場合、原子蒸気による(特定波長の)吸収とBKG吸収が測定されてしまうため、測定対象物質の正確な吸光度を測定するためには、BKG吸収の影響を取り除く必要があります。

※ちなみにバックグラウンドとは、目的とする元素の原子蒸気以外を原因とする光の減光現象のことです。原子蒸気以外の減光現象の原因となるものとしては、その他の分子、粒子、ミスト、ラジカル、マトリックス由来の成分(未原子化成分や溶媒残留物)などが挙げられます。

・BKG吸収のみを測定する方法 (1)

連続スペクトルを発生する光源を使用してBKG吸収のみを測定する。

「光源(連続スペクトル光源)」を出発し、「検出器」まで向かう列車は「トロッコ列車」です。ホームの端から端までの長さ(スリット幅)があり、ホーム上の乗客の全員が乗り込もうとしますから、乗客のほとんどがBKGになります。

このように、連続スペクトルを発生する光源では原子蒸気による吸収はほとんど認められません。

※連続スペクトルを発生する光源として、重水素ランプ(D2ランプ)やタングステンランプが使用されます。重水素ランプは紫外部(180nm~350nm)、タングステンランプは350nm~800nmの範囲で強い連続スペクトルを発光します。

・BKG吸収のみを測定する方法 (2)

「ゼーマン効果」を利用してBKG吸収のみを測定する。

原子蒸気に強い磁場をかけると、その原子蒸気が吸収できる光の波長(吸収線)が分裂して位置が少しズレる現象を「ゼーマン効果」といいます。

駅のホームで例えるならば、磁場によって乗車位置が左右に分裂します。しかし、列車の停止位置(光源からの光の波長)は変化しませんから、乗車位置に並ぶ乗客(原子)は列車に乗れません。つまり、磁場があるとBKGの吸収のみが検出器に届きます。

※磁場は永久磁石もしくは交流磁石を用います。

・BKG吸収のみを測定する方法 (3)

中空陰極ランプに高電流を流してBKG吸収のみを測定する。

中空陰極ランプに高電流を流すと、ランプ内部で励起された原子が増加し、この増加した原子が共鳴線を強く自己吸収するようになり、原子吸光が起こる中心付近の光が弱く、その周囲が強い、中心部が凹んで周囲がやや広がったスペクトルが現れます。この状態では、バックグラウンド吸収のみが測定可能です。

駅のホームで例えるなら、ドアの位置が異なる列車が到着したと考えます。ホームの乗車位置と列車の乗車口の位置が異なるので、並んでいた乗客(原子)は列車に乗車できません。


【過去問演習】

第72回(2021年12月)

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〔解説〕

1.誤り。規格5.7.1に「連続スペクトル光源補正方式は連続スペクトルを発生する光源(例えば、重水素ランプ、タングステンランプなど)をバックグラウンド補正に用いる方式である。 ~中略~ 補正用光源としては、180〜350 nmの範囲に分析線をもつ元素に対しては重水素ランプが、また、350〜800 nmの範囲の元素に対しては、タングステンランプが最もよく用いられる。」とあります。
つまり、光源の種類を使い分けることによって分析線の範囲は180~800nmの範囲で対応可能です。

2.誤り。この記述は、規格5.4.1にあるダブルビーム方式の説明ですから、バックグラウンド補正ではなく、光の強度のドリフト補正の話になります。

3.正しい。規格5.7.2に「磁場によってゼーマン分裂したスペクトル線をバックグラウンド補正に用いる方式である。」とあります。

4.誤り。わたしが使用している装置はゼーマン補正のダブルビーム方式です。(いまどきシングルビーム方式を採用している装置なんてあるのか?)

5.誤り。常に高電流を流したら、バックグラウンド吸収しか測定されません。規格の3.lに「自己反転補正方式は中空陰極ランプに通常の電流と高電流とを交互に流し、高電流による放電で生じる自己反転したスペクトル線をバックグラウンド補正に用いる光学系の一方式。」とあります。


第70回(2019年12月)

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 〔解説〕

規格の3.1 に「自己反転補正方式は中空陰極ランプに通常の電流と高電流とを交互に流し、高電流による放電で生じる自己反転したスペクトル線をバックグラウンド補正に用いる光学系の一方式。」とありますから、(ア)には「中空陰極ランプ」、(イ)には「高電流」が入ります。これを満たす選択肢は1のみ。

正解は1


第68回(2018年3月)

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〔解説〕

問題文には「試料のミスト及び個体粒子によって散乱されることにより、見かけの吸光度が大きくなる」とあります。

そういえば、バックグラウンドの定義は「目的とする元素の原子蒸気以外を原因とする光の減光現象」のことでしたから、バックグラウンドの対策を取ればよいのです。

バックグラウンドの対策は、①連続スペクトル光源補正方式、②ゼーマン分裂補正方式、③自己反転補正方式の3つでしたので、正解は4になります。


第61回(2011年3月)

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 〔解説〕

1.バックグラウンドの定義そのものですから、この記述内容は正しいです。

2.非共鳴近接線方式は実務において必要のない知識ですので、保留。

3.連続スペクトルを発生する光源として、重水素ランプとタングステンランプは覚えなくてはなりませんが、キセノンランプはマニアックですね。取り扱っているメーカーはアナリティクイエナしか思い浮かばない。正しい記述内容ですが、わからなくてもOK

4.自己反転補正方式の定義そのものですから、この記述内容は正しいです。

5.ゼーマン方式は原子蒸気に磁場をかけるのであって、電場をかけるのではありません。

正解は5