2020年2月4日火曜日

金属イオンの沈殿反応

溶液Aと溶液Bを混ぜると物質Cが沈殿する

このような化学反応をどれだけ知識として蓄えているかは、化学分析員の能力の1つです。だからといって闇雲に化学反応を暗記するといった行為は非効率ですから、何か共通する規則性を探し出して、少しでも効率よく実用性のある知識を蓄積したいものです。

幸いなことに、諸先輩方が次のような規則性を発見してくださいました。

① 強酸由来の塩は水に可溶。
② 弱酸由来の塩は水に不溶。
③ 硫化物は水に不溶。
④ 水酸化物は水に不溶。


①について
ここで言う強酸とは、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸です。
(ハロゲン繋がりで、臭化水素酸(HBr)やヨウ化水素酸(HI)も塩酸の仲間で強酸ですが、フッ化水素酸(HF)だけは弱酸なので仲間外れです。)

これら強酸由来の陰イオンと金属イオンから構成される塩はその多くが水に可溶ですが、次に挙げるものは例外ですから覚えてください。

⑤ Cl- (Br-, I-) と反応して沈殿する金属イオン ⇒ Ag+, Hg22+, Pb2+
⑥ SO42- と反応して沈殿する金属イオン ⇒ Pb2+, Ba2+, Ca2+, Sr2+
⑦ ClO4- と反応して沈殿する金属イオン ⇒ K+

環告19号の土壌含有試験では土壌を1mol/ℓの塩酸で抽出しますから、測定対象であるHgとPbが塩酸で沈殿するかも!と思うかもしれませんが、その心配は必要ありません。Pbは溶液濃度が2%以上という比較的高濃度でないと沈殿しません。また、Hgは溶液濃度が2mg/ℓぐらいで沈殿しますが、環境基準の0.0005mg/ℓと比較するとこれがいかに高濃度であるかは分かると思います。
しかし、市販の1000ppmのHg標準液を扱う際は注意しましょう。うっかり塩酸酸性にしてしまうと、沈殿が発生します。


②について
ここで言う弱酸とは、上で挙げた強酸以外の酸のことです。
それら弱酸由来の陰イオンと金属イオンから構成される塩はその多くが水不溶性ですが、次に挙げるものは例外ですから覚えてください。

⑧ Na+, K+, Li+, NH4+ と結合した弱酸の塩は沈殿しない。


③について
溶液に硫化水素を吹き込むことで、多くの金属が水に不溶な硫化物を生成して沈殿しますが、次に挙げるものは例外です。

⑨ アルカリ金属とアルカリ土類金属の硫化物は沈殿しない。

また、溶液が塩基性のときだけ沈殿する金属がありますから、これは覚えてください。

⑩ 溶液が塩基性のときに沈殿する金属イオン ⇒  Mn2+, Fe3+, Co2+, Ni2+, Zn2+

ほとんどの硫化物は黒色ですが例外もあります。その例外は試験で狙われやすいので、環境計量士などの受験を考えている方は覚えてください。

CdS(黄色), MnS(淡桃), ZnS(白色)


④について
金属水酸化物はpHによって溶けたり溶けなかったりするものが多いですが、中性付近ではほとんどの水酸化物は溶けません。しかし、次に挙げるものは例外です。

⑫ アルカリ金属イオンとBa、Sr の水酸化物は中性付近でも沈殿しない。