2022年8月27日土曜日

第72回(2021.12)化学分析概論及び濃度の計算 問9

📁第72回(令和3年12月)

問9は原子吸光分析法に関する設問が毎年出題されておりますが、ここ数年はバックグラウンドについての設問が続いています。(昨年は違いましたが...)


バックグラウンドとは?
ホロカソードランプから放たれた光は目的元素によって吸光されるだけでなく、共存元素に吸光されたり、共存する粒子によって散乱したりします。その結果、検出器に到達できる光は減ってしまい、見かけ上の吸光度が大きくなってしまいます。

こうした目的元素以外の原因による減光をバックグラウンドと呼び、その対策として次の3つの方法でバックグラウンドを補正します。

①連続スペクトル光源補正法
②偏光ゼーマン補正法
③自己反転補正法(自己吸収補正法)

①連続スペクトル光源補正法
上でも説明しましたが、ホロカソードランプから放たれた光は目的元素による吸光とバックグラウンドによる吸光の合計吸光度を測定します。
これに対して、補正用光源から放たれた連続光源はバックグラウンドによる吸光のみを測定しますから、この2つの差を取ることでバックグラウンド吸収の影響を除くことができます。
また、補正用光源としては180〜350 nmの範囲に分析線をもつ元素に対しては重水素ランプが、350〜800 nmの範囲の元素に対してはタングステンランプが最もよく用いられます。

②偏向ゼーマン補正法
原子蒸気に磁場を加えると原子蒸気の吸収スペクトルが分裂するとともに偏光特性を示しますが、バックグラウンドは磁場の影響は受けず、分裂や偏光特性は示しません。
磁場に平行な偏光特性を有する成分では、「目的元素による吸光とバックグラウンドによる吸光」が観測されますが、磁場に垂直な偏光特性を有する成分では、「バックグラウンドによる吸光」のみが観測されますから、この2つの差を取ることでバックグラウンド吸収の影響を除くことができます。

③自己反転補正法
ホロカソードランプに通常の電流と高電流とを交互に流し、高電流による放電で自己吸収現象を生じさせます。このとき、目的元素による原子吸光は無視できるほど小さいので、バックグラウンドによる吸光のみが観測されます。
つまり、通常の電流時は「目的元素による吸光とバックグラウンドによる吸光」が観測され、高電流時は「バックグラウンドによる吸光」のみが観測されますから。この2つの差を取ることでバックグラウンド吸収の影響を除くことができます。


さて、選択肢を見ていきます。

選択肢1
連続スペクトル光源補正方式は、波長350nm以下の分析線だけに使用できる。

180〜350 nmの範囲に分析線をもつ元素に対しては重水素ランプが、350〜800 nmの範囲の元素に対してはタングステンランプが補正用光源として用いられますから、この記述は誤りです。

選択肢2
バックグラウンド補正用光源から放射される光が原子化部を通過しないようにミラーなどを用いて迂回させて検出器に導く。

原子化部を迂回させたら、バックグラウンドによる吸光を測定できませんから、この記述は誤りです。ちなみに、原子化部を迂回させるのはダブルビーム方式の参照光です。

選択肢4
ゼーマン分裂補正方式はシングルビーム方式で使用できるが、ダブルビーム方式では使用できない。

嘘です。私が派遣先で使用している偏向ゼーマン補正法の原子吸光光度計はダブルビーム方式です。

選択肢5
自己反転方式は、ランプに常に高電流を流す方式である。

ランプに通常の電流と高電流とを交互に流す方式ですから、この記述は誤りです。

正解は3