2020年6月28日日曜日

焼却灰に含まれる二酸化ケイ素の分析方法(中編)

前編に引続き、Q&A形式で解説します。


融解後、ルツボの中身を塩酸で溶かし出すわけですが、このとき用いるビーカーの材質はガラス?それともテフロン?

ガラスから二酸化ケイ素が溶出することを恐れて、テフロンビーカーの使用を考えるかもしれませんが、それは間違いです。

二酸化ケイ素がガラスから溶出するのは事実ですが、その溶出量が重量分析の結果に影響することはありません。
むしろ、ビーカー内部の様子が確認できず、脱水が不十分になること、ろ過の工程において細かな沈殿物が目視できず、沈殿物の回収が不十分になることのほうが、分析結果に大きな影響を与えます。

その昔、テフロンビーカーを使用して二酸化ケイ素の分析をさせられたことがあります。その分析結果が、認証値に対して大きく下回っていたことは言うまでもありません。


二酸化ケイ素を脱水する理由がわからない!

炭酸ナトリウム融解で分解したケイ酸塩の融解物を塩酸に溶かすと、単正ケイ酸(H4SiO4)を遊離します。

ところが、この溶液を加熱していくと分子間で少しずつ縮合が起こり出し、分子同士がSi-O-Si結合で結ばれ、三次元の網目構造が形成されていきます。その結果、ケイ酸含有量が多いほど溶液に粘性があらわれ、これをさらに加熱すると、モヤモヤとしたゲル状の沈殿ができます。

この沈殿は下の図のように、分子内部に多くの水を含んでいます。


また、二酸化ケイ素の溶解度は決して小さいわけではなく、むしろ溶けやすい沈殿です。
一般論として溶液に溶けやすい沈殿は、重量分析に不向きですが、二酸化ケイ素には溶解が平衡に達するのが非常に遅い(溶けるのに時間がかかる)という特徴があります。

そこで、分子内部に含んでいる水を全て取除き、一時的にゲル状の二酸化ケイ素を凝集さて、その溶解度をゼロにします。こんどは、これが再び溶けだす前に迅速にろ過することで、損失を最小限に抑えた二酸化ケイ素の回収が可能になります。

つまり、二酸化ケイ素を脱水する理由は、その溶解度をゼロにして、再び溶けだす前にろ別分離するためです。

ちなみに、二酸化ケイ素と溶液との最大接触時間は15~20分と言われおり、これを越えてしまうと二酸化ケイ素は溶け出します。


過塩素酸で二酸化ケイ素を脱水する際のポイントは?

過塩素酸は200℃以上になると白煙が発生するので、この白煙の発生を確認したら、時計皿でビーカーにフタをします。このときの過塩素酸は極めて強力な酸化剤であり、かつ脱水剤でもあります。

フタをした状態でしばらく加熱を継続すると、次第にビーカー内に充満していた白煙が消えて透明になり、ビーカー壁を伝わって冷却された過塩素酸が再びビーカーの底面に流れる様子が観察できます。

この白煙が消えた状態は、ビーカー内の脱水がほぼ完了したことを意味しますが、この状態を15分以上は継続してください。この工程は分析値を大きく左右するポイントの1つです。

蒸発乾固させない限り、長時間加熱し過ぎても問題ないので、しっかりと脱水しましょう。

また、過塩素酸は使用方法を誤ると爆発することのある大変危険な試薬です。必ず熟練者の監督・指導の下で使用してください。


ろ過をする際のポイントは?

ポイント① ろ紙とろう斗を密着させる。

ろ過を迅速に行うには、ろ紙をろう斗に密着させ、ろう斗の脚に液を充満させる必要があります。このろ紙をろう斗に密着させる技術は、はじめのうちは上手くできないかもしれませんが、適切な指導者の下で何度か練習すれば誰にでもできます。

ただし、ガラス製ではなくプラスチック製のろう斗の場合、ろ紙を密着させるのは無理です。


ポイント② 沈殿とろ紙の洗浄には温水を用いる。

分析経験が浅い人ほど、この洗浄工程を甘く見る傾向があります。
私たちが思っている以上に、ろ紙や沈殿には色々なものが付着しているので、徹底的に温水洗浄してください。

最終的には、洗浄液から酸が検出されなくなるまで洗浄します。
なぜなら、酸が残っているとろ紙がきれいに焼けませんし、過塩素酸を使用しているので、この後の工程で確実に爆発します‼

ちなみに、JIS K0211によると温水とは、40℃~60℃の水のことを言います。


後編につづく