今回はQ&A方式で解説します。
公定法やJISは、ありますか?
私の知る限り、焼却灰を対象とした公定法やJIS等の規格はありません。(環告13号が該当しますが、溶出試験ですからね...)
公定法やJIS等の規格がない場合、最も試料の組成が類似している公定法やJIS等の規格を探すのが解決への近道です。
焼却灰の場合、『JIS M8815
石炭灰及びコークス灰の分析方法(1976)』が最も試料の組成が類似していると思います。
規格には『炭酸ナトリウムで融解』とあるけど、酸分解はダメなの?
焼却灰は、ケイ酸塩(M(ii)SiO3)と金属の酸化物(M(ii)O)から構成されています。
そして、ケイ酸塩は酸に溶けません。
しかし、ケイ酸と結合する金属によっては、溶けることもあります。
具体例を挙げましょう。
ケイ酸ナトリウムは水に可溶ですが、ケイ酸カルシウムは水に不溶です。
水に不溶なケイ酸カルシウムは、酸で溶かすことができますが、ケイ酸アルミニウムは酸に不溶です。
一般的に、塩基性の強い金属と結合したケイ酸塩ほど、酸や水に溶解します。
金属の酸化物もケイ酸塩と同じように、塩基性の強い金属の酸化物ほど、酸や水に溶解します。
これについても、具体例を挙げましょう。
酸化ナトリウムは水に可溶ですが、酸化カルシウムは水に不溶です。
水に不溶な酸化カルシウムは、酸で溶かすことができますが、酸化アルミニウムは酸に不溶です。
もし、焼却灰に含まれるケイ酸塩の割合が低く、金属の塩基性が強いことが分かっているのであれば、酸分解でも問題ありません。
セメントの規格が酸分解法であるのは、これが理由です。
焼却灰の場合、酸素、ケイ素、鉄、アルミニウムがその主成分ですから、酸分解は不適切でしょう。
融解は『白金るつぼ』じゃなきゃダメ?
炭酸ナトリウムで融解する際は、『白金るつぼ』にこだわる必要はありません。
しかし、あとの工程で『白金るつぼ』を必ず使用するので、揃えておく必要はあります。
余談ですが、私が以前勤務していた会社には、ケチって少ない量の白金で作製した『白金るつぼ』がありました。
この『白金るつぼ』、とても薄くて柔らかいので全く使い物になりませんでした。
実験器具をケチると、ろくなことがありません。
『炭酸ナトリウムを加え、よく混和する』とあるけど、何か道具を使うの?
白金線、ミクロスパーテル等でルツボの内壁を傷つけないようにゆっくり混和します。
特に、ルツボの底の隅のほうに試料粉末が固まってしまい、分解が不十分になることがあるので、注意しましょう。
又は、試料と1/3程度の炭酸ナトリウムをメノウ製の乳鉢にとり、試料と炭酸ナトリウムをすりつぶしながら十分に混合したのち、白金ルツボに移します。
次いで、残りの炭酸ナトリウムを2回に分けて同じ乳鉢ですりつぶし、付着した混合物を回収します。
融解するときは電気炉?それともガスバーナー?
電気炉では試料の分解が不十分になってしまうので、ガスバーナーを使用します。
なぜ、電気炉では試料の分解が不十分なのでしょうか?
インスタントコーヒーに、お湯を注いだときのことを想像してください。
お湯を注いだだけでは、コーヒーの粉末は完全に溶けません。これを溶かすには、ティースプーンでかき混ぜる必要があります。
これと同じように、炭酸ナトリウムを溶かしただけでは、試料は完全に溶けません。ルツボの縁を白金トングで摘まみ、慎重にゆっくりとかき混ぜる必要があります。
ガスバーナーであれば、かき混ぜることもルツボの中の様子を覗くこともできますが、電気炉の場合、かき混ぜることができないので、試料の分解が不十分になってしまうのです。
ケイ酸塩や金属酸化物が炭酸ナトリウムと反応する際の、メカニズムを知りたい!
溶融状態の炭酸ナトリウムは、強電解質の性質をもち、イオン解離していると考えられています。
Na2CO3 → 2Na+ + CO32-
ここで生じた高温のNaイオンはケイ酸塩に対して強力な反応性を持ち、多量のNaイオンがシリカと結合することで可溶性の塩となり、ケイ酸塩を構成していた金属イオンは酸可溶性の塩(炭酸塩)となります。
M(ii)SiO3 + Na2CO3 → Na2SiO3
+ M(ii)CO3
一方、高温の炭酸イオンは酸素イオンと二酸化炭素に分かれます。
融解中にプツプツと気泡が確認できると思いますが、これは二酸化炭素です。
CO32- → CO2 + O2-
この酸素イオンは反応性が非常に強く、試料中の金属酸化物を攻撃し、可溶性の塩にしてしまいます。
M(ii)O + Na2CO3 → Na2M(ii)O2 + CO2
中編につづく