2022年2月11日金曜日

定量下限値のはなし(3) 適切な精度とは?

前回、「定量下限値」を次のように定義した。

ある分析方法による分析対象成分の定量が何度も比較対象と同じ結果になる(適切な精度と真度で定量できる)最小量又は最小濃度のこと。


太字部分「適切な精度」、これは具体的にどれくらいの精度を指すのだろうか?

精度を数値で表したいとき、相対標準偏差(RSD)で表すのが一般的だ。

「適切な精度」は分析の種類、目的などによって変わるから、規格や公定法には相対標準偏差(RSD)が明記されている。ところが、それが読み取れない人は意外と多い。


規格や公定法から具体的な精度を読みとろう!

たとえば、底質調査法(平成24年8月8日 環水大水発第120725002号)には次のような記載がある。

分析方法の定量下限値(MQL)はMDL(分析方法検出下限値)の算出に用いた標準偏差sの10倍値とする。


これは分析対象物質や妨害物質を含まない試料に、検出下限値の5倍程度の濃度となるように調製した試料を用意し、これを7回以上測定したときに得た標準偏差sの10倍の数値が「分析方法の定量下限値」になる、ということだ。


...あれ?
規格や公定法からRSDを読み取る方法を解説していたのでは?

このような疑問を抱いてしまうかもしれないが、どうか最後まで聞いてほしい。


たとえば「分析方法の定量下限値」付近の濃度になるように調製した試料を用意し、これを7回以上測定したとしよう。測定によって得られた平均値X標準偏差s'を次の式に代入すれば、相対標準偏差 (%) が求まる。


相対標準偏差 (%) = (標準偏差s' / 平均値X ) × 100


このとき「 標準偏差s = 標準偏差s' 」と仮定すると、
「分析方法の定量下限値」は標準偏差sの10倍の数値だから、平均値X = 標準偏差s × 10 と表現できる。

なぜなら、平均値X「分析方法の定量下限値」付近の濃度になるように調製した試料の平均測定値のことだからね。

平均値X = 標準偏差s × 10を相対標準偏差の計算式に代入すると...


相対標準偏差 (%) = (標準偏差s / 標準偏差s × 10) × 100


これを解くと、相対標準偏差 = 10 (%)

つまり、底質調査法では定量下限値は相対標準偏差が10%になることを想定しているわけだ。


参考・引用した文献など

底質調査方法(平成24年8月 水・大気環境局)



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