1.エナンチオマーとは?
エナンチオマー(Enantiomer)は、高校で学習する鏡像異性体のことです。
「鏡像異性体って何だっけ?」
という人は下の動画で復習してください。
動画で解説されていたように、乳酸にはエナンチオマー(鏡像異性体)が存在します。
立体的な形が少しだけ異なる2つの乳酸(鏡像異性体どうし)には、何か異なる性質があるのでしょうか?
鏡像異性体は形がよく似ているだけでなく、沸点、融点、密度などの物理的性質や、酸塩基反応や酸化還元反応に関する化学的性質も同じです。
しかし、生物に対する作用(生理作用)と、光を回転させる性質(光学活性)に違いがあります。
生理作用の場合、片方が良薬だとしても、もう一方が毒薬になることがあり、実際にこれが原因でサリドマイド事件は起きました。
2.光を回転させる性質(光学活性)とは?
光を「回転させる」というより、光を「ひねる」という表現のほうがイメージしやすいでしょう。
動画では果糖の水溶液に光(偏光)を通すと,光を「ひねる」現象が紹介されていました。
ところで、「ひねる」という現象には時計回りに回転する「右ひねり」と、反時計回りに回転する「左ひねり」があります。
エナンチオマーの場合「対」になっていますから、一方が右向き(時計回り)にひねるのであれば、もう一方は左向き(反時計回り)にひねることになります。
そして、右向き(時計回り)にひねる性質を右旋性といい、正号(+)をつけます。左向き(反時計回り)にひねる性質は左旋性といい、負号(-)をつけます。
右旋性と左旋性は旋光計という装置で簡単に調べることができます。
3.RS表示とは?
エナンチオマーの区別には、ラテン語のrectus(左)、 sinister(右)にちなむRS表示を使います。
R体かS体かの判別は、次の手続きで進めます。
- 不斉炭素に結合した4つの原子(原子団)に、原子番号が大きいほうから①番、②番、③番、④番と番号をふる。
- ④番の原子(原子団)を紙面奥側になるように、構造式を回転させる。
- 残った優先順位1~3の原子(原子団)を1→2→3の順序で見たとき、それが時計回りなら R体、反時計回りなら S体。
3.“+/-” 表示と RS 表示には何か関連性はありますか?
両者の間に、関連性はありません。
RS 表示は分子のミクロな性質(構造)を表し、“+/-” 表示は分子集団のマクロな性質(旋光性)を表します。
両者の性質を伝えたいのであれば、(R)-(+)-「化合物名」のように表示を組み合わせて表記します。
たとえば、分子構造がS型で左旋性の2-ブロモブタンは、"(S)-(-)-2-ブロモブタン" と表記します。
4.参考文献と参考動画
『スペンサー基礎化学 物質の成り立ちと変りかた(下)』東京化学同人