QMS を搭載した ICP-MS は、分解能が低いために多原子イオンによるスペクトル干渉の問題を抱えているというのが前回までの話でした。
さて、このスペクトル干渉の原因である多原子イオンについて整理してみます。
多原子イオンとは?
ICP-MS は Ar のプラズマを用いて、硝酸、硫酸、塩酸等の水溶液を試料溶液として測定しているため、Ar・水分子・酸類に起因する多原子イオンが多量に発生します。
例えば、Ar と H が結合した質量数39の 38ArH+ は、質量数39の 39K+ に干渉しますし、Ar と O が結合した質量数56の 40Ar16O+ は、質量数56の 56Fe+ に干渉します。また、Ar 同士が結合した質量数78の 38Ar40Ar+ とAr 単体の質量数40の 40Ar+ は、それぞれ質量数78の 78Se+ と質量数40の 40Ca+ に干渉します。このように干渉を受ける元素が分析需要の多い元素となると、ICP-MS は実用性に欠けてしまいます。
多原子イオン発生の原因はどこか?
多原子イオンによるスペクトル干渉を解決しないことには、ICP-MSの実用性は見出せません。Ar のプラズマを使用しているので、Ar を起因とする多原子イオンを完全に除去することは不可能ですが、減らすことはできるはずです。
では、どの過程でArを起因とする多原子イオンが生成するのでしょうか?
不活性ガスと言われる Ar ですから、その多原子イオンの解離エネルギーは非常に小さい(簡単に分解する)はずですから、プラズマ中では Ar イオン単体として存在しているはずです。
いったいどこで Ar イオンが再結合しているのかと考えると、インターフェースもしくはイオンレンズ領域になります。
ここで思い出して欲しいのですが、プラズマ中心部から発生したイオンを真空部に引き込むために、プラズマとサンプリングコーンを接近させる動画を前回紹介しました。このとき、プラズマとサンプリングコーンとの間で電気回路としての結合が生じてしまい、2次放電が発生することも話しました。
実はこの2次放電が Ar 多原子イオンの生成を促進しているのです。
つまり、Ar 多原子イオンの生成を防ぐにはこの放電を防ぐ必要があり、その発生原因は次の2つであることが分かっています。
①プラズマとサンプリングコーンが接触すると 誘導コイル → プラズマ → サンプリングコーンという電気の流れができてしまう。
②プラズマとサンプリングコーンとの電位差が放電現象を発生させる。
②プラズマとサンプリングコーンとの電位差が放電現象を発生させる。
放電を防ぐにはプラズマとサンプリングコーンとの間にできた電気回路としての結合を遮断し、プラズマ電位を下げてしまえば良いのです。
①電気回路としての結合を遮断する
ICP-MSでは画像のように石英トーチに白金性のシールドを取り付けることで、プラズマと高周波コイルとの間の結合が遮断され、プラズマとサンプリングコーンとの間の結合も遮断されます。
②プラズマの電位を下げる
プラズマ電位を下げるため高周波出力を下げるのですが、出力を下げることでプラズマの温度が低下します。プラズマの温度が下がると元素のイオン化効率が悪くなり、感度が低下することが予想されました。
ところが、この予想は見事に外れたのです。
プラズマの温度を下げると、最初に減少したのは最もイオン化しにくい(イオン化エネルギーの大きい)Ar イオンでした。
Ar イオンが減少したことで Ar イオンによる空間電荷効果が消滅し、これまで Ar イオンによって弾き飛ばされていた分析対象のイオンは、予期したほどの感度低下を引き起こさなかったのです。
また Ar イオンが減少したことで、Ar 由来の多原子イオンによるスペクトル干渉(バックグラウンド)が低減しました。
このようにクールプラズマは、スペクトル干渉と空間電荷効果による感度低下の問題を解決してしまったのです。ただし、条件が2つあります。
プラズマの出力が低いので、イオン化しにくい元素はクールプラズマでの測定は不適切です。それから、耐熱性酸化物を作りやすい元素(W, Ta, Zr, Si)も測定には不適切です。
また、Na のようなイオン化しやすいマトリックスが多く共存するとプラズマ内でのイオン化干渉、真空域での空間電荷効果により感度の低下を招いてしまいます。
そして、クールプラズマでは酸化物イオンの生成比が非常に高くなる特徴があります。そのため、新たなスペクトル干渉が発生する可能性に注意してください。
プラズマ電位を下げるため高周波出力を下げるのですが、出力を下げることでプラズマの温度が低下します。プラズマの温度が下がると元素のイオン化効率が悪くなり、感度が低下することが予想されました。
ところが、この予想は見事に外れたのです。
プラズマの温度を下げると、最初に減少したのは最もイオン化しにくい(イオン化エネルギーの大きい)Ar イオンでした。
Ar イオンが減少したことで Ar イオンによる空間電荷効果が消滅し、これまで Ar イオンによって弾き飛ばされていた分析対象のイオンは、予期したほどの感度低下を引き起こさなかったのです。
また Ar イオンが減少したことで、Ar 由来の多原子イオンによるスペクトル干渉(バックグラウンド)が低減しました。
このようにクールプラズマは、スペクトル干渉と空間電荷効果による感度低下の問題を解決してしまったのです。ただし、条件が2つあります。
①イオン化エネルギーの小さな元素の測定に限定する。
②共存マトリックスが少ない試料に限定する。
②共存マトリックスが少ない試料に限定する。
プラズマの出力が低いので、イオン化しにくい元素はクールプラズマでの測定は不適切です。それから、耐熱性酸化物を作りやすい元素(W, Ta, Zr, Si)も測定には不適切です。
また、Na のようなイオン化しやすいマトリックスが多く共存するとプラズマ内でのイオン化干渉、真空域での空間電荷効果により感度の低下を招いてしまいます。
そして、クールプラズマでは酸化物イオンの生成比が非常に高くなる特徴があります。そのため、新たなスペクトル干渉が発生する可能性に注意してください。
シールドトーチとクールプラズマの開発によって条件付きではありますが、スペクトル干渉を低減させ、ppbレベルの測定が可能となりました。
次回はスペクトル干渉を低減させるもうひとつの技術、コリジョンリアクションセル(CRC)についてのお話しです。
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