インターフェース
Ar ガスとともにプラズマに導入された試料は5000K 以上に加熱され、溶媒の蒸発 → 気化・分解 → 原子化 → イオン化 → 励起が瞬時にして起こります。
そしてプラズマ内で発生したイオンはサンプリングコーンとスキマーコーンからなるインターフェースフェースを介して、真空部に引き込まれます。
ただ、高温大気圧のプラズマから真空の質量分析計にイオンを注入させるのは容易なことではなく、ICP-MS 開発における難題の1つでした。具体的なポイントは次の2つです。
①イオンの取り込み口の材料とその形状をどう設計するか?
②真空システムをどう維持するか?
②真空システムをどう維持するか?
動画(0:10ぐらい)のように、プラズマとサンプリングコーン(円錐状の熱伝導の良い金属部品(主にNiとPt))を接近させることで、プラズマ中心部から発生したイオンを真空部に引き込むことに成功しました。しかし、問題がないわけではありません。
プラズマとサンプリングコーンとの間で電気回路としての結合が生じてしまい、2次放電が観測されました。そのため多原子イオンの生成によるバックグラウンドの増大と、放電によるコーンの劣化が発生したのです。
また、プラズマで発生したイオンをオリフィスという孔から真空部に引き込むため、オリフィスは必然的に小さくなります。(大きいと真空環境を維持できません。)
しかし共存マトリックスを含む試料を導入すると、このオリフィスが詰まってしまいます。それならばオリフィスを大きくすれば良いという話になりますが、大きくすると今度はQMSの真空環境を維持できません。
そこで次のように3段階に分けて順番に真空度を高めることで QMS の真空環境を確保することになりました。
(1段目)インターフェース → (2段目)イオンレンズ → (3段目)QMS
イオンレンズ
さて、サンプリングコーンとスキマーコーンからなるインターフェースを通過したプラズマはイオンレンズに到達します。ここでは負の電圧を印加した引き出しレンズによってイオンがプラズマから抽出され、静電レンズによってコンパクトなイオンビームに絞られます。
また、イオンレンズにはプラズマからの強力な紫外光や未分解粒子、再結合した原子も到達します。後方にある検出器はこれらに感応し、バックグラウンド信号上昇の原因となるため、なんらかの対策が必要です。
そこで、偏向レンズによってイオンをこれらから分離させます。
下の図のように、光子や中性原子・粒子はそのまま直進し遮光板によって行く手を阻まれますが、遮光板を回避・軌道変更したイオンはQMSの入口に到達します。
しかし、引き出されたイオンすべてがQMSの入口に到達するわけではありません。イオン同士の間で電気的な反発力が働き、軽い質量のイオンほど弾き飛ばされ、分析イオンがQMSの入口に集まらず感度が低下してしまいます。これを空間電荷効果といいます。
通常、イオンレンズ内における最も優勢なイオンはArイオンなので、少数派の分析イオンはこの優勢なArイオンによって弾き飛ばされているのです。
このように、初期のICP-MSは多原子イオンによるスペクトル干渉と空間電荷効果による感度の低下という2つの課題を抱えていました。
次回はこの2つの課題を解決するに至った“シールドトーチ”と“クールプラズマ”の話をします。