グリニャール試薬とは「炭素-マグネシウム」結合をもった化合物のことです。
この試薬は、ハロゲン化アルキルもしくはハロゲン化アリールと、金属マグネシウムを作用させることで生成します。
基本的には、マグネシウムが「炭素-ハロゲン」結合にそのまま挿入され、「炭素-マグネシウム-ハロゲン」結合となります。
それでは、この試薬の生成過程をもう少し詳しく見ていきましょう。
マグネシウムが挿入される前のハロゲン化アルキル(ハロゲン化アリール)は、ハロゲンの誘起効果で炭素原子の電子密度は低下した状態です。
つまり、炭素周辺の電子がハロゲンによって奪われている状態とイメージしてください。
ところが、Mgが挿入されると炭素原子の電子密度は上昇に転じます。
これは炭素のほうがマグネシウムよりもかなり電気陰性度が大きいため、こんどは炭素がマグネシウム周辺の電子を奪っている状態だからです。
(電気陰性度はC=2.55, Mg=1.31)
その結果「炭素-マグネシウム」結合はかなりのイオン性をもち、イオン結合のように電離するようになります。
電離したアルキル陰イオン(R-)は強力な求核性をもっていますが、取扱いを誤るとその強力な求核性を失ってしまいます。
たとえば、アルキル陰イオン(CH3-)が水と反応(プロトン化)すると、CH4が生成し求核性を失ってしまいます。
ですから、この試薬を生成する際はエーテルもしくはテトラヒドロフラン(THF)の中で行い、実験に使用する器具や試薬は完全に乾燥させ、水分の混入を防ぐ必要があります。
参考文献
John, McMurry『マクマリー有機化学 第9版』東京化学同人(335~336,716~718)
D.Rクライン『困ったときの有機化学 第2版』化学同人(174~177)
亀田和久『亀田講義ナマ中継有機化学』講談社サイエンティフィック(140~152)
斎藤勝裕『マンガでわかる有機化学』ソフトバンククリエイティブ株式会社(120,121,208~211)