……はぁ。ここ、かなり重要だからはっきり言うわ。 無機物は測定対象外‼
勘違いしないで。 仕方ないから、その理由をちゃんと説明してあげる。
原理的な問題:「ガスが出ればOK」が間違いな理由
そもそもCHN分析装置って、有機化合物の組成確認とか純度評価に使う装置なの。
原理はすごくシンプルで、
「試料を酸素雰囲気で完全燃焼させて、発生したガスを測る」。
それだけ。
するとね、化学の基礎がある人ほど、こんなこと考えがちなのよ。
無機窒化物や無機炭化物のような無機物は燃焼しないからガス化しない、それはまあ理解できる。
でも、「硝酸塩や炭酸塩は熱分解でガスが発生するから、測れるんじゃない?」
たしかに、炭酸塩や硝酸塩、結晶水なんかは、加熱すればCO₂やNOx、H₂Oを出すわ。
一見すると、CHN分析装置で測定できそうに見えるのも無理はない。
でもね、CHN分析装置の本質は、単にガスを測ることじゃないの。
「有機物を一瞬で完全燃焼させること」
そこに全振りした分析手法なのよ 。
完全燃焼するからこそ、試料中の炭素・水素・窒素が完全かつ定量的にCO2・H2O・N2へガス化するように設計されているの。
装置はね、ガス検出のピークが出始めてから一定時間、もしくは信号がベースラインに戻るまでを測定する。
でも、炭酸塩や硝酸塩の熱分解って、有機物の爆発的な燃焼に比べると反応がすごく緩やか。
そのせいでピークのテール(ピークの引きずり)が長引くと、装置が
「はい終了~」
って勝手に判断して、計算を打ち切っちゃうことがあるの。
つまり、無機試料の場合、目的成分が完全かつ定量的にガス化する保証はないわけ。
……わかった?
装置へのダメージ:装置担当者が泣くリスク
無機物が測定対象外な理由は「測れる・測れない」以前に、装置トラブルを引き起こすリスクがある。
★ルツボと燃焼管の汚染
たとえばLeco製のCHN分析装置では、
試料は加熱された燃焼管内のポーラス状坩堝に投入されて、純酸素気流中で燃焼される。
でも無機物を入れたらどうなると思う?
燃えないから、そのままルツボに蓄積するのよ。
蓄積した試料は燃焼環境を悪化させるし、ガスの流れを物理的に邪魔するし。
当然、分析結果はボロボロになるわ。
★試薬(還元銅)の寿命が激減
通常、発生したNOxは還元銅によってN2還元されるし、燃焼に使われた余剰酸素も酸化銅として吸収される。
でも無機試料を測ると、本来、有機物の燃焼に消費されるはずの酸素が消費されない。
その結果、還元銅が大量の酸素と反応することになって、一気に酸化。
……試薬寿命、即終了よ。
じゃあ、実験室で無機物の焼成過程で発生するNOxを測定したいときはどうするの?
……仕方ないわね。教えてあげる。
★ガス検知管法
酸素または空気を流した管状炉で試料を焼成して、アウトガスをサンプリングバックに捕集。
そこにガス検知管を挿入して、NOxの有無を簡易確認する。
★イオンクロマトグラフ法(JIS K 0104)
同じく管状炉で試料を焼成して、アウトガスを吸収液(過酸化水素水+硫酸)に通す。
NOxを硝酸イオンとして捕集して、その液をイオンクロマトグラフで測定するの。
CHN分析はね、
「ガスが出るなら測れる」
……なんて、そんな甘い話じゃない。
大事なのは
「ガスが出るかどうか」じゃなくて、
「完全燃焼によって定量できるかどうか」。
CHN分析は万能じゃないし、無機物はその前提を満たさない以上、測定対象外。
……頻繁に炉を落として、ルツボ交換とか試薬交換したくないでしょ?
だったら、余計なことはしないことね。