2021年4月29日木曜日

第71回(2020.12)環境計量に関する基礎知識(化学) 問7

📁第71回(令和2年)

溶解度積の理解を試す問題。
溶解度積は高校で学習する内容です。設問の難易度も基礎的な知識と考え方が身についていれば、苦労せずに正解に辿り着けるはずなので、試験本番では落としたくない問題です。


銀イオンと塩化物イオンが反応すると水に難溶な塩化銀が生成する、これは高校で学習する基礎知識だ。

これを踏まえて、0.03mol/Lの硝酸銀水溶液 と 0.01mol/Lの塩化ナトリウム水溶液 を混合したとき何が起きるのか?表にまとめてみよう。


Ag+  +  Cl-  →  AgCl
 反応前    0.03V (mol)    0.01V (mol)      0 (mol) 
 反応量    -0.01V (mol)   -0.01V (mol)   +0.01V (mol) 
 反応後    0.02V (mol)      0 (mol)    0.01V (mol) 

問題文に体積についての記述がないから、硝酸銀水溶液と塩化ナトリウム水溶液の体積をそれぞれ V (L) とすると...

  • 反応前の銀イオンの物質量は… 0.03 (mol/L) × V (L) より 0.03V mol
  • 反応前の塩化物イオンの物質量は… 0.01 (mol/L) × V (L) より 0.01V mol

銀イオンと塩化物イオンがそれぞれ 0.01V (mol) 反応し、0.01V (mol) の塩化銀が生成する。

つまり、塩化銀の生成に銀イオンと塩化物イオンがそれぞれ 0.01V (mol) 消費されたことになるから、塩化銀生成後の溶液には銀イオンが 0.02 (mol) 残り、塩化物イオンは残らない。

だから、正解は 0 mol/L だ!

......

......

おかしい...
選択肢に 0 mol/L がない...
どこで間違えたのだろう...?

大丈夫。
どこも間違えていない。
だけど1つだけ大事なことを見落としている。
塩化銀が溶けるってことを。

塩化銀は水に全く溶けないわけではなくて、わずかだけどその一部は次の化学式で示すように溶けて平衡状態になっている。

 AgCl ⇄ Ag+ + Cl-

これを踏まえ、塩化銀が S mol/L 溶けたと仮定したとき、混合溶液中で何が起きるのか?表にまとめてみよう。


AgCl  ⇄  Ag+  +  Cl-
 溶解前    0 (mol/L)     0.01 (mol/L)    0 (mol/L) 
 溶解量    +S (mol/L)      +S (mol/L)   +S (mol/L) 
 溶解後    S (mol/L)   0.01+S (mol/L)    S (mol/L) 


0.03mol/Lの硝酸銀水溶液 と 0.01mol/Lの塩化ナトリウム水溶液 を混合し、AgCl の沈殿を生成した後、AgCl が溶ける前の溶液中には塩化物イオンが 0 mol、銀イオンは 0.02V mol 残っている。

硝酸銀水溶液と塩化ナトリウム水溶液の体積がそれぞれ V (L)だから、混合液の体積は 2V (L) となる。したがって...

  • AgCl が溶ける前の銀イオンの濃度は… 0.02V (mol) / 2V (L) より 0.01 (mol/L) 
  • AgCl が溶ける前の塩化物イオンの濃度は… 0 (mol) / 2V (L) より 0 (mol/L)

塩化銀が S mol/L 溶けるのだから、それから電離した銀イオンと塩化物イオンの濃度はそれぞれ S mol/L となる。

つまり、S mol/L の塩化銀が溶けた溶液には 0.01+S mol/L の銀イオンと S mol/L の塩化物イオンが存在し、この塩化物イオンの濃度( S mol/L )が解答になる。


さて、どうやって塩化物イオンの濃度( S mol/L )を求めようか?


塩化銀に限ったことではないが、平衡状態にあるとき左辺の物質の濃度と右辺の物質の濃度との間には下に示す関係が成立つ。

 K(平衡定数) = 右辺のモル濃度 左辺のモル濃度

塩化銀の場合、その平衡定数は次のようになる。

 K(平衡定数) = [Ag+] [Cl-] [AgCl]

ただし、塩化銀のように溶けきらずに残っている純粋な固体は、量の多少に関係なく一定量(定数)とみなされる。
そこで左辺に定数、右辺に変数がくるように式を整理してみる。

 K [AgCl] = [Ag+] [Cl-]
    KSP = [Ag+] [Cl-]

すると、平衡定数 とは異なる新しい定数 KSP が誕生した。これを『溶解度積』とよぶ。
そして、問題文には塩化銀の溶解度積の情報が与えられている。

 [Ag+] [Cl-] = 1×10-10 (mol/L)2  ・・・①式


S mol/L の塩化銀が溶けた溶液には 0.01+S mol/L の銀イオンと S mol/L の塩化物イオンが存在するのだから、 [Ag+] = 0.01+S と [Cl-] = S を①式に代入する。

( 0.01+S ) × S = 1 × 10-10

この2次方程式を頑張って計算しても良いのだけれど、少し楽をしよう!


我々が今、計算して得ようとしているのは S の値だ。
そして、この値は塩化物イオンの濃度であり、その濃度は選択肢に示された数値の範囲内にある。
すなわち、1 × 10-5 > S > 1 × 10-9 であり、これはとても小さい数値だ。

次に、0.01+S について考えてみたい。
S は 0.01 よりも3桁以上も小さい数値であり、0.01 よりもゼロに限りなく近い数値なのだから、0.01+S ≒ 0.01 と考えることができる。

さっそく、0.01+S を 0.01 に置き換える。

0.01 × S = 1 × 10-10
S = 1 × 10-8

正解は


参考動画