2021年2月7日日曜日

環境計量士と化学熱力学(4)

6.エントロピー

道路に水溜りがあるとする。
夏であれば、この水溜りは蒸発するし、冬であれば凍結してしまう。
水は何を基準にして蒸発や凍結するのだろうか?

水が蒸発するときは必ず周囲の熱を吸収し、水が凍結するときは必ず周囲に熱を放出する。つまり、熱の出入りがあるわけだ。
しかし、水が周囲に熱を放出すれば、必ず凍るのかというとそうでもない。
冬でも気温が高くて温かいときは凍らない。つまり、温度も影響している。

要するに、水が蒸発する・凍結するといった変化の向きを決定する基準は、熱と温度が関係しているのだ。
そして、この変化の向きを把握するための指標として エントロピー(entropy)があり、エントロピーは熱と温度が関係した概念ということになる。

実際、温度 T のときに熱エネルギーが Q 増加すると、エントロピーの増加量 ΔSΔS = Q/T 単位は J/K で表せる。


7.熱力学第二法則

ΔS についてもう少し掘り下げいこう。

たとえば、温度 T1 の冷凍庫から保冷剤を取出し、温度 T2 のクーラーボックスに移したとする。
しばらくすると、保冷剤はクーラーボックス内部から熱 Q を得て、カチカチの状態から溶けて柔らかくなる。元のカチカチの状態に自然に戻ることはないから、この一連の過程は不可逆過程だ。
この過程において保冷剤のエントロピー(ΔS 保冷剤)は Q/T1 だけ増加したことになる。

いっぽう、クーラーボックスは内部は保冷剤に熱 Q を移すから、クーラーボックスのエントロピー(ΔS ボックス)は -Q/T2 だけ減少する。

したがって、冷凍庫からクーラーボックスへ保冷剤を移すという一連の行為によるエントロピー変化は ΔS 一連の行為 = ΔS 保冷剤 + ΔS ボックス で表すことができる。


そして、ΔS 保冷剤 が Q/T1 だけ増加し、ΔS ボックス-Q/T2 だけ減少したのだから、 

ΔS 一連の行為 =  Q/T1 + (-Q/T2 ) となり、

この式を Q でまとめると

 ΔS 一連の行為 =  Q ( 1/T1 - 1/T2 ) となる。

クーラーボックスのほうが冷凍庫よりも温度が高い( T1 < T2  )から、

1/T1 > 1/T2 となり、 ΔS 一連の行為 > 0 がいえる。


つまり、クーラーボックスのような外部からの温度の影響を受けにくい条件の下において、不可逆過程(保冷剤は自然に溶けるが自然に凍ることはないという過程)における ΔS 一連の行為 は、必ずプラスになる。

そして、外部からの温度の影響を受けにくい条件(断熱条件)の下において、  ΔS 一連の行為 がプラスであれば、変化は必ず不可逆過程となる。

この法則を熱力学第二法則とよぶ。


熱力学では注目している部分を「系」、これを除く全てを「外界」と言い、「系」と「外界」を合わせたものを「宇宙」と言う。

だから、ΔS 保冷剤 は ΔS  、 ΔS ボックス は ΔS 外界 、  ΔS 一連の行為 は  ΔS 宇宙 とそれぞれ置き換え、もう一度熱力学第二法則を定義してみる。

断熱条件下(孤立系)における不可逆過程において、ΔS 宇宙 は必ずプラスになる。

→ ΔS 宇宙 がプラスのとき、変化は自発的に進む(不可逆過程になる)。
→ 自発的な変化は宇宙のエントロピーを増やす。

なかなか理解しづらいところだけど、次のギブスエネルギーへの橋渡しとして、ΔS 宇宙 がプラスのとき、変化は自発的に進む " だけは覚えて欲しい。


8.熱力学第三法則

ところで、エントロピーには「乱雑さ」を表す物理量という意味付けがなされている。
こんどは、エントロピーが持つ「乱雑さ」について考えていこう。

固体、液体、気体の三酸化硫黄(SO3)がそれぞれもつ標準エントロピー(S°)を下の表に示した。 

状態  S° (J/mol・K) 
 SO3 (固)  70.7
 SO3 (液)  113.8
 SO3 (気)  256.76

液体は固体よりも粒子が乱雑だから固体よりもエントロピーが大きくなり、気体は液体より粒子が広い空間を占めているので、液体よりもエントロピーが大きくなる。
つまり、固体 < 液体 < 気体 と状態を変化させることでエントロピーは大きくなる。

それじゃあ、どんなときエントロピーは最小になるのか?
それは、分子・原子レベルの運動が「ゼロ」に近づいたとき。つまり、絶対零度(0K )のときだ。

したがって、完全結晶のエントロピーは絶対零度(0K )のときに「ゼロ」になる。この法則を熱力学第三法則とよぶ。