3.状態量
熱力学では圧力や温度、熱量といった数値が多く登場するが、これらの数値は「状態量」と「非状態量」の2つに分類することができる。
はじめに、この状態量についての定義を確認しておこう。
- (ある文献1)状態量とは系の状態を指定すれば1つに決まり、過去の経路に関係がない量のこと。
- (ある文献2)状態量とは変化の前と後の状態さえ確定すれば、途中の経路に関係なく値が決まる数値のこと。
- (wikipedia)状態量とは、系(巨視的な物質または場)の状態だけで一意的(意味や値などが1つに確定していること)に決まり、過去の履歴や経路には依存しない物理量のこと。
...ちょっと抽象的過ぎる説明だね。
何が状態量に分類されて、何が分類されないのか、具体的に見てみよう。
状態量に分類される代表的なもの
温度・圧力・体積・内部エネルギー・エンタルピー・エントロピー・ギブスエネルギー
非状態量に分類される代表的なもの
熱量・仕事
さて、これらの違いは何か?何を基準に分けているのか?
今回は富士登山を例にして考えてみる。
標高47mの自宅から富士山頂(標高3776m)を目指して出発したとしよう。
富士山には4つの登山ルートがあり、どのルートを選択しようと無事に山頂に到着できれば、標高3776mからの景色を楽しむことができる。
山頂に到着した登山者の位置(標高)は、登山ルートに関係なく決定する数値だから状態量に分類できる。これに対して、選択した登山ルートによって疲労度や消費したカロリーなどは異なる。これらは非状態量に分類される。
つまり、ある時(登山前とか終了時)、ある対象物(登山者の位置)の状態を示す測定可能な数値が状態量に分類され、状態量を変化させる手段(登山ルート)と関係する数値は状態量に分類されない。
前回(化学熱力学(1))のペットボトル内部の気体を温める話を思い出してもらいたい。
内部の気体を温める方法は、①外部から熱を与える(熱量)、②内部の圧力を上げる(仕事)の2つだった。
これらは内部エネルギーという状態量を変化させる手段だ。
状態量を変化させる手段は状態量に分類されないのだから、それに関係する熱量と仕事は非状態量に分類される。