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2020年4月19日日曜日

環境計量士(濃度関係)国家試験問題の解説(環化) 2019.12 問11

令和元年(12月)第70回

酸化数の計算と錯体についての知識を問う問題。
どちらも高校で学習する内容だけど、(イ)の金属カルボニル錯体の存在が設問の難易度を上げているように思えてしまう。
しかし、出題者の意図は金属カルボニル錯体についての知識を問うのではなく、高校で学習した基礎知識をベースとした思考力を試しているようだ。

酸化の計算は化学反応のとき起こる電子の流れを把握する上で非常に有用であるが故に必修項目。下に挙げたルールに従い、習得するまで問題演習を繰返して欲しい。

①単体の原子の酸化数を0とする。
②単原子イオンの酸化数は、イオンの価数に等しい。
③分子を構成する原子の酸化数の和は 0 になる。
④多原子イオンを構成する原子の酸化数の和はイオンの価数に等しい。
⑤ハロゲン原子の酸化数は -1
⑥アルカリ金属の酸化数は +1
⑦酸素の酸化数は基本的に -2(H2O2 では -1)
⑧自分より電気陰性度の大きい元素と結合した H 原子の酸化数は +1
⑨自分より電気陰性度の小さい元素と結合した H 原子の酸化数は -1

設問を解いていこう。

(ア)
『ルール④:多原子イオンを構成する原子の酸化数の和はイオンの価数に等しい。』より、次の式が成立する。

クロム1個 × クロムの酸化数 + 酸素4個 × 酸素の酸化数 = -2

『ルール⑦:酸素の酸化数は基本的に -2(H2O2 では -1)』より、酸素の酸化数 =-2を上の式に代入する。

クロムの酸化数 + 4×(-2) = -2
これを解くと、クロムの酸化数 = +6


(ウ)
ニッケル1個 × ニッケルの酸化数 + 臭素4個 × 臭素の酸化数 = -2

『ルール⑤:ハロゲン原子の酸化数は -1』より、臭素の酸化数=-1を上の式に代入する。

ニッケルの酸化数 + 4× (-1) = -2
ニッケルの酸化数 = +2

(エ)
銅1個 × 銅の酸化数 + シアン3個 × シアンの酸化数 = -2

シアン化物イオン( CN- )は高校化学で登場する代表的な配位子。その酸化数は-1。

銅の酸化数 +3× (-1) = -2
銅の酸化数 = +1


以上より、酸化数の大きい順番に(ア)>(ウ)>(エ)となる。この順序に反したは誤り。


(イ)
金属カルボニル錯体について考える前に、金属錯体の基本を確認しよう。
金属錯体とは、分子の中心に金属イオンが存在し、それを取り囲むように配位子と呼ばれる非共有電子対を持つ陰イオンや電気的に中性の分子が配位結合したイオン化合物のことだ。
たとえば(ア)(ウ)(エ)で登場した O, Br, CN は、どれも非共有電子対を持つ陰イオンの配位子だった。

ところで、非共有電子対を持つ中性分子の配位子には、どんなものがあるのだろうか?

高校化学で登場する代表的な中性分子の配位子に H2O とNH3 がある。
錯体としては [Ag(NH3)2]+ や [Cu(H2O)4]2+2 が有名だ。
H2O と NH3 の酸化数はもちろん0だから、このときの Ag と Cu の酸化数は『ルール④:多原子イオンを構成する原子の酸化数の和はイオンの価数に等しくなる』から、それぞれ +1と+2なる。

ここまでの話をまとめると配位子には非共有電子対を持つ陰イオンと電気的に中性な分子の2種類があるのだけれど、配位子としての CO はどちらだろうか?

化学を勉強していれば CO がイオンではないことは分かるだろう。
イオンでないなら CO は電気的に中性な分子であり、その酸化数は H2O や NH3 と同じ0だ。

『ルール④:多原子イオンを構成する原子の酸化数の和はイオンの価数に等しくなる』から、Fe の酸化数は-2だと分かる。
したがって、酸化数の大きい順番に(ア)>(ウ)>(エ)>(イ)となるから、正解は