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2020年2月8日土曜日

環境計量士のための Point 解説 標準電極電位

1.イオン化列の限界

次の動画は、硝酸銀水溶液(4%)をろ紙にしみ込ませ、その上に銅板をおいて3〜4時間ほど放置した様子です。


これは銅のほうが銀よりもイオンになりやすいために起こる現象です。

銅のほうが銀よりもイオンになりやすいとは?

ヒトにはそれぞれ個性があるように、金属にもそれぞれ個性があります。
当然、イオンになりやすい金属もあれば、イオンになりにくい金属もあるのです。
そして、イオンになりやすい金属からイオンになりにくい金属に左から順番に並べたものをイオン化列とよびます。


高校ではこのイオン化列をほぼ強制的に覚えさせられますので、銅のほうが銀よりもイオンになりやすいという現象は比較的抵抗なく受け入れられるはずです。

でも、この知識だけで乗り切れるほど現実社会は甘くありません。

たとえば、次の2つの半反応ではFeとSnのどちらが還元剤で、どちらが酸化剤か分かりますか?

Fe3+ + e- ⇄ Fe2+
Sn4+ + 2e- ⇄ Sn2+

イオン化列から考えると鉄のほうがスズよりもイオンになりやすいので、鉄が還元剤でスズが酸化剤になるはずです。

はたして、本当にそうでしょうか?

高校で学習するイオン化列は価数が0の状態の金属が対象であり、今回のようなイオンは対象外です。ですから、分からなくて当然です。

それじゃあ、分かるためには何を学習する必要があるのか?
それが標準電極電位です。


2.標準電極電位が私たちに教えてくれること

標準電極電位は数値が大きければ大きいほど、酸化剤になりたい欲求が高いことを示します。その一方で、数値がマイナスに振れるほど小さいと、還元剤になりたい欲求が高いことを示します。
まあ、イオン化列を数値で表したものなんだと捉えてください。

先ほどの半反応式に、標準電極電位(Eo)を示しました。

Fe3+ + e- ⇄ Fe2+         Eo=0.771V
Sn4+ + 2e- ⇄ Sn2+       Eo=0.154V

FeはEoの数値がSnよりも大きいのでSnに対して酸化剤になろうとし、SnはEoの数値がFeよりも小さいので、Feに対して還元剤になろうとします。

ですから、Fe3+ の溶液にSn2+ を添加するとFe3+ はFe2+ に還元され、添加したSn2+ はSn4+ に酸化します。

逆に、Fe2+ の溶液にどんなにSn4+ を添加しても、Fe2+ は Fe3+ に酸化されません。

このように標準電極電位は酸化還元反応において、酸化と還元のどちらの反応が起きるのかを示す指標となります。


3.参考文献

高校化学の復習用
亀田和久著『理論化学が面白いほどわかる本』KADOKAWA(205~222)

わかりやすいテキスト
G.D.クリスチャンほか著, 今任稔彦ほか訳『クリスチャン分析化学』丸善出版(339~344)
J.N.Spencer著, 渡辺正訳『スペンサー基礎化学』東京化学同人(471~484)