今回は実践編ということで「JIS K0116 発光分光分析通則4.8.4.5」に記載されている方法定量下限(MLOQ)の求め方に従って、鉛の定量下限値を求めてみる。
準備するものは次の2つ。
① 空試験溶液
② 空試験溶液の発光強度の2倍以上の発光強度を与える濃度の測定対象元素を含んだ溶液
複雑な前処理は行わず、硝酸の濃度が0.1mol/Lになるように純水に硝酸のみを加えたものを①とした。
②は「空試験溶液の発光強度の2倍以上の発光強度を与える濃度」がどれほどの濃度なのか見当がつかない。そこで①と同様に硝酸濃度を0.1mol/Lとし、これに鉛の濃度が0.1mg/Lとなるように調整した。
準備完了後、①と②をそれぞれ10回連続で波長220.353nmの発光強度を測定。その平均値と標準偏差を算出し表にまとめた。このとき分析装置のバックグラウンド補正は解除しておく。そうしないと①の正しい発光強度が測定できない。
平均値 | 標準偏差 | |
① 空試験溶液 | 1035.20 | 6.61 |
② 0.1mgPb/L | 1574.17 | 7.36 |
この結果をもとにjisに記載されている次の計算式を用いて、方法定量下限(MLOQ)を計算する。
MLOQ=√2×10×①の標準偏差 / 検量線の傾き
この計算式に測定結果を代入すると
以上より、今回の分析方法では約0.017mg/Lまでの鉛が定量できることが分かった。
ところでMLOQを算出するとき、標準偏差を√2×10倍している。この√2にはどんな意味があるのだろう?
前処理を伴う分析の場合、操作ブランクも並行して分析が行われる。そして操作ブランクと試料を個別に測定した上で両者を差し引いて正味の濃度を求めることが多い。
このとき操作ブランクには操作ブランクのバラツキがあり、試料には試料のバラツキがある。当然これらは無視できないから、正味の濃度のバラツキを求める必要がある。
考え方は両者のバラツキを足し合わせて合成すれば良いのだけれど、困ったことにバラツキ同士は四則演算できない。ところが、二乗すると四則演算できる。
ブランクのバラツキ(標準偏差)を「σb」、試料のバラツキ(標準偏差)を「σs」とする。
すると、正味のバラツキ(σns)は次の式で表すことができる。
このとき σb = σs と仮定すると...
以上より、この√2には操作ブランクと試料それぞれのバラツキを合成する意味があることがわかった。
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