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2022年2月11日金曜日

定量下限値のはなし(1) 分析会社の闇

遠い昔のはなし。

化学分析の仕事に就いた社会人1年生の私は(自称)ベテラン中年正社員から「定量下限値」というものを教わった。
昔のことだから全てを覚えているわけではないが、次の2つのことは今でもはっきりと覚えている。

『定量下限値とは分析会社が保証する最も低い濃度の分析値ことだ。(中略)…だから検量線の最も低い濃度が定量下限値になる。』

 

何を言っているのかよく理解できなかったけど、素直な性格の私はその教えに忠実に従い日々の分析業務をこなしていた。そんなある日のことだ。


(自称)ベテラン中年正社員の指示に従い、濃度の異なる検量線作成用の標準液を4本調整した。その標準液を濃度の低いものから順番に測定したところ、相関係数が0.995未満の直線性の悪い検量線が出来上がってしまった。

検量線をよく見ると最も濃度の低い点が低濃度側にブレている。
私は低濃度側にブレてしまったその標準液を再調整し、再び測定を行った。しかしこんどは高濃度側にブレてしまった。
その後も調整と測定を繰り返したが、検量線の直線性は悪いままだった。

それもそのはずで、検量線の最も低い濃度はピークとノイズの区別がつかないほど低濃度だ。原因が私の標準液の調整ではなく、標準液の濃度設定にあることは明白だ。

素直で真面目な私は設定濃度が低すぎて測定できていない事実を(自称)ベテラン中年正社員に報告し、指示を仰いだ。


(自称)ベテラン中年正社員は答える。

『定量下限値は基準値の1/10の濃度という決まりがある。検量線の最低濃度を変えたら下限値が上がってしまうから、濃度は変えられない。検量線は気合と根性で標準液を何回も測定していれば、そのうち相関係数が0.995以上になる。他の人たちはそうやって頑張ってるんだ。』

 

要するに、『ごちゃごちゃ言わずに作業をしろ‼』ってことらしい。

面倒なトラブルを起こしたくないので、『気合と根性で頑張りまーす』と言って測定室に戻ったが納得したわけじゃなかった。


仕事から帰宅した私は今日の出来事を整理する。

① 測定器で測定をすれば、何かしらの数値は出力される。
② 分析会社はその数値に意味と信頼性を与えることで、お客さんからお金を頂いている。
③ 定量下限値はその数値に意味と信頼性を与えることのできる最小量のことだ。
④ 定量下限値は検量線の最も低い濃度のことらしい。

⑤ そして現在...
検量線の最も低い濃度は設定濃度が低過ぎて測定できない。


つまり...

測定器から出力された数値に意味と信頼性を与えられていない。
それにもかかわらず、お客さんからお金を頂いている。


え⁉...

やばくない?この会社...


-END-


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