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2020年7月15日水曜日

環境計量士のための Point 解説 不確かさ(1)

「不確かさ」に関する設問は「化学分析概論及び濃度の計量」と「計量管理概論」の2科目から出題されている頻出テーマですが、「不確かさ」を解説する書籍はどれも実務者向けの難しいものばかりで、受験生向けの良い書籍が見当たりません。

そこで、僭越ながら低学歴・低収入な底辺派遣社員である私が環境計量士を目指す皆様のために、「不確かさ」について解説してみることにしました。


1.計量値とばらつき

統計学では、ある現象が大小さまざまの大きさで起こることを「分布をする」といいます。

たとえば、料理用の小さじで食塩を1杯計量したときの食塩の重さは、大小さまざまな重さになるので、小さじ1杯で計量した食塩の重さは分布をすると言えますね。

でも、私たち化学分析屋は「分布をする」と言わずに、「ばらつく」と言います。

この「ばらつく」という用語について、JIS K0211 と JIS Z8103 ではそれぞれ次のように定義しています。


大きさがそろっていない測定値の状態。
(JIS K0211)
<注記> 例えば、ばらつきの大きさを表すには標準偏差を用いる。

測定値の大きさがそろっていないこと。また,ふぞろいの程度。
(JIS Z8103)
<備考>ばらつきの大きさを表すには、例えば、標準偏差を用いる。

2.パスタの茹で汁の塩加減

ところで、小さじ1杯で計量した食塩を1リットルの水に溶かせば、パスタ100gを茹でるのに適した食塩水の濃度になると言われています。

小さじ1杯で計量した食塩の重さがおよそ6gですから、食塩水の濃度はおよそ 6g/L です。

でも、小さじ1杯で本当に6gの食塩がきちんと計量できるのでしょうか?

もちろん6gになるときもあるだろうけど、6gに満たないときもあるし、6gを超えてしまうときもあるでしょう。これは水を計量する計量カップにも同じことがいえます。

つまり何が言いたいのかというと、計量した食塩や水の値は必ず「ばらつき」ます!ってこと。そして、このばらつきが食塩水の濃度に影響を与えるので、食塩水の濃度も「ばらつき」ます!ってことを覚えておいてください。

そして、「ばらつき」は必ず生じますから「真の値」というものを我々は知ることはできません。できることは「真の値」が存在するであろう範囲を統計学的に推測するぐらいです。


真の値:ある特定の量の定義と合致する値。 
(JIS K0211)
<注記> 特別な場合を除いて観念的な値で、実際には求められないので、真の値とみなし得る値を用いることがある。

3.ばらつきと信頼

計量した値は必ずばらつくことを理解してもらったところで、こんどは「ばらつき」と「信頼」の関係について考えていきます。

ここに2種類の食塩水があるとします。
1つは1リットルの水に小さじ1杯の食塩を溶かした食塩水で、もう1つは1リットルの水にキッチンスケールで計量した6gの食塩を溶かした食塩水です。

さて、どちらの食塩水のほうが6g/ L の食塩水として信頼できるでしょうか?

もちろん、キッチンスケールで計量した食塩水のほうが6g/ L の食塩水として信頼できますね。なぜなら、キッチンスケールで計量したほうがばらつきが小さくなるからです。

つまり、私たちは日常的にばらつきが小さければ信頼できると評価し、ばらつきが大きければ信頼できないと評価しています。


ここで、話を少し応用してみましょう。

ばらつきの大小が信頼性評価の基準になるということは・・・

ばらつきを数値化すれば信頼性の評価も数値化できる!・・・ということになりませんか?

こうした方法で信頼を評価することを不確かさとよびます。


4.不確かさの定義について

わたしの記憶が確かならば・・・「不確かさ」の定義について試験で問われたことはありません。試験で問われるのは「不確かさの算出方法」です。

とは言っても、今後出題されることがあるかもしれないので紹介だけしておきます。


測定の結果に付随した、合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ
(計測における不確かさの表現ガイド(GUM))

用いる情報に基づいて,測定対象量に帰属する量の値のばらつきを特徴付ける負ではないパラメーター
(JIS K0211)

合理的に測定量に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ。これは測定結果に付記される。
(JIS Z8103)
備考1.  パラメータは、例えば標準偏差(又はその倍数)であっても、又は信頼水準を明示した区分の半分の値であってもよい。

備考2.  測定の不確かさは通常、多くの成分からなる。それらの成分の一部は一連の測定結果の統計的分布に基づいて推定可能で、試料標準偏差で示すことができる。その他の成分は、経験又は他の情報に基づいてだけ推定が可能である。

備考3.  測定の結果は測定量の値の最良推定値であると理解されている。また補正や参照標準に付随する成分のような系統効果によって生じる成分も含めた、すべての不確かさの成分はばらつきに寄与すると理解されている。


非常に難解な文章ですね。

この難解な文章の解読に挑むのも結構ですが、貴重な勉強時間を無駄にしてしまいますから、ほどほどにしましょう。