2020年4月24日金曜日

第70回環境計量士国家試験(環化)問17の解説

問17(第70回 環化)

1~3の正誤判定は高校で学習する内容が身についていれば、それほど難しくないはずです。4と5は多くの人が勘違いするポイントで、特に4は大学で学習する内容ですから、ちょっと正解に至るには難しいかもしれません。


1.
臭素...このネーミングで無臭なわけがない。もちろん臭います。

ハロゲンに関する出題は過去に何度もありますが、臭いをターゲットにした出題は初めてかもしれません。
ハロゲンは頻出のテーマなので、まとめておきましょう。


①ハロゲンの単体はどれも二原子分子なので無極性分子です。
②原子番号を覚える必要はありませんが、原子番号が大きいほど原子半径が大きいことを忘れないでください。
③電気陰性度も覚える必要はありませんが、電気陰性度が大きいほど酸化力が強いことを忘れないでください。
④状態・色・臭いは覚えてください。


2.
会社で「酸素は水に溶けない。」と言ったら、正社員に「派遣社員は溶存酸素量(DO)も知らないのか!」とバカにされました。

酸素が水にまったく溶けないわけではありませんが、1 atm, 25℃ における蒸留水中の飽和溶存酸素量は 8.11mg/L です。こんなの溶けたうちに入りませんから、その水溶液の性質は酸素の影響を受けません。つまり、中性です。

ちなみに、1 atm, 25℃ における二酸化炭素の水への溶解度は 1.45g/L で、酸素のおよそ180倍です。


3.
音の出ないサイレントなオナラを「すかしっ屁」といいます。
サイレントなはずなのに、すかしっ屁を放ってから数秒後には「誰かオナラしたな!」と気付かれてしまいます。なぜならオナラは、熱運動による拡散によって部屋に充満するからです。
水素も窒素も同じように熱運動によって拡散します。特定の場所に凝縮することはありません。もしオナラが特定の場所に凝縮したら大惨事ですよ。


4.
硫酸は2価の強酸ですから、H+ を2個とも放出すると思いたくなる気持ちは分かります。でも、実際は違います。
硫酸はその水溶液中では、次に示すように2回に分けて電離します。

(1段目) H2SO4 → H+ + HSO4- 

(2段目) HSO4- → H+ + SO42-

1段目の電離はほぼ100% 進みます。しかし、2段目の電離が100% 進むことはほぼありません。

したがって、0.050 mol/L の硫酸水溶液の H+ 濃度は 0.050 mol/L 以上 0.10 mol/L 未満になるので、pH は 1.0 よりも大きくなります。


5.
塩酸は酸化力をもつ酸と誤解されることがあります。
たしかに、希塩酸の中に鉄くぎを入れると気泡を発しながら溶けていきますから、誤解してしまうのは仕方のないことかもしれません。この希塩酸と鉄くぎとの化学反応式を書いてみると、いろいろと見えてきます。

Fe + 2HCl → FeCl2 + H2

まず、発生していた気泡の正体は H2 でした。
そして、この H2がどこからやってきたのかというと... HCl から電離した2つの H+ が 鉄くぎと酸化還元反応した結果、生まれたのです。

2H+ + 2e- → H2
Fe → Fe2+ + 2e-

「ほら見ろ!塩酸が鉄くぎを酸化してるじゃないか!」

と思うかもしれませんが、よ~く見てください。
鉄くぎを酸化しているのは、Cl- ではなく H+ です。H+ は自分よりもイオン化傾向の大きい元素を酸化します。


次は、酸化マンガン(Ⅳ)に塩酸を加えみましょう。

MnO2 + 4HCl → MnCl2 + Cl2 + 2H2O

酸化マンガン(Ⅳ)が塩化物イオンに還元されて溶解し、塩化マンガン(Ⅱ)水溶液になります。

Mn4+ + 2e- → Mn2+
2Cl- → Cl2 + 2e-

以上より、塩酸は一般的に酸化力をもたない酸に分類されます。


正解は